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始発

車両が線路を進む音、朝が来る。 生き物の気配が徐々に押し寄せ、予定調和的に昇りゆく陽が、一晩の内に沈み込んだ鈍色の夜を掻き消した。 部屋の中、布団の中、硬直する身体。どんな方法を試せど何ひとつ消え去る事がない。 本時刻に至るまでに得たもの全てが、圧迫され詰め込まれ、膨れ上がった脳内。 それは自身の一部であるが、ここで言う“それ”とはまるでかけ離れた、一つ別物の固体として動き出す。 この世界の刻が止まる事のないように、それがさも当たり前の如く、永遠と続いている。 人、感情

    • この世界はきみのもの

      体内で細胞が弾けていく ぬるくなったソーダ水を置いたまま 私の抜け殻がぶら下がっている 頭の中で音が鳴る 全身を痺れが覆い尽くす 怖くはない ただここにある現象 懐かしい香りがする 鼓動が泡立つ 傾いていく 暗闇へ溶けてく 手を離せばただその隙間へ入り込む 向こう側には誰も居はしない たましいが渦巻く先を見据え 立ち伸びる影を追いかけた 暗闇の中 呻き声がこだまする 張り付いて離れない 足元にある何かを蹴り上げながら 踏みにじりながら 裸足のまま 気が付けばまたここ

      • 彼方

        緩やかに流れてゆく雲は 私をどこへも連れて行かない 体に絡みつく据 煙と湿度に覆われて夜が過ぎて行く 忘れているだけ ただ一時 忘れているだけ 感覚をしまい込んでしまうことへの恐怖 苦しみを覚えていなければ また同じ景色を見る 解き放たれてはいけない 緩やかな地獄が良く似合う 不幸な方が美しい いつか誰かが放った言葉 羽化することなく死んだ蝉を眺める 固く折りたたまれた脚でただ空を眺めている 煩わしい その煩わしさを形にできたら どんなものになるだろう どんな心地

        • Helpless Ⅱ

          幾つもの 呪いという名の御守り 他者から受けたもの 自ら造り上げたもの 日々の中に 私の中に それは有り続ける 呪い お呪い 積もれば積もるほど 奥底には何かが滲む 気が付けば 滲んだ存在さえも掬い取り その全てに生かされている 大切な存在を無下にし 傷をつける毎日 身体と心が苦しいという とびこむとびおりる 遠く遠くへと そればかり 手に触れるような距離で 何かが囁き 言葉を置いては去ってゆく 自らの意思で 目を覆い 耳を塞ぎ 口を噤んで 寄生して

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          a spot

          癖が馴染んだ 拒絶は肌の色になり 元には戻れない 置去りにする曖昧さ このまま生きてはいけない そう分かり切ったことだらけ 感触の無さが霞ませる はりぼてが覆い隠す実態 集る虫の音 腐った手紙 朽ちてく色は皆同じだった 凄惨な夢を魅せてくれ 左腕に口付けをいま

          揺りかごの中

          シャッターに隠されている。 静けさが濃くなる方角へ帰巣本能に従って足早に夜道を走っていた。 生い茂る木々の葉を掻き分けるようにして。 途切れ途切れの夜を超え、朝が来た。脳がずっと動き続けているのが分かる。必要でないこの身が邪魔だ。 錆び付いたように軋む体を動かして、病院に行かないといけない。薬があれば眠れてしまうし、眠ってしまえば何も考えなくて済む。そんな時間が長く続けばいい。 日向の暖かさに束の間の安堵を覚える。身体と心はちぐはぐなまま。どちらも要らない。 内側から

          揺りかごの中

          猫の瞬きの間に

          透明の椅子の上より

          猫の瞬きの間に

          ゆれて

          一日何も出来ず、今はぼんやりと手元を眺めている。 マッチから移った炎がぷつりと音を立て、煙草の縁を紅くゆるゆると燃やしていく様は、なにかひとつの生き物のように感じる。 暗い窓の隅に向かって燻りながら上る煙も、意志を持って動いているのかいないのか、まるで深海を泳ぐ海月みたいだ。 窓から見える桜は変わらず美しかった。毎年毎年、決まった時期に必ず、誰に望まれていようがいまいが、凛と咲き誇る花達。健気で儚くて、かなしいほどに綺麗。 「悲しいから、美しいのよ」 これは私の好きな

          ゆれて

          self mind

          午前五時。気怠い空気を引き裂く、けたたましい電子音で目が覚めた。昨日から身体の調子が思わしくなくあまり眠れなかったので、朝の支度を一通り終えてから床に就いたのだった。 何もしなくても腹が減る。ただ、食欲はあまりないので氷水を作って一口飲むことにした。よく冷えた水はぐんぐん足の先まで広がって、私を満たしてくれる。グラスに触れた指先の色がどこか心地いい。 昨晩から雨が酷かったので今日の空模様は何となく想像出来ていた。打ち付ける雨粒の音が気分をさらに重たいものにする。何もす

          self mind

          残響

          暁を憂う眼差し寒々と 宵の淵から滑る左手 俯けばそこに現る幻よ 濡れ羽の夢に今抱かれん 崩れゆく花を掬う手甘やかに 落下する空鳴り響く哀 ありふれた世界の果てに有る荒野 千切れた本は見当たらぬまま

          ピンクノイズ

           窓の外は明るい闇に包まれていた。変わることのない都心の喧騒を濃いものにする空の色。時に再び呑み込んでしまおうと、真上から降り注ぐ明かり。ぽっかりと浮かんだ闇を見つめていると、どこか視界が歪む気がして、それとなく目を逸らしてしまう。逸らした先にも闇は浮かんでいるから、意味などないのだけれど。  ノイズ混じりの機械的な声が響く車両には、苛立ちと諦めの気配が満ちている。それらはジリジリと肌に侵食して、凝り固まった右肩を更に重たいものにした。自分がどんな顔をしていたか、どんな表情を

          ピンクノイズ

          感触、生臭さを持った温く無色透明のもの

          眠れないので久しぶりにここに来てみる 何も変わることのない空間 私の思考だけが宙を舞う埃のようにふわふわと漂い降り積もっている 古い記憶はどことなく湿気て黴臭い 触れることを躊躇する指先が目に入る 何も書く事がない 暗い部屋でキーボードを打つ手は悴み 水分を失った手の甲が何かを訴えている そう 私はこの状態でも生きてしまえている 穀潰しのように枯れようとも生きていける環境を自ら選び作り身を置いている それはどういうことか 何も考える事ができない期間が定期的に訪れては

          感触、生臭さを持った温く無色透明のもの

          彫刻

          誰にも助けて欲しいと言えない 深夜ひとり汚いからだを引き摺って何も映らない目で何かを見ているただずっと目を開けている 部屋と自分をきれいにすることできない 話すことができない よごれていく よごれている 私から見放された私はなにもできない 寒さで体が震えている ここで生きてくには何したらいいんだっけ いきてくのになにしたらいいんだっけ なんで今私はここにいるのかな あれ、 なにもわからないかも 今風は吹いていないよ 静かだね なにもわからない あれ、ぜんぶわからない なに?

          38℃

          空のバスタブ、鈍い暖色のライト、薄ら黴臭いあひるの玩具、規則的な機械音、ぽつり浮かぶ夕暮れ。 そこに有り続ける物に身を預けて、体の重みを再認識したい。 足を曲げてがらんどうの風呂底に仰向けになってみる。切り取られた空間にすっぽり納まると気持がいい。 つま先から徐々に水位が上がってくるのを待つ感覚は、砂時計の砂が降り積もる様子を眺めている時と少し似ていて、ただひたすら、真剣な面持ちでその時を待ってしまう。 手の平に納まる程の小さな宇宙。 肌へ滑らせると星が散り散りになり、時

          器の証明

          ある人物との対話の中。 唐突に放たれたその一言で、今までこの身が受け取ってきたものや現在の自身とそれが見据える先の根源が何に起因するものなのかを、何となく感じ取る事ができた。 それまで靄がかっていた景色がはらはらと揺らぎ、今は少し違うように見えている。 つまりきっと、その言葉自体がすとんと腑に落ちたのだと思う。 進行形で狭間に立ち鬩ぎ合うものに振り回されてはいるけれど、自身の扱い方をさらに理解していく為には何よりも有益な情報であることに間違いはないだろう。 時は止まらず

          器の証明

          日々の粒子

          窓の外を黒々とした雲が急いでいる。 雨と微かな土の匂い。スコールのきっちり三分前に洗濯物を取り込んだ。 地に突き刺さるような豪雨をベランダで眺めながらぼんやりと煙草を吸う。 気だるさと続いていく日々を思い続けているが、この情景と香りはどこか心地良い。 へどろの様に粘り着いた思考は、何ひとつ洗われることはないけれど。 どこか植物園の亜熱帯ゾーンにいる感覚になる。生命にの生暖かさ満ちたあの空気を記憶でなぞると、いつも見ているこの景色も悪くないように思えた。少し、少しだけ。 昼

          日々の粒子