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記事一覧
[ショートショート] トラネキサム酸笑顔と僕の出会い
ある日、見知らぬ女に「トラネキサム酸笑顔」と言われた。
「何ですか?」
俺がそう聞き返すと、女はニヤニヤと笑うばかりだった。
腹が立ったので無言で立ち去ろうとすると、女が僕の腕を掴んでさらにこう言った。
「だから言っているでしょう。虎猫サムさん、笑顔って」
恐ろしくなって女の手を振りほどこうとしたが、思った以上に彼女の力は強くて、僕は逃れられなかった。
女は僕を引き寄せると耳元でこう囁
[ショートショート] 春とギター:底無しの欲望
目を開けると野原にいた。
ヒラヒラと蝶々が飛んでいく。
うまそうだなと思った。
ゆくっり立ち上がると少し目眩がした。
あっちで少しどんちゃん騒ぎやりすぎた。
私の名前は春。いまそう、ここにこうして生まれたばかりだ。
音が聞こえてきたので私はそちらへ向かった。
人間がいた。
人間は弦楽器を持って声を出していた。
私はこれが “歌” というやつだと知っていた。
我々が奏でるものとはだいぶ違
[ショートショート] オバケレインコートの思い出
中学三年生のころ、好きになった男の子がいた。
彼はいつも丈の長いジャケットを制服の上から着ていたので、オバケレインコートと呼ばれていた。
たいていの時間、彼は読書をしていた。
私にはそれがとってもクールでかっこよく見えたんだ。
彼は探偵ものをよく読んでいた。
私もこっそりそのシリーズを図書室で借りて読んだ。
共通の話題を探していたんだと思う。
ある日、私は思い切って彼に話し
[ショートショート] レトルト三角関係:マスターは天手古舞
増員の必要が出たのでレトルトを一体発注した。
非戦闘地区に配送されるので取りに行かねばならん。
一人で行くつもりがレトルトSPが付いてきてしまった。
女性型のすばしっこい個体なのだが…。
「マスター、前方に敵。射ちますか?」
「あれは敵じゃないぞ、ネコちゃんだ」
「マスター、地雷です。破壊しますか?」
「あれは牛糞だ」
そう…彼女はポンコツ。戦闘能力だけバカ高いポンコツなん
[ショートショート] デジタルバレンタイン:旧人類の奇妙な習慣
考古学研究を趣味とする僕は、いつものように旧人類の残した画像データを漁っていた。
それは人類が仮想現実に拠点を移行する前のもの。数万年も前の情報である。
旧人類は物質世界に囚われた不自由な暮らしをしており、娯楽といえば口から有機物を入れて尻から出したり、お互いの裸を舐めあって遊ぶことくらいだったようだ。
そんな彼らの暮らしを見るのが僕の趣味だった。
今日発見した動画はかなり衝撃的
[シロクマ文芸部] チョコレイトのようにとけだしてさ
チョコレイトのようにとけだしてさ
君って海みたいだねって波になる
・・・
これは私の友人のfamilyslowの歌の始まりです。
今週の「シロクマ文芸部」のお題「チョコレート」を見て、真っ先にこの歌が思い浮かんだのでした。
聞くと体の力が抜けちゃう魔法のようなハスキーボイス。
ふわっとしてどこまでも優しい。でも何となくアンバランスで不安定な詩の世界。ゴールはないけど着地しちゃうみたいな。そう