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書評

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2020年4月の記事一覧

窪美澄(2019)『やめるときも、すこやかなるときも』集英社文庫



きっと誰にでもある、人間としての生身の部分。その核心に、幸運にして触れられた誰かとのかけがえのない関係。もちろん決して打算や利己心がないわけじゃないけど、それでも二つの矢印がうまくかみ合ったという奇跡。

そして、もう一つ深く考えるのは、家庭環境のこころや性格を規定する力の強さ。児童虐待の家庭で育つ子どもの発するひかり、異なる生活基盤で育まれた他者の存在への想像力。大きい光、小さい光、様々な光

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見田宗介(2018)『現代社会はどこに向かうのか:高原の見晴らしを切り開くこと』岩波新書



地球という惑星の有限性に突き当たった人類は、未知の存在しない世界で現下の幸福を感じられるような生き方に転換していく。今を犠牲にした経済成長ではなく、今そのものを幸せとして感じられることが新たな局面での生き方だと説く一冊。一端の社会学者の置き手紙になる論考と捉えた。

議論自体は「脱成長」を唱える生物学と社会学の連合体に属する方々の変わらぬ持論であるが、非常に端的に分かりやすくまとまっている。し

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燃え殻(2018)『ボクたちはみんな大人になれなかった』新潮文庫



果てしない名作。人間である以上、避けては通れない、そして大きく乗り越えることも小さくあしらうことも出来ない、自分そのものとして等身大の気持ちで向き合わなければならない唯一のもの、人間関係。

誰かを愛しいと思ったり、親しいと思ったりする気持ちの、不可侵性。時の移ろいにも、誰かの悪意にも、全く揺らぐことのない感情。それを持ち続けている僕らはみんな大人になれず正しさのなかを生きている。尊いほどに。

大久保真紀(2018)『ルポ 児童相談所』朝日新書



罪のない人間が、こんなにも不条理な環境で生きなければならないということに義憤を感じるのは人間の正しい感情の働きであるはずなので、早急な対応を心から求めたいと思います。

そしてさらに言えば、日本は「ケアする人」への待遇が信じられないくらい悪すぎます。社会全体を俯瞰してみたときの給与・報酬の分配の現在の在り方にメスを入れなければこの国の将来は全く無いと言わざるを得ません。