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ただの世界の住人11
同僚の秋津は、あの日ー世界からお金がなくなった日ーにさっさっと会社を辞めて、畑のある家を見つけ引越した。なにしろ、敷金や礼金、家賃もないのだから、持ち主との合意さえあれば、好きな場所に引っ越せるのだ。
いや、そもそも、これからは「持ち主」という概念さえ危うくなっていくかもしれない。経済的、はっきりいえばお金のやり取りがそこに存在しないのだから、なにかを所有するというメリットもデメリットもなくなる
【小説】ただの世界の住人⑩
いつものように、コンビニで競馬新聞を買う。いや、とる‥盗るではなく、取るだ。
お金がこの世からなくなって、すでに1週間はたったけれど、それはなかなか慣れない作業であった。
好きなものがなんでも手に入ったらいいのにと思ったこともあったが、いざ現実になってみると、それは不思議すぎて、馴染むには少し時間を要しそうだ。
小腹も空いたので、カップ麺も取る。レジに向かおうとしたが、必要ないので、カップ麺
【小説】ただの世界の住人⑧
僕は、原口涼太。26歳。
Ryoという名前でソロで音楽活動をしている。といっても、なかなかプロになるには道は険しい。今は、コンビニでバイトしながら、路上でライブしたり、たまにイベントで歌わせてもらったりしながら、地道に曲づくりに励んでいる。結構本気で取り組んでいるつもりだけど、こう書くと、ほとんど趣味に近いな‥と自分で思う。
今朝、世の中からお金がなくなるらしいニュースが流れて、街はなんだか騒が
【小説】ただの世界の住人⑦
「あ、なら、このパンあと一つ買います」
そういって、その女の人は、レジの途中で、パンコーナーから、ひとつパンを持ってきた。
この人は、たまにくる。赤ちゃんを連れてるけど、結構若そう。ちゃんとお母さんやれてんのかな?とふと思ってします。
「ありがとうございました〜」
いつもなら、袋いらないです。と自分のバッグに押し込んでいたのに、今日は、ビニール袋をちゃっかりもらって行った。
ちゃっかり‥
【小説】ただの世界の住人⑤
わたしは、秋津みどり。22歳。
結婚2年目で、子どもは1歳9ヶ月。今押しているベビーカーで、すやすや眠ってる。
地元の誰でも入れてくれるような短大を卒業とほぼ同時に結婚した。お腹には、この子がいたから。
旦那さんは、7歳年上のサラリーマン。
収入も安定してる。ま、優しいし。
目的もなく短大に通うわたしをみていたうちの親は、一番手堅い就職先を探してきたと、おそらく安心したに違いない。
自分で