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読んだ本についてあれこれ語るマガジン

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2023年4月の記事一覧

ハイデガー「存在と時間2」(1927年)

ハイデガー「存在と時間2」(1927年)

いよいよ本編に入った。
現存在というのは、人間のことだ。
つまり本書は人間についての考察。生物としての人間ではなく「私」や「あなた」のことだろう。
まずは問いをはじめるにあたって、言葉の定義を延々と続けている。このあたりはイーロン・マスクが「なにかをはじめるときに、根本原理から考える」というのと似ている。

ハイデガーが考察をはじめるまで、人間の定義は「神と人間」の関係において語られてきた。そこで

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矢野利裕「学校するからだ」(2022年)

矢野利裕「学校するからだ」(2022年)

それなりの期間を生きてきた人は、自分というものを持っている。著者もそうなのだが、彼は批評家という立場でもあるのであって、そういう意味では感覚を言葉にする技術にはたけている。

そんな彼が教師という立場から、学校というものを批評する。教育論、というのとは違う気がする。いろいろと語られているが、おもしろいのは、そこにいる人たちについての描写だ。

この本の中で試みられているのは、やはり相手もそれなりの

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山本周五郎「菊千代抄」(1950年)

山本周五郎「菊千代抄」(1950年)

菊千代抄を読んだ。
1945年に第二次世界大戦が終わった。
この小説が発表されたのは1950年。
小津安二郎の「東京物語」は1953年。
なぜここで俺「東京物語」を持ち出すのかというと、戦争を引きずった作品だからだ。
菊千代抄は、武家の物語だ。最近のトレンドであるLGBTがテーマでもある。
敗戦後、時代の空気は重かったのだろうか。もしくは、終戦後、ある種の開放感があったのだろうか。
菊千代が江戸に

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カフカ「審判」(1915年)

カフカ「審判」(1915年)

不条理というカテゴリーが適切かどうかという疑問はあるけれど、やはりカフカはおもしろい。

カフカ本人がモデルであろうKが、ある日突然訴訟に巻き込まれる。わけのわからないまま、Kは現実に対応しようとするが、そもそも理屈のわからないではじまった事態に、現実的に対応できるわけもない。

大雑把な骨組みをみると、これは「変身」や「城」にも似た構造なのがわかる。
カフカにとって現実は得体の知れない不気味なも

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