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無職になった年、ドライブレコーダーデビューを果たした

確か2018年頃だろうか。
 
悪質ドライバーによる煽り運転で死亡事故があったり
その際、ドライブレコーダーが証拠となったりと
世間ではドライブレコーダーの注目や興味関心が飛躍的に上がった。

 
 
職場では、話題になる前から何人かの同僚がドラレコを使っていた。
それでドラレコ本体やステッカー、実際の映像を見せてもらった。

車好きな人は装備がすごいなぁ…

当時はそんな風に思っていた。

 
車好きな同僚は車を次々に変えたり、パーツを取り替えたり、カスタムしたり
洗車時に力が入ったりしていた。
男性ならではだろう。

 
 
一般の方々がドラレコを買いだした頃
遅らせながら、私も買おうと思った。
同僚は私に言った。

「ともかさんの車はぬいぐるみがあるから、車上荒らしに遭いやすい。」

「ともかさんは360度型のドラレコがいい。」

「ともかさんはディーラーから純正品のドラレコ買った方がいい。」

車に詳しい同僚複数に尋ねると、みんながみんな、そう言った。

 
ドラレコ、と一言で言っても
様々なメーカーが様々なタイプを発売しているらしい。
360度型は全方向撮影だが、値段は高いらしい。
私は車に疎いが貯金が多少ある為
同僚は360度型を勧めてきた。
取り付けや取り扱いも私はよく分からないので
ディーラー純正品を勧めてきたのだ。

 
 
私は半年点検時、ディーラーの方にドラレコを買いたい旨を伝えた。 

「純正品より、イエローハットやジェイムス等でのご購入をお勧めします…。」

 
私は耳を疑った。
ディーラーが純正品を買わせない!?
通常は純正品を売りたいのではないか!?

 
「純正品は……正直、性能が落ちます。他社商品をお勧めします。」

 
私は面を食らった。
ディーラーで複数人に聞いても、答えは同じだった。

 
そんなものなのか…
まぁ、イエローハットでも取り付けしてくれるし、近いからいいか………

 
私はディーラーからそのように言われた後
そのままイエローハットに行った。
ディーラーとイエローハットは1kmも離れていなかった。

 
 
ところが、ドラレコはほぼ完売していた。
売り場にはたくさんの人がいて、店員さんにドラレコについて問い合わせしている。

「ニュースがあってから、問い合わせが殺到しておりまして…。」
「次回入荷日は未定となっております……。」 

 
売り場には入荷日未定と貼り紙に書かれていたし、店員さんが他のお客さんにそう伝えているのが聞こえて、私はガッカリした。
考えることは皆同じだ。

 
我が県は車社会だし
車での死亡事故率は全国上位だし
とにかく運転マナーが悪い。

煽り運転のニュースは他県だったが
自分で自分の身を守る為にも
皆、ドラレコを買うことを決意したのだろう。

 
 
360度型にこだわらなければ、ドラレコも少しなら売っていた。
だが、車に詳しく、私の運転技術や性格に詳しい同僚が360度型を勧めるのなら
私はそれに従いたい。

ネットで購入しても、取り付けは自分でできない。
同僚なら取り付けはできるが
やはり万が一の場合や保障の為にも
お店の方に任せたい。

 
私はいつかイエローハットでドラレコを買うだろうと
ドラレコのステッカーのみ、その日購入した。
私は車用品はディーラーかイエローハットでしか買わない主義だった。

ネコのイラストがかわいいドラレコステッカーをいつか貼る日を夢見て
私はそれをダッシュボードにしまった。

 
 
 

私は当時、福祉施設で働いていた。

私の施設は公用車が10台以上あり
様々な職員が様々なルートを様々な車に乗って業務に当たっていた。

  
自滅事故もあれば、もらい事故もあるし、過失ももちろんある。

 
公用車を運転する際
誰が何時にどの車に何の目的で乗り、誰を乗せたかを手書きで書類に書いた。

運転する前に運転手は車をチェックするルールで
見慣れない傷があったら車担当者に伝え
また、自分が傷をつけてしまった場合も
車担当者に伝えるルールになっていた。

 
だが、何人か報告しない職員がいた。

報告しないんだか、傷に気づかなかったかは分からない。
乗車記録に名前が挙げられた人は疑われ
「俺じゃない。」「私じゃない。」と大抵否認し合い
水掛け論になった。

 
また、上は自滅が非常に多く
自分の非を認めなかったり、気づかないというたちの悪さがあり
私達職員が車を傷つけた場合だけ、こっぴどく怒られた。

「仕事の自覚がない。自分の車は大事に乗るくせに、公用車だと思って雑に扱うのね。」

わざとぶつけた訳ではないのに、ひどい言われようだった。

 
人手不足の我が職場は
玄人向けの狭い見通しの悪い抜け道を走らされたり
片道何十kmも走らされることも当たり前だし
利用者や大事な荷物を載せることも当たり前だ。

 
仕事で疲れている中
走行距離や走行時間が長ければ
それなりに事故が起きる確立は上がるし
もらい事故も多々ある。

 
責められっぱなしは癪だった。

 
 
 
そんな中、2019年のある月曜日の朝、某公用車に大きな傷を見つけた。

金曜日の夕方にはなかった傷だ。
私は利用者をその車に乗せ込み支援をした。
運転手や乗せ込み支援をした他の職員も
こんなに大きな傷を見逃すわけはなく

「金曜日時点ではなかった。」

と、みんなで言い合った。

 
 
乗車記録によると、該当職員は二名。
一人は上司で、もう一人は新人職員だった。

上司「私が乗った時には傷はありませんでした。」

 
新人「私は傷があったかは確認し忘れました。走行中はぶつかった記憶がありません。」

 
みんな、表立っては口にはしなかったが

新人さんがやったのだろう……

と思っていた。

 
 
上司は運転がめちゃくちゃ上手いし、車の掃除を怠らない。
車の異常チェックや傷のチェックは忘れないし
勤務年数20年のベテランだが
事故らしい事故…大きな事故は起こしていない。
仮に何かあったとして
報告はする人だ。

 
一方新人さんは時間にルーズで、ギリギリ出社が多く  
出発前にしなければいけない車の掃除をサボることが多かった。
運転は評判が悪く、スピードを出すし
自滅で車を傷つけたり
利用者が乗っている状態でも色々と前科があった。
ほうれんそうがなく
失敗が多いが、屁理屈で返し
自信満々な開き直り型でもあった。

 
だが、証拠はない。

 
上は施設が休みの時や公用車を使っていない時間帯に
同系列施設に公用車を勝手に貸すことがあった。
その場合、記録に残さない。
上が個人的に乗る時も、記録に残さない。
また、純粋に運転手が記録に書き忘れてしまう場合もある。

 
状況証拠としては、新人職員が怪しい。
だが、本人が「やっていない。」と言い張っている以上
「出勤は余裕をもってしなさい。運転前に掃除をしたり、車のチェックをしなさい。」としか指導はできない。

 
今までも犯人不明の傷はたくさんあった。

だが、さすがに今回は修理レベルだ。
ボディは凹んでいるし、塗装もやられているし、なんといっても傷が大きい。
修理費は何十万もかかるレベルだ。
随分派手にやった。

明らかに、運転手は気づかないレベルではない。
気づかないとしたら
職員失格というより
運転免許剥奪レベルだ。

 
 
 
上「あなたがやったんでしょう?」

  
新人「やってません!犯人だって決めつけるのは人権侵害ですよ?」

 
上「なんですって!?大体あなたは普段から態度が悪いのよ!」

 
毎日朝昼晩と、くだらないやり取りが事務室で何回も行われ、周りは心底ウンザリした。
上からは愚痴を聞かされ、新人からは八つ当たりをされ、周りはいい迷惑だった。

 
うんざりした私と他の職員は、自発的にモニターチェックをした。 
モニターになら、車の傷が金曜夜~月曜朝のいつについたか記録が残っているかもしれない。

 
だが、ちょうどカメラの角度の都合で、傷がついた側の映像は残っていなかった。
逆側しか写っていなかった。
モニターを見て分かったのは、その車に乗った人は上司と新人のみだということだ。
カメラは24時間体制で回っていた。

 
 
上は何十万もかかる修理費が許せず、毎日わめきちらした。
会議をしていた私達の元に乱入し

「あの傷はあの人がやったと思うでしょ?」

と、いきなり言ってきた。
傷が発覚してから一週間が経過していた。
建設的な話し合いをしていた会議が台無しだ。
傷の件は会議に一切関係ない。

 
上の愚痴話を聞く時間はサービス残業だ。 

私は心底ウンザリした。

 
「確かにモニターによると、上司か新人さんのどちらかなのは間違いありませんが、証拠はなく、決めつけになってしまいます。

今後、このようなことが起きないように、ドラレコを公用車につけたらいかがでしょうか?」

 
私はそのように述べた。
一緒にモニターチェックをした他の職員も頷いた。
それがまずかった。
上は怒り狂った。

 
 
「あなた達は犯人を庇う気ね!あの人に決まっているじゃない!
私よりあの人を大切にするのね!私を誰だと思ってるの?誰が給料払っていると思っているの?」

「ドラレコがいくらか分かってるの?支払うのは私なのよ!」

「ドラレコは監視されているみたいで嫌な運転手がいるって、あなたは知らないの?」

「10年も働いていると、すっかり生意気になって。」

 
はぁぁぁ……と、内心ため息を吐いた。

 
 
上は感情型人間で、正論や解決策なんか一切求めていない。
愚痴を聞き、共感し、自分の味方になる職員以外は出来損ないなのだ。

 
だが、経営は感情論だけでは成り立たない。
正職員は時にこうして意見や対策を口にしなければいけない。

モニターチェックをしたことやドラレコを提案したことは
【無駄なことで余計なこと】扱いされ
私達職員はターゲットになり
連日責められた。

 
 
結局、「監視されているようで嫌だ。」という上お気に入りの職員の一意見が採用され
ドラレコは購入されなかった。 
傷は「犯人が分からないから直さない。」と上はふてくされ
そのまま放置され
後に保護者からそれに対して苦情が入り
上は文句を言いながら仕方なく直した。

 
 
その件以降
運転に携わる人は、運転前に念入りに傷をチェックした。
面倒はごめんだった。

例の傷騒動は約一ヶ月に渡った。 

上は自分が気に入らないことがあると毎日朝昼晩場所を問わず職員を叱り、愚痴る性質があり
毎日毎日誰かしら職員を叱り倒した。 
執念深く
傷の件は約一ヶ月、様々な職員を巻き込んだ。
全くもって仕事にならない。

 
 
その後も公用車は気づいたら新たな傷が増えていたが
相変わらず名乗り出ない人は一定数いて
その大半が上だとみんな分かっていた。

 
だが、私達は見て見ぬ振りをした。
飛び火はごめんだ。
私は以前、公用車のタイヤをパンクさせてしまった時(道路にあった尖った物を避けきれなかった)

「正職員のくせに何をやっているんだ!」

と、箒で小突かれてもいた。

 
 
話にならない人とは関わらないに限る。

 
上の話に下手に同調したら
周りの職員や利用者や保護者側を敵に回しかねない事態でもあった。

「ともかさんはこう言っていたわよ!」

ただ話を聞いていただけなのに、上は片っ端から話を盛ってばらまく性質もあった。
それはそれで避けたかった。

 
 
2020年春、私は退職した。

 
 
 
 
 
秋になり、一年点検の時期になった。

コロナの影響でドリンクやお菓子サービスは中止になり、そうした変化に侘しさを感じた。

だが、整備士さんが気さくな方で
「去年も真咲さんのお車を担当しました。あの時、色々話してくれたのが嬉しくて印象的でした。」と言ってくれた。
その方と一年ぶりに話した時間は和やかで楽しかった。
 
 
私は点検後にイエローハットに行き、ドラレコを購入しようと思った。


相変わらずニュースでは悪質ドライバーの話題が多く
いつも決め手はドラレコだった。
スマホにも動画機能はあるが、咄嗟に撮れるかは分からないし、走行中は危険だ。

 
二年ぶりのイエローハットにはさすがにドラレコがピンキリでしっかり売られており
私は「オススメ」「360度」と書かれた物を手に取り
レジに向かった。
取り付けをお願いした。

 
「今日と明日は予約埋まっているんですよ。」

 
私はビックリした。
平日なのに取り付けが当日できないとは。

 
仕方ないので、三日後に予約をした。
その際、「エンジン切ってからも数時間録画するオプションも有料でつけられますが、いかがなさいますか?」と言われ
即お願いをした。

 
友達は車上荒らしに遭い、責任をとらされて仕事をクビになった(仕事データも盗まれたから)。
元同僚は停車中に当て逃げされて、自分で直す羽目になった。
知人もついこの間車上荒らしに遭い、数万円お金や仕事データを盗られていた。

 
…明日は我が身だ。
走行中も停車中も自分で身を守るべきだと思った。

 
現在はコロナ禍で失業率は高く、不景気だ。
こういう時は犯罪率が上がると決まっている。
お金で安全や安心が買えるなら安いものだ。

 
 
取り付け日、私は諭吉さんをたくさん持参した。 
ドラレコに取り付け料を加えると、自分の想像以上にお金がかかった。

取り付けは約4時間かかった。

私は休憩スペースでスマホをいじったり、読書をして過ごした。
ドラレコの取り付けがそんなにかかると思わなかった。
プロでこれなら、素人は何時間かかるんだか。

 
ドラレコの基本操作を教わった後
バッテリーが弱っていることを指摘されたが
ディーラーの方が安かった為
私は次の日にディーラーを訪ねた。

 
つまり
ディーラーで一年点検をした日にイエローハットに行き、ドラレコを予約し
ドラレコ取り付けを後日イエローハットで行い
またその次の日にディーラーに行くことになった。

ディーラーとイエローハットだらけの一週間だ。 

 
…転職活動中でよかった。
予定調整は容易かった。

バッテリー交換の際、ドラレコのステッカー位置を整備士さんに確認し、適した場所に貼り
それで私のドラレコエトセトラは終了した。

 
なかなかに、バタバタした。

  
 
「録画を開始します。」

エンジンをかけると、ドラレコに話しかけられた。
ドラレコが話しかけた後
カーナビが私にうんちゃらかんちゃら話しかけた(メッセージが日替わりで違う)。

 
今はステイホーム中ということもあり
ついつい「はいよ。」「よろしくね。」「カーナビさん、あなた優しいね。」等と受け答えしてしまうことがある。
機械に話しかけられると、地味に嬉しい。
私はそんな孤独感や寂しさをまとっていた。

 
 
ドラレコは毎日頑張っている。
走行中も停車中も真面目に撮影してくれている。

来るなら来い!
返り討ちにしてくれるわ!

私はそんな気分で、今日も車を走らせる。
来るなら来い、と言っているが
もちろん、積極的には絶対に来ないでほしい。

 
元気に家を出発し、元気に帰宅できたらそれが一番だ。

 
 
失業保険で暮らす転職活動中
私はピル、医療脱毛、ドラレコのデビューをした。
ほぼ同時期に、諭吉さんはどんどんいなくなった。

  
お金を稼いでいない身で、何をやっているんだろうと思う自分もいる。

だが、働き出すとお金はあるが、時間はない。
貯金と失業保険と時間がある今だからこそ
私はピルや医療脱毛やドラレコに手を出せた。

私にとっては、今がベストタイミングだったのだ。

 
職場でのあのやり取りを思い出す。

私は上のようにはならない。
自分が正しくルールを守って車に乗ってさえいれば
ドラレコは絶対的な私の味方だ。
監視されて嫌だなんて思わない。

私にとってドラレコは必要不可欠な投資であり、装備であった。

 
 
ドラレコを買ってから数ヶ月が経った。

その数ヶ月間にヒヤリハットは何回もあった。
飛び出しやマナー違反の車が何回もあった。

私はそのたびに、何回も思う。

 
ドラレコを買って、悔いなし。



 

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