マガジンのカバー画像

まなかい ローカル72候マラソン

71
まなかい… 行きかいの風景を24節気72候を手すりに 放してしるべとします。                                        万葉集        …
運営しているクリエイター

2020年11月の記事一覧

まなかい 小雪 第59候「朔風払葉(きたかぜおちばをはらう)」

まなかい 小雪 第59候「朔風払葉(きたかぜおちばをはらう)」

樅の木を一本買った
毎年ご依頼くださるお客さんのところへ運んで飾り付けをするのだ。

植木問屋さんの樅の木置き場の横には大きな欅が何本か立っていて、樅の木も落ち葉にまみれて、懐のある樅の枝の間にも積もっている。
それも素敵なので、そのまま枝折って包んでもらう。

一晩車に積んでおいて翌朝納品に出発するとき、助手席前のダッシュボード上で動くものがあった。
背中にたくさんの落ち葉を載せた小さな虫が這っ

もっとみる
まなかい;立冬 第58候「虹蔵不見(にじかくれてみえず)』

まなかい;立冬 第58候「虹蔵不見(にじかくれてみえず)』

光と水。

太陽光が空に浮かぶ水の粒を透過するとき。水滴が光の秘密を見せてくれる。

太陽と地球が世界を見るためくれたとしか思えない瞳。

一人一人異なると言われる瞳の虹彩。

目は、無量光のうち、だいたい七色の光の組み合わせが見えるようになっているらしい。

眼球という天体がふたつ。

頭蓋骨の窪みに嵌って、油のような物の中に浮いている。

虹蔵不見

冬、空気が乾いて、空に水が減って虹が見えな

もっとみる
まなかい;立冬 57候『金盞香(きんせんかさく)』

まなかい;立冬 57候『金盞香(きんせんかさく)』

「金盞」とは水仙のこと。

「金盞」の「盞」…「戔」に「薄くて重ねたもの」の意があると『字統』に記されている。水仙の花は、3枚の花びらと3枚の萼に、副花冠が合わさっていて、確かに薄い盃を重ねたようだ。輝くように黄色い薄物の盃と見立てて「金盞」とついたのだろうか。

爽やかで苦味も効いた濃厚なあの香りに、お酒を注いで飲んだらどんな味がするのだろう。

漢名は「仙人は、天にあるを天仙、地にあるを地仙、

もっとみる
まなかい;立冬 56候 『地始氷(ちはじめてこおる)』

まなかい;立冬 56候 『地始氷(ちはじめてこおる)』

温泉が恋しい季節に。

「凍る」は、「こる」で「凝る」とも語根が一緒。液状のものが寄り集まって固まるという意味であるという(『古典基礎語辞典』大野晋編)。趣味に凝るとか肩が凝るのも同じ。固まっているのだから、温めて解凍して、ほぐして気を通わさないと、ということで心も身体も凝固してしまったら、温泉に限る。

まあるい湯船のお湯にたっぷり何回も浸かる。お湯に浸っていると、古代の何か懐かしい感覚が目覚め

もっとみる
まなかい;立冬55候 『山茶始開(つばきはじめてひらく)』

まなかい;立冬55候 『山茶始開(つばきはじめてひらく)』

「山茶」は中国では概ね「ツバキ科」を指すようです。同じツバキ科のお茶も古くから栽培されていたようですから、それに対する名前でしょうか。日本では山茶花(サザンカ)にこの字を使うことが多いですし、立冬前後から開花が見られ、紅葉と合わせて見ることができます。はじめの写真は箱根の庭園で撮ったものです。右側の明るい緑が山茶花です。歌い継がれていく命の歌は、前の命の残響のうちに溢れてきます。

国語の「つばき

もっとみる
まなかい;霜降 54候 蔦始黄(つたはじめてきばむ)

まなかい;霜降 54候 蔦始黄(つたはじめてきばむ)

数年前までは「信濃デッサン館」という名だった。今は「残照館」と名前が変わったが、僕には「デッサン館」が馴染みがある。夭折した画家や詩人らのデッサンを主に収蔵していた。デッサンは素描、「そ」は粗や祖にも通じ、粗いけど、始まりでもあり、素「もと」でもある。その名の通り、彼らの生きた痕跡がザッと光陰の矢のように明滅している。もちろんデッサンばかりではないが、村山槐多、松本竣介、関根正二、野田英夫、小熊

もっとみる
霜降:第52候・霜始降(しもはじめてふる)

霜降:第52候・霜始降(しもはじめてふる)

霜が降りる、霜が置く。

冠雪の便りも方々から聞かれるようになった。北国では霜も降りる頃だ。

東京ではまだ少し先。

育った信州の寒さもあって、小さい頃から大人になっても、霜焼けができた。

指先は全部、耳朶まで真っ赤になって、腫れて、温まると痒かったなあ。

空気中の水分が物に付着して氷の華を咲かせる。

その華が、葉っぱの中から新たな色を揉み出す。それが「もみぢ」。「もみつ」の名詞形。古くは

もっとみる