見出し画像

ゆれて


一日何も出来ず、今はぼんやりと手元を眺めている。

マッチから移った炎がぷつりと音を立て、煙草の縁を紅くゆるゆると燃やしていく様は、なにかひとつの生き物のように感じる。
暗い窓の隅に向かって燻りながら上る煙も、意志を持って動いているのかいないのか、まるで深海を泳ぐ海月みたいだ。


窓から見える桜は変わらず美しかった。毎年毎年、決まった時期に必ず、誰に望まれていようがいまいが、凛と咲き誇る花達。健気で儚くて、かなしいほどに綺麗。


「悲しいから、美しいのよ」

これは私の好きな映画に出てくる大好きな台詞。




でもやっぱりこの時期の夜は肌寒い。足先が縮こまる。ああ、見ない振りをしていた、会いたいという気持ちを急に、でもじんわり感じて、自分が更に嫌になる。

何も無いのがかなしい。自分にできることが何も無い。暮らしが怖い。
本当は忘れたいことなんて何一つ無いよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?