記事一覧
【交換小説】 #待ち時間7
伊藤は先程までの涙や謝罪の言葉もなく、何事もなかったようにカップラーメンの汁を啜っている。
一体なんなんだこいつは?
「冷めてるけど、うめー!」「若い時はさ、余った汁でご飯食べたもんだよなー」
こいつはなにをほざいているのか?
あの時レジで滞りなくカップラーメンを買い、ホテルへ戻り、部屋で食べているならばその感想もいいだろう。しかしいまこの状況でそのカップラーメンの感想は違和感でしかなく、
【交換小説】 #待ち時間 5
「 Kill him !!」
眉毛に殺せと命じたのか?殺される?抵抗?無理な話だ。レジであの理不尽な待ち時間にすら抵抗出来ないこの俺がどうしろというのか?レジ待ち同様、このあり得ない状況を打開する努力もせず、殺されるのを待つのみ。情けない。自分の命は残り1分もないだろう。それと…出るならいまだろ!走馬灯!先走りの走馬灯め…倒れこんだ景色から見えるのはアスファルトに落ちた砂浜のサラサラとした砂のみ
【交換小説】#待ち時間 3
トランクの中から、エンジンがかかる音が聞こえ、車は走りだした。エンジン音に混ざりながらラジオからうっすらと聴こえるハワイアン。本来ホテルでカップラーメンを出汁を啜っている筈なのに。体が震えている。まさか常夏に来て寒い思いをするとは思いしなかった。日本を経つ夜、CSで放送してたレザボアドッグス。荷造りしながら観てたけど、トランクに閉じ込められた警官のシーンとほぼ同じ状況だ。真っ暗なトランクの中、胎児
もっとみる【交換小説】#行きつけ 1
いつもマスターのお任せコースを注文している。コースの内容は串10本、お茶漬けかおにぎり、最後に抹茶のアイスで締め。コースの値段は2600円。マスターは所謂、無口な人。料理人というイメージにしっかり収まっていて、客に安心と好感を一瞬で生んでいる。油を扱うお店ではあるが、カウンターから見る厨房はピカピカでいつも綺麗だ。なによりメレンゲを活かした衣がこれまで食べてきた衣の食感とはまるで別次元で、一見さん
もっとみる【交換小説】#味付け 2
「はい、これ飲みますか?」
そこには久枝の兄の同級生で、この病院に勤めている高橋先生が立っていた。兄は二つ年上で、先生は子供の頃よく家に遊びに来ていたそうだ。母の入院初日に声を掛けられた久枝はその時すぐ誰だか思い出せなかった。
「お母さん。お悔やみ申しあげます。」
と先生も硬い椅子に腰掛けた。久枝は渡させた缶珈琲のお礼を言った。二人は黙って珈琲を飲んだ。久枝は静寂に包まれた廊下で飲み込む音が
【交換小説】#待ち時間 1
レジに並んで既に5分経過した。カップ麺、その一点を買おうと並んだこのレジ。私の前に並んでいる人は女性たった一人。なのに、もう5分経過している。普通ならレジでお金を払い終え、ホテルに戻り部屋で湯を沸かしている筈だ。レジの女店員と、前の女客が、知り合いであることはわかる。が、少しお喋りが過ぎませんか?私は列島から遥々、海を渡りし観光客ですよ?あなたのお店も観光客無しでは成り立たないことを知っているだろ
もっとみる