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書評

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2022年10月の記事一覧

新井和宏・高橋博之(2019)『共感資本社会を生きる:共感がお金になる時代の新しい生き方』ダイヤモンド社

今を犠牲にして蓄財することを良しとするこれまでの資本主義社会ではなく、満ち足りた今を他者と繋がることで実現し幸福に生きる共感資本社会を構想する対談本。特に、食と金という2分野でそれぞれ実践をしている著者2人の語ることであるから現実感があり地に足がついていると思える。

成熟社会にあって、無条件に追い求めればよいものが無くなった現代人に共通する心の病が生きる意味の喪失であろう。本書は今を幸せに生きる

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凪良ゆう(2022)『汝、星のごとく』講談社

どうしてこうにも人間はままならないのだろうか。それでいて、愛おしいのだろうか。人の感情をむき出しに描くことで、この世の中を生きることの現実と希望を指し示してくれる一冊。同時にそれまでの家族の形に縛られない、新しい生き方に向け背中を押してくれる。

夢と挫折と、恋愛と依存と、社会と家族と、近いようでいて同じではないそれらに僕たちは振り回されながら毎日を生きているのだろう。ただその中でも、光る夕星をめ

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逢坂冬馬(2021)『同志少女よ、敵を撃て』早川書房

生きる意味とは何か。戦争という極限状態におかれた人間の心の移ろいを丁寧に描写する中で、少しでもこの問いの核心に近付こうとする物語であった。もちろん答えは得られない。それでも読者は主人公たちとともに歴史の大河を渡りきったとき、一握の勇気を手にしているだろう。

戦争ほど人の人生を狂わせるものはない。奇しくも本書の戦場が、今また現実の戦場となっているこの時代に、我々日本の読者が受け取るべきメッセージは

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NHKスペシャル取材班編著(2012)『無縁社会』文春文庫

全く色褪せない、むしろますます重大になっている社会問題である「無縁社会」。2010年にあぶり出され、流行語にもなったこの問題は令和の時代になっても、孤独・孤立対策が焦点になるなど人々の暮らしを蝕む一大要因である。

誰かに見守られながら生まれる人間が、どうして死に際には誰にも看取られることなく孤独で、時には何か月も発見されずに朽ち果てていることが有り得てしまうのか。人権や人道の次元で到底受け入れら

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