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ひとまねへび

 いつまで続くだろう?
 生活の浅ましさに眩暈がした。スカートのファスナーが壊れてもむりして穿きつづけたり、朝食は六四円の納豆パックとバナナだし、抜け出せない貧乏のつましさを思い知っては自分の小ささが情けない。季節は冬に差し掛かろうとしているのに、帰りの電車窓から眺める景色も、人の表情も変わらずくすんでいる。そのうちの一人に私も含まれていた。
『あの子、ほんとはひとまねへびなんだよ』
 ひやりとした。座席に腰掛けた子たちがこそこそ話していた。
 人に化け続けるのはほんとに骨が折れる。愛想振り撒いたり、相槌うったり、会話のリズムも乱しちゃいけないし、私は気を抜くとしっぽが出ちゃうから、しっぽ出てないか、見た目に気を遣ったり、忙しい。つづらおばけのツウちゃんは、「やめちゃえば良いじゃない?」とか簡単に云うけれど、そんなに生やさしいことじゃないのです。私には好きな人がおりますし、その人と目を合わせたりするのには、人の格好しているべきですし。おすし。
 ああ、お寿司食べたいな。最後に食べたの、いつだっけ。
 ツウちゃんは、たまごが好き。子どもっぽいから私は好きでないけれど、ツウちゃんにそんなこと言ったらきっと拗ねるだろうから、内緒。
 夜風が頬に冷たく、家路を目指す道すがら、私はくしゃみした。

ひとまねへび

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