見出し画像

ドイツ人の「食べる能力」

ドイツで登山したときに、頂上の山小屋でよく見る風景がある。

老若男女を問わず、まずビールを1本飲んで喉の渇きを潤す。

次にお喋りしながら2本目のビールを飲む。

最後に「エネルギーを補給しなきゃ」とか言いながら、巨大な甘いケーキを食べる。

それで満足して下山する。

ビールとケーキが行き交う山小屋のテラス

「あれ?ビールとケーキだけ?」と思うけど、食事をする人はそれほど多くない。食事しようと思えば、山小屋で提供しているにも関わらず。

日本人の僕としては、お昼ご飯としては物理的に違和感がある内容。でも皆さん、違和感なく満足してらっしゃる様子。

これに限らず、ドイツ人(いわゆるゲルマン系の人たち)と日本人は「食べることに対して、そもそも体質から違う」と感じることが多い。ということで、違う点をまとめてみる。

なお、このテーマは特に「人や家庭によって大きく違いがあるけども」という前提で読んで頂ければ。そして僕の個人的な見方に基づいています。

ドイツ人の食事で優れた能力

(1) 砂糖を消化する能力に優れている

ドイツでカフェに行くと、コーヒーに砂糖を5袋くらい入れているドイツ人たちをざらに見る。

他にも、コーヒーについてきた小さなスプーンに砂糖をザーッと載せて、そのまま砂糖をパクリと食べている人も。日本人が真似すると、あっという間に糖尿病になりそう。

(2) 油分を消化する能力に優れている

バター、チーズ、チョコレート、濃いアイスクリーム、ホイップクリームなど、日本人が食べると胃がやられる量の油分も、平気で消化できる様子。

ところで、ドイツ人の中には、日本人ではなかなか見ないほど横に大きな体格をしている人たちがいる。僕の視点で言えば、あれは「肉をつけることができる能力がある」ということだと思う。

というのも、ごく一般的な日本人の体質である僕が、仮にどれだけ甘いものや油っぽいものを食べ続けたとしても、あれほど肉を付けられることができるとは到底思えない。そもそも肉をつけるその途中で、病気になってしまうと思う。

逆に言えば、彼ら/彼女らがあれだけの肉を付けられるのは、よくも悪くもこの(1)と(2)の能力、つまり砂糖と油分を消化する能力を持っているからだと思っている。お酒が飲める人ほど、お酒で体をこわしやすい、ということと同様なのでは。

(3) 味がないものを延々と食べ続ける能力を持つ

例えば、パッサパサの鳥の胸肉を、ソースも野菜も付け合わせもなしに、それだけずっと食べ続けられる。日本人的には、もっと身に脂身がついていてジューシーであるか、もしくは脂身のある皮がついてないと、のどが詰まってしまう。

他にも、大きなタッパに一杯詰め込まれた、大根・ニンジン・きゅうりなどの野菜を、ドレッシングもマヨネーズも塩も何もつけずに、すべて食べつくすことができる。これってドイツではよく見る光景で、会社のお昼ごはんには、この「タッパ一杯に詰まった野菜」を食べている人たちをよく見る。もしくは電車の中で座席に座りながら、カバンからおもむろにこのタッパを取り出して、昼食を食べ始めるとか。

なぜこのように、一般的な日本人であれば、あまり食が進まないものを平気で延々と食べ続けることができるのか。

この理由はおそらく、ドイツ人は唾液の分泌量が多いからだと思う。

正確には、日本人であっても人によって結構違っていると思っている。例えば、僕はパサパサしたものは苦手で、それよりもうどんとかラーメンとかの汁物を好む。肉もどちらかと言えば脂身の多い方を好む。

一方で僕の奥さんは、パサパサしていて唾液をもっていかれるような和菓子とかでも、平気で食べられる。というかむしろそういう系統の食べ物のほうを好む。

これはたぶん、僕の方が唾液の分泌量が少なくて、奥さんは量が多いんだと思う。つまり、唾液の分泌量の違いによって、好む食べ物も違ってくる、ということだと思っている。

(4) 冷たいものだけで夕食を済まして平気な能力を持つ

ドイツ人は一般的に、お昼ごはんは会社の食堂で暖かい料理をしっかり食べるけど、それ以外の食事は、適当な時間にパンやチーズ、ビスケットやリンゴをちょろちょろと口に入れておけば、それで1日の食事として満足できる人が多い。というか、そういう食文化が浸透している。

そのため、ドイツ人の家庭の夕食は、それなりの割合で「パンとチーズとハムを冷蔵庫から取り出して、そのまま冷蔵庫の前で立ったまま、もしくはキッチンの小さな椅子に腰を掛けて、それらを胃に詰め込む」ことで済ませるスタイルが多い。これは、いわゆるカルテスエッセン、冷たい食事と呼ばれる。

ドイツ人の同僚に「何%くらいの人が暖かい晩ご飯を食べていると思う?」と聞いたら「う~ん、季節にもよるけど、感覚的には20%くらいかな」って。少ないなぁ。

(5) 食いだめする能力を持つ

これは前述の(4)ともリンクしているんだけど、「ドイツ人は狩猟民族だから食いだめができる」という説を聞いたことがある。(狩猟民族と農耕民族の違いという説はアテにならないとは思っているけど)

多くの人は「三食を決まった時間にまんべんなく食べる」ことに意味を見出していない。だから前述のような「お昼ごはん一点集中」が成り立つ様子。

これらの能力が女性の社会進出を容易に

ドイツ人のこれらの「能力」こそが、女性の社会進出が進んでいる一番の理由だと思う。

*男女平等を測る「ジェンダーギャップ指数」の最新版の世界ランキングでは、上位5ヶ国のうち4ヶ国は、いわゆるゲルマン系のDNAをもった人たちが多く住む北欧の4ヶ国(アイスランド、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン)が占めている。ドイツも10位。日本は116位。
*全部で146ヶ国の中のランキング

彼らは、お昼ごはんを会社の食堂でしっかり食べてくるなら、それ以外の食事は全てスーパーで買ってきた調理不要のもので済ませられる。つまり家で調理する必要がない。

逆に日本では、家で暖かい料理や手作り弁当を作る人が多く、その役割を女性が担うことが多いから、女性が働くことの障害の一つになっている。日本人女性が一日で料理関係に費やしている時間をドイツ人同僚に話したら、あまりに長時間で、すっかりドン引きしていた。

ドイツ人同僚
「え・・・朝から暖かいお米を食べて、スープ(味噌汁)を飲んだり、焼いたエッグを食べるなんて・・・一体あなたの家庭では何が起こっているの!?」

って混乱させてしまった。

こういった日本の食事の文化は、多大な手間と時間を取ってしまう。いきおい、その手間と時間が皺寄せとして女性の負担になりがち。

その解決策の一つは、食事の準備を男性とシェアする。ただ、それでも食事の準備に関わる労力はとても大きいから、負担を軽くするにも限界がある。

他の選択肢が、食事を外注する。つまりスーパーのお惣菜やデリバリーに頼るとか、外食するとか。僕の目からみると、日本の外食産業の価格と味は桁違いにレベルが高いので、食事の外注化がいちばん現実的な解決方法だと思う。

逆に日本人が優れている能力は

さて、逆に日本人が優れている能力は何だろうか。

(1) お米を消化する能力

以前も書いたように、一般的にお米の消化能力はドイツ人よりも日本人が優れている。日本人が朝からお米を食べても平気でも、ドイツ人は胃にもたれるからイヤだという人は多い。

そうそう、日本へ何度も出張に来たことのあるスペイン人の同僚が言っていた。

スペイン人同僚
「日本人の食卓には、とってもいろんな種類のおかずが出てくるよね!でも、これらの多種多様なおかずは、全ては『米をおいしく食べるために存在してる』って聞いたよ。日本の食卓ではあくまで米が主役で、他はその引き立て役なんでしょ」

人によるとは思うけど、まあ当たらずとも遠からずか。

(2) 辛い物を食べる能力

さて他にも、平均的にいえば「辛い物を食べる能力」は日本人の方が優れている。ドイツでは、そもそも歴史的に辛い物を食べることがなかった(=辛いものを栽培していなかった)から、と言われている。だからなのか、ドイツ人たちは一般的には辛い物が苦手。ドイツのレストランで提供される「辛いマーク」のついた食べ物は、そんなに辛い物が得意ではない僕でも、楽々食べられる。

因みに、日本人がとても辛い物を食べると、口角を引いて、スー、スー、って息を吸って、辛さを抑えようとしますよね。で、ドイツ人と食事へ行ったときに、彼が辛い食べ物を食べたら・・・顔を真っ赤にして、口を前に突き出してすぼませて、フー、フー、って息を吐き始めた。

「なんで息を吐くの?日本人だと息を吸うんだけど」

って聞いてみたら、逆に

「なんで息を吸うの?辛いものを食べたんだから、その辛い息を吐き出す方が自然だろ」

って言われた。どっちが正解とかって、あるんかなー。

歴史に鍛えられてきたドイツ人の胃袋

しまった、また長くなってしまった。。。さて、最後にまとめを。

現代は世界中で物流が発達したから、世界中の食材が手に入る。陸続きの大陸欧州では、昔に比べると近隣国の食材が大量に流入するようになった。したがって、作ろうと思えば世界中のいろんな食材を使ってどの国の料理でも作ることができる。

でも、それはほんのここ数十年の話。それより以前の食事って、基本的にはその地域で採れる食材でしか作らなかった。つまり人は日常的に、自分が住んでいる気候や風土で採れるものを使った料理を食べてきた。地産地消やね。

現代の我々としては「何を食べたいか」で食事の文化が決まると思ってしまいがちだが、そうではない。「住んでいる地域で何が採れるか」によって食事の文化が決まってきた。

となると、ドイツの食文化を考えることは、つまりドイツではどんな食材を栽培してきたかを考えること。ドイツの多くの地域は、日本の本州と比べると寒冷な気候。栽培しやすいように品種改良されない限りは、採れる食材も限られていた。

学術的に調べたわけではないんだけど・・・、ドイツ人から聞いた話では、数百年前までドイツでは、ほぼ小麦だけを材料にしたもの(パン、ビールなど)で生活していたらしい。

そして近代になってようやく、ジャガイモが入ってきたらしい。ドイツ=ジャガイモばっかり食べる、というイメージがあるけど、太古の昔から食べていたわけではない。

そして第二次世界大戦が終わってから、ようやくぼちぼちと根菜を中心に、ニンジン・大根・玉ねぎなどバラエティーが増えてきた。

更に時代は進んで、ようやくここ最近の30年くらい、つまりベルリンの壁が崩壊して東西冷戦が終わってから、一気に経済のグローバル化が進展。それによってイタリアなど南方からトマト・きゅうり・キャベツ・レタスなどの、根菜以外のフレッシュな野菜が運ばれてきて、スーパーに並ぶようになったらしい。

つまり、ごくごく最近まで、おそろしく野菜のバラエティーが少なかった。

という過酷な環境でずっと暮らしてきた人たちだから・・・、長大な歴史の中で胃袋が鍛えられて、冷たい食事だけで済ませる能力を育んできたのでしょう。僕には真似ができない。

by 世界の人に聞いてみた

この記事が参加している募集

家事の工夫

これからの家族のかたち

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?