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(つぶやき小説) 真昼の夜道

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続いたら、私がうれしい。不定期。
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2023年2月の記事一覧

あなたは実家には帰りたくなかった。迷惑をかけてしまうのが嫌だったからだ。家族が気にしてはいないと、そのときはわからなかった。失敗した子ども。愛されていない。どうしてそんなことを思ったのか、わからない。きっと夢を否定されたからなのだろう。夢に気づくのが遅すぎた。(3558日)

家族で雑魚寝した。久しぶりに童心にかえった。童心にかえりすぎて、家族に心配をかけた。物音が気になる。見ているものがまやかしにみえる。食事の味がおかしくなる。夜が怖くなる。つじつまの合わない出来事ばかりだと思うようになる。家族からは理解が得られない。あなたは混乱する。(3557日)

あなたは混乱する頭で考えた。どうにか自分自身が正常であるかの確認をしたかった。どうすればいい? そうだ、日記だ。日記を手書きで書けば、なにも問題はなくなる。日記なら、買い置きのものがあったはずだ。あった。これを書けば、なんとかなるだろう。あなたは束の間の安心を得た。(3556日)

あなたは日記を書き始める。年が変わったばかりなので、日づけの把握はできていた。ひとつひとつ丁寧に書くが、にぎやかしにシールも貼っていった。幼い頃にため、使うことを渋ったシールをおしげもなく貼っていく。あなたにとっては、過去へのリベンジを果たしたつもりになっていた。(3555日)

日記を家族にみられても、あなたはかまわなかった。どうせ日記などは自分にさえわかればいい。楽しければいい。人にみられない前提に書かれた日記など、つまらない。しかし、家族の目にはそういうふうにはうつらなかった。正常というのは年相応という意味なのをあなたは理解しなかった。(3554日)

両親はあなたを病院へ連れて行く。別にかまわない。あなたは両親を立派だとわかっていた。両親はあなたを病院のベッドに寝かせることをしなかったからだ。普通の家庭なら、したであろう。それほどまでに、あなたの状態は悪かった。あなたはそのことに気づいていた。だから、苦しかった。(3553日)

病院から帰宅後、あなたはねむりつづけた。なにも面白いことはない。今まで面白かったことにも興味をもてない。いや、興味はあった。あったけれども捨てた。なぜだろう。あんなに大事にしてたのに。あんなに大切にしてたのに。どうして捨てた。そうか、夢があったからだ。だから捨てた。(3552日)

捨てるときに選ばなかったのだ。それで間違えた。あなたは手段を間違えた。あなたが一番最初に捨てたのは、自分自身だった。あなたは、あなたを傷つけることを平気でやった。あなたは、あなたを傷つけるすべてに噛みついた。若さで言い訳できるレベルを超えていた。とんでもない馬鹿だ。(3551日)