江部航平

僕は小説家になります。 罪とか後悔とか、人の暗い明るさを上手く書きたいです

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川人博著『過労自殺』自ら命を断つということ

※本記事はヘビーな表現を含みます。あらかじめご了承ください。 自殺志願者は人の意見を聞こうとしない。 「一人で悩まず相談してね」とか「自殺専用ダイヤルは何番」とか世間の皆さんは自殺を止めようとしてくれるけど、ほんとに死のうと思ってる人は、わざわざ、電話したり、相談したり、しない。「周りに相談できなくて死んだ」んじゃない。相談したくなかった。自分がいなくなれば一番いい、自分の考えが絶対正しいんだって、本気で考え抜いた回答を否定してもらいたくない。否定され続けて、最後に見つけた

    • 波の鰭

       十月も半ばを過ぎていた。〈4分ほどお待ちください〉とアナウンスが流れ、彼は窓の向こうに目をやった。電車は成午海岸で停車していた。そこには人気のない風景が広がっていて、伸び放題の草木に、トタン張りの小屋みたいなたばこ屋、その奥に見える竹林には霧が立ち込めていた。朝の五時、外はまだ夜と朝の混じるせいで青白い。  霧の中に向かって女の子がひとり、歩いて行くのが見えた。形のいいショートヘアに黒のレザージャケット、靴は履いていないらしく裸足のように見えた。彼はちょっと好奇心で彼女の後

      • 生き物メモ10:ダイダラナナフシ

         山より大きな虫。山をまたぎ、街を超え、海を渡る。陸から陸に人を渡すこともある。なににも干渉しない。太古から存在している。

        • 生き物メモ4: ひとまねへび

          ひとに化けるへび。 つづらおばけと同居している。 【ひとまねへびのお話はこちら】 【つづらおばけに関する記事はこちら】

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        記事

          コンプレックス

           酩酊を崩す音に意識が連れ戻される。はやし立てられるように、まどろみの意識は携帯のアラームに揺れた。部屋に差し込む光の色は、0.2グラムの青を含んだ透明な空気に満たされていて、その光の源を目で追おうとして半開きになったカーテンに目がいく。寝起きの頭で寝返りを打った。  背中の重さに押しつぶされるように、一対の羽がシーツと背中に挟まれて存在感を示す。他のこびとはこんなこと気にしないでも良いんだろうなと、どうしようもないことを考えてベッドを出た。  背中に生えた羽。それは見ように

          コンプレックス

          生き物メモ5: こびと

           飛べなくなった妖精。知能が高く、器用な手先でなんでも作る。人と同じ背丈のロボットもつくる。 こびとは石ころ兵とも仲が良く、遊んだり、お古の帽子やヘルムを譲ったりしている。

          生き物メモ5: こびと

          走り書きメモ カンショウタイ

          宙に浮くカンショウタイに触れられないままでいる

          走り書きメモ カンショウタイ

          生き物メモ3: つづらおばけと腕鬼

          葛篭(つづら)に入った子どものおばけ。 普段は葛篭の中から姿を見せないが、時折ご飯を求めて出てくる。また腕鬼(図1)と呼ばれる鬼もこの葛篭の中にいる。 葛篭の中はお菓子のごみや漫画本などで散らかっているが、稀に金の粒を置いている。でどころは不明。 ひとまねへびとも仲が良く、現在は同じ家に暮らしている。 【つづらおばけの出てくるお話はこちら🐟】

          生き物メモ3: つづらおばけと腕鬼

          生き物メモ2: ミスター・スーツサット

          正体不明の宇宙ヘルメット。 彼がどこからやってきたのか、一体何者のか、よくわかっていない。隕石型の石ころ兵(図1)かもしれないし、高次元的な存在かもしれないし、動く生首かもしれない。ヘルメットの中身は誰にもわからない。 【※】スーツサットという名前は“SuitSat-1”という実在したアマチュア宇宙服衛星を参考。このSuitSat-1は2006年に無線機、制御機器などを搭載した宇宙服で、無線衛星として使われていたらしい。 Wikipediaから引用 【ミスター・スーツサ

          生き物メモ2: ミスター・スーツサット

          生き物メモ1: 石ころ兵

          概要 小さいがゴレムのなかま。性格はおくびょうで逃げ足が早い。なまえに兵とつくのは魔王時代(※1)の名残で、発生する環境で(※2)個体ごとに体色や大きさが違う。石ころ兵専門の愛好家が各地に存在する。 魔王時代(※1)  詳細不明。 発生環境(※2)  古い遺跡や古城、川、火山地帯と発生する環境を選ばない。火山地帯ではドラゴン、古城ではゆめみまどうなど、その環境に依った魔物が石ころ兵を作っている。 【いろいろな石ころ兵たちの一例】 石ころドラ 火山地帯に生息する。

          生き物メモ1: 石ころ兵

          普段使いの鞄に防災グッズを入れた話

          『30年以内に大地震が来るんだよ』 そんなこと言われて何年経ったでしょうか。 富士山が爆発して首都圏に灰が積もる、首都直下地震、南海トラフの大津波……聞いただけで具合悪くなりそう。 防災用リュックはすぐ手に取れるところに置いておいた方がいいよ、水重すぎ、カンパンの賞味期限切れてるじゃん、とかなんとか言って、防災対策してるんだか、なんなんだかわからない世間ですが、僕も全くそのひとり、そろそろ腰を据えて、改めて防災に意識を向けて行かなければなるまいと思った次第。防災用リュックは

          普段使いの鞄に防災グッズを入れた話

          ミスター・スーツサット

           ミスター・スーツサットのヘルメットの中身は誰も知らない。中にあるのは隕石かもしれないし、宇宙の神秘的物質かもしれないし、あたまかもしれない。 ……

          ¥700

          ミスター・スーツサット

          ¥700

          ひとまねへび

           いつまで続くだろう?  生活の浅ましさに眩暈がした。スカートのファスナーが壊れてもむりして穿きつづけたり、朝食は六四円の納豆パックとバナナだし、抜け出せない貧乏のつましさを思い知っては自分の小ささが情けない。季節は冬に差し掛かろうとしているのに、帰りの電車窓から眺める景色も、人の表情も変わらずくすんでいる。そのうちの一人に私も含まれていた。 『あの子、ほんとはひとまねへびなんだよ』  ひやりとした。座席に腰掛けた子たちがこそこそ話していた。  人に化け続けるのはほんとに骨が

          ひとまねへび

          パケ買いとブックカバーと本と

          本を買う時があります。 ネットで、本屋で、古本屋で、ふとした拍子に好みの作品を見つけて、うきうきした気分で購入して、自分の部屋でページを捲る時を楽しみに家路を急ぐときのあの高揚感が好きで、昨日、僕はそんな気持ちで本を買いました。昔働いていた古本屋で買いました。 購入したのは太宰治の『人間失格』と『女生徒』の2冊です。 太宰治は文体の印象の暗さもさることながら、たまにクスッと笑わせに来てくれるユーモアのセンスがあって、僕の憧れの小説家の一人です。 『走れメロス』『畜犬談』『

          パケ買いとブックカバーと本と

          趣味としての宗教学

          高校はミッション系、大学は曹洞宗と縁あって宗教について勉強する折がある。 親族に宗教関係者がいるわけでもない。ただ、ふらふら生きていたらそうなっていた。 宗教関係の話はうさんくさいし、怪しいし、詐欺まがいなことが話題にあがりがちだ。 僕も宗教については、趣味として、一種の教養として学ぶに押さえて、熱狂的に信仰しようとは思っていない。胡散臭いと思うのも、怪しいと訝るのも、正直理解できる。 ただ、何も理解しないで頭から『やや、宗教は全て怪しいので悪!』とか決めつけるのは思考の

          趣味としての宗教学

          金の角と木こり

           金の角を持った鹿が木々の影に消えた。木こりは木漏れ日の当たってきらきらする角の輝きに目を奪われ、木々の影を覗いた。木こりはすぐ、あの角を手に入れたいと思った。けれど、覗いた先に鹿の姿はなく、若い娘がひとり、湖のふちに横たわっていた。やすらかに眠っているらしかった。寝息は優しく、まだ心もとない胸が呼吸のたびにゆっくりと上下していた。 「お嬢さん、お嬢さん」木こりは声をかけた。池の娘をほんとうにかわいいと思った。  木こりの声に揺り起こされるようにして、娘は長いあくびをした。

          金の角と木こり