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Big4コンサルティングの歴史 第1話(私が歴史を書く動機・本稿の対象)


コンサルティングの歴史を書く動機

コンサルティング・ファーム※の認知度が日本でも上がっています。大学生の就職ランキングで上位に入ってくるグローバル・コンサルティング・ファームもあり、中には1社で年間数百人の採用を行っている所もあります。

※本稿でいうコンサルティング・ファームとは、McKinsey & CO.(マッキンゼー)、BCG(ボストンコンサルティンググループ)等の戦略系、Deloitte(デロイト)等の会計事務所系、Accenture(アクセンチュア)等の欧米発を中心とした大手コンサルティング・ファームを指しています。

私が大学を出た1990年代末においてはまだコンサルティング・ファームはあまり知られておらず、就職する人も少なかったことを覚えています。その後21世紀になり、日本のコンサルティング市場は拡大を続けています。

ロジカルシンキングやスライド作成等に代表されるコンサルタントの技術、経営分析やプロジェクト管理などに関する書籍も溢れ、コンサルタントを身近に感じられるようになっています。

一方でコンサルティング・ファームの成立ちやルーツはあまり知られていません。コンサルティング・ファームの歴史について一般向けにまとまった書籍やサイトが意外と少ないことが理由の一つだと思います。コンサルティング・ファームはいつ頃誕生したのか、なぜ会計事務所がコンサルティングを行うようになったのか、日本でコンサルティングが始まったのはいつ頃なのか、このような疑問に答えてくれるものがあまりありません。

歴史を知ることでコンサルティングについての理解が一層深まり、コンサルタントを目指す学生やコンサルタントへの転職を考える方々がますます増えればと願います。また、既にコンサルタントとして活躍されている方々にとって、歴史話が少しばかり日々の活力になればとも思います。

本稿の対象はBig4コンサルティングの歴史

グローバルではどういう会社が売上ランキング上位にいるのかご存じでしょうか?少しご紹介したいと思います。

経営やIT分野でコンサルティングサービスを専門にしている純粋なコンサルティング会社は数字を拾いやすいでしょう。一方で、大手会計事務所のように一つの会社の中で会計、税務、法務、コンサルティングといった事業を展開し、コンサルティング分野の明確な線引きが難しい会社もあります。あくまで参考値として見て下さい。

まずこちらは会社全体でのランキング(2019年頃)です。1位のDeloitte(デロイト)や3位のPWCは会計事務所で、主に監査・税務・コンサルティングが混在した売上です。コンサル売上の規模感としてはざっくり三分の一ぐらいで見てもいいと思います。それでも上位であることは変わりありません。

※https://www.rocketblocks.me/blog/top-consulting-firms.php を参考に作成

次にこちらは企業全体の売上ではなく実際のコンサルティング事業売上(2022年)をサイト独自に測定した意欲的なものです。作成者のコメントにもありましたが100%の精度では不可能である点はご了承ください。

※Top 50 Consulting Firms By Revenue In 2022 を参考に作成

このランキングを見ていると、現在Big4と呼ばれている大手会計事務所(Deloitte・PWC・EY・KPMG)、または歴史的にBig4のコンサルティング部門から派生しBig4を源流にもつ会社がコンサルティング売上の上位で存在感を示しているのが分かります。ちなみに太字の会社がBig4もしくは源流がBig4となる会社です。コンサルティング会社を評価する基準は色々あると思いますが、売上規模では会計事務所のコンサルティング部門が圧倒的に強く、その存在を無視することはできないことが分かります。

歴史を遡り過去のランキングを追ってみると、1960年版のランキングが参考になるのでご紹介したいと思います。アメリカのコンサルティングは一般的に19世紀末頃から始まっていると言われています。1960年という年代は歴史的にみてちょうど現在との中間地点にあたります。そのような時期の会計事務所と主要コンサルティング会社の売上です。

Big8会計事務所(1960年当時)のランキング
※会計事務所(監査+税務+コンサル)での売上順

この時代の会計事務所のコンサルティング売上だけを集計するのは難しく、会計事務所全体での売上ランキングとなりますが、最もコンサルティングに力を入れていたアーサー・アンダーセンはこの時期、売上の10%〜20%をコンサル部門が上げていたと言われています。上の数字で言うと、4000万ドルの10〜20%ですので推定400万ドル〜800万ドルというところでしょうか。また、プライス・ウォーターハウスの場合は当時の売上の5%程度がコンサルティング売上だったと言われておりこちらは推定170万ドル~180万ドルとなります。

一方で1960年の主要なコンサルティングファームの売上は次の通りです。

会計事務所のコンサルティング部門とコンサルティングファームの売上を比較するとアーサー・アンダーセンの推定売上400〜800万ドルはコンサルティング業界全体でもトップ3に食い込む勢いがありました。

以上ご紹介した通り現在と過去のランキングからは、コンサルティング業界における会計事務所の存在感の大きさを改めて認識できます。これはコンサルティングの歴史を紐解くうえで面白いテーマの一つになります。

そこで本稿では、アメリカでのBig4会計事務所におけるコンサルティングの成立ちと発展の歴史をメインテーマにし、コンサルティング全体の成立ちや歴史の概観を見ていきます。20世紀前半のアメリカで名実ともにリーダーであったプライス・ウォーターハウス(後のPWC)と、20世紀最大のコンサルティング・ファームとなるアーサー・アンダーセンを中心に考えていきたいと思います。

(第2話以降)

第2話(ファーム誕生編 19世紀イギリス)

第3話(コンサルティング誕生編 1890~1900年代アメリカ)

第4話(シカゴ編 1900~1920年代アメリカ)

第5話(コンサルティング撤退編 1930年代アメリカ)

第6話(コンサルティング再参入編 1940年代アメリカ)

第7話(システムコンサルティング誕生編 1950年代アメリカ)

第8話(番外編 20世紀前半のランキング)

第9話(コンサルティング拡大編 1960年代アメリカ)

第10話(会計部門停滞・コンサル部門発展編 1970年代アメリカ)

第11話(大合併編 1980年代アメリカ)

第12話(コンサルティング部門の切り離し 1990年代アメリカ)

第13話(エンロン事件とその後 21世紀アメリカ)

第14話(日本編)


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