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江部航平
2023年10月1日 15:24
同級生が捕まった。画面越し、唐突な再会だった。まっさきに浮き出た感情は懐かしさで、その感情に引かれるように、警察車両に乗せられる彼の茶色くなった頭を見ていた。帰宅途中の女子大生を誘拐したのち殺害したらしい。いまいちぴんとこなかった。彼が? まさか。 彼は明るくて友達の多い、みんなから好かれてるような子だった。彼とは中学の頃からの同級で、担任とも仲がよく、いつも誰かと笑っていた。彼の高い笑い声
2023年10月1日 15:31
茸沢果子がしんだ。先週に起きた誘拐事件の被害者だった。 彼女とは長い付き合いだった。物静かで髪の短い、一月の雪みたいに肌の白い子だった。好きなものは花と恐竜と靴で、嫌いなものは血の出る映画とトマト、そんな子だった。僕らは六年もの間付き合っていたけれど、結局は退屈な恋愛の果てに別れたのだ。十月のはじめ、切り出した別れ話に彼女は鼻をすすってうなずくだけで、言い終わりに顔を覗いたら、彼女は顔をそむけ
2023年10月1日 15:49
俳優の星野円が自殺した夜、わたしは元彼の部屋でセックスをしていた。外は雨の降るせいで冷えきっていたのに対し、暗く消した部屋の中には熱が篭っていた。 ほくろの多さも、背中にできたぽちっとしたにきびも、太ももにできたみかんのように丸い火傷の痕も、臆面もなく見せることができた。互いにわらい、繋がり合うことができた。 愛することは醜さを許すことだ。においも、癖も、性格も、全て受容することだ。ただその
2023年10月1日 15:52
「ねえ果子。今度駅前にカフェができるらしいんだ。一緒に行こうよ」「嫌。どこにも行くたくない」 ソファに沈む彼女の声は薄く、どこか浮ついた調子だった。ソファから垂れた彼女の腕は白く、二の腕から肘先ときて手指に至る線がなめらかだ。その中を静脈の青が枝を分けていて、彼女はもう人間とは別の、透き通った神聖な生き物のようにも見える。 同居を始めてから彼女は部屋から出なくなった。外に出ようと誘っても、日
2023年10月1日 16:00
金の角を持った鹿が木々の影に消えた。木こりは木漏れ日の当たってきらきらする角の輝きに目を奪われ、木々の影を覗いた。木こりはすぐ、あの角を手に入れたいと思った。けれど、覗いた先に鹿の姿はなく、若い娘がひとり、湖のふちに横たわっていた。やすらかに眠っているらしかった。寝息は優しく、まだ心もとない胸が呼吸のたびにゆっくりと上下していた。「お嬢さん、お嬢さん」木こりは声をかけた。池の娘をほんとうにかわ