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アメリカの競争社会では、スマートドラッグなるものが必須になっているらしい。

「覚醒剤やめますか?それとも人間やめますか?」「ダメ、ゼッタイ」この有名な二つの標語は、薬物乱用防止を呼びかける目的で80年代から90年代にかけて民放連や厚労省が制作したものだ。日本に住んでいる人ならば、一度は耳にしたことがあるという人が多いのではないだろうか。その標語の言葉が示す通り、日本社会では歴史的にドラックの存在は絶対悪とみなされてきたわけだが、一方で、アメリカはというと、その逆だ。今、大学生の間で、ドラッグが日常的に使用されているというのだ。しかも、それはスマートドラッグと呼ばれる、興奮剤で、一時的に集中力を高め、学力向上や、成績アップのために使用されているのだという。もともとは、ADD(注意欠陥障害)や、ADHD(注意欠如・多動症)などの治療薬として、医師の指導のもと、適切な量を投与することで、その効果が発揮される医薬品であったが、次第に、発達障害だと医師の診断を受けていない、一般の大学生の間でも服用されていくようになり、SNSなどでは薬の取引までされているらしい。そんなスマートドラッグを服用する、大学生や、IT企業に勤めているプログラマー、現役を引退したNFLの選手、芸能プロダクションのマネジャーなどに、インタビューを行い、スマートドラッグの意義やその問題についての記録を収めたドキュメンタリードラマが、Netflixで配信されている、『テイク・ユア・ピル: スマートドラッグの真実』だ。ドキュメンタリードラマには珍しく、吹き替えがついているので、字幕が苦手な人でも気軽に楽しめる作品だ。大学生をはじめとする、その他の登場人物たちが、使用している薬品は、アンフェタミンが主成分になっている、アデロールという薬だ。1996年から売り出されており、元々は、オベトロールとい名前だったが、当時、ADDの治療薬として使われていた事に着想を得て、ADDとALLを組み合わせてADDERALLと名付けられた。アデロールの主成分になっているアンフェタミン自体は、以前からも使われており、学生の間で服用されていることが、初めて世間に知れ渡ったのは、1937年にタイム誌に報じられたことがきっかけだった。その薬品、ベンゼドリンは当時、ペップピル(活力剤)という愛称で呼ばれており、戦時中にも兵士や軍人の間で使われていたという。その後、抗うつ薬として使われることになった。チャーリーパーカーやジャック・ケルアック、アンディ・ウォーホルなども使ってらしい。しかし、薬の副作用もあるようで、心臓血管系のリスクや、依存症の恐れがあるのだとか。そのような薬物を頼りに成り立っている社会があると思うと恐ろしい。そして、その土壌をつくりあげている、人たちやシステムが背後に潜んでることを考えるともっと恐ろしい。最近よく見かける「生きづらさ」という見出しや言葉が物語っているように、なぜ、薬を服用しなければならないのか、という事を考えなければ、そこから抜け出すことはできないだろう。そもそも、正常や異常ということは、誰がどうやって決めるのだろうか。「異常」だとわかれば、すぐに治療を進め、「正常」に戻したがる。それを特別な個性だとは決して認めずに… 大江健三郎の『他人の足』はこのようなことが主題にされている。他の人と違うからいいのであって、単一化、平均化された人間というのは味気ないものではないだろうか。アデロールを飲んで徹夜して、次の日も眠れなくなり、睡眠薬を飲む。それでは、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるのと同じ事だ。資本主義社会に生きている限り、人間は商品だ。他人よりも、自分の商品価値を上げ、資本家に自分を労働資本として売りつける。アデロールは、そんな競争社会を勝ち抜く、「げん担ぎ」として、今日もどこかで誰かによって使われていることだろう。


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