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書評

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#愛

瀬尾まいこ(2018)『そして、バトンは渡された』文藝春秋



現状を肯定する力、それが生きるヒントなのだろうと勇気をもらえる一冊。奇抜な設定は無く、淡々と過ぎ行く毎日に今を認める力強さを感じられる。

家族のかたちを少し、大きく広げてもいいのではないかという考えがまたもにじみ出ている。いま私たちが求めているつながりってなんだろうか。

西加奈子(2011)『うつくしい人』幻冬舎文庫



再生の物語。関与というよりは不関与によって人がひとり元気になるお話。どこかに希望を求めている社会の空気を取り込んで吐き出したような内容で、要求を受け入れてくれる母性を感じさせる作品。

小説って登場人物の絵がないからこそ読まれつづけるところがあるよなと思ったのと、関与が下手なのに好きな自分にはとても胸に刺さる、頭のいたい物語。ああ、離島のホテルにでも行きたいな。

村上龍(2013)『心はあなたのもとに』文春文庫



大切なものは一瞬である。記憶に残るのはいつだってほんの一コマであって、何度も何度もその場面が頭の中で繰り返される。それが思い出、大切な思い出で、忘れならない悲しい幸せのような大切なひととき。

ずっと変わらない感情は無くて、そのわずかな変化に私たち人間はいつか気づいてしまう。すると、苦しみ悩む。でも、それを忘れたいと思う。対象は変わらなくても、そして対象が喪失されるとこれまたひどく感情をかき乱

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トルストイ著=木村浩訳(2012)『アンナ・カレーニナ(中)』新潮文庫



家族とか家庭とか、愛とか愛情とか、恋の苦しみや結ばれることの悦び、そして愛おしさの潮がもたらす不幸。幸せの裏に、常に見え隠れする恐ろしい何物かを、決して見過ごすことなく書き留めている。

ただそうだとしても、結婚の場面の、あの全てが祝福されたような情景には、心を動かされるしかありえなくて、ただどうしても求めてしまう。
読者の心にも、あの不可解な大きな力を体験させる一冊。

トルストイ著=木村浩訳(2012)『アンナ・カレーニナ(上)』新潮文庫



愛と人間生活の物語である。仕事と家庭と、夢と現実と、そして希望と絶望の美しいまでものコントラストに胸が苦しくなる。頭では分かっていても、心が動くのは止められない。世界と人間とはそんなものであるし、そんなものではないとも思わせてくれる。

生活はまだ連綿と続いていく。これから先どのようなことが起きるのであろうか。分からないけれども、少し楽しみにしておこう。(中巻に続く)

窪美澄(2012)『ふがいない僕は空を見た』新潮文庫



人間はどうしようもないほどに、どうしようもなくて、それでも毎日を生き続けている。食べて、寝て、交わって。美しい毎日を生き続けていく。そんなリアルを描いている。

これほどまでに人間臭く描かれたならば、それはもう汚いとか綺麗とかの話ではなく、ただただ現実の色でそこに横たわっているようなものだ。全てを受け容れて次に歩みだす、その背中を押す一冊。