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創作小説

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創作と書いておけば、何を書いても良いのではないかと思いまして
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#私

404  / 創作

404 / 創作

暫く連絡を取っていなかった、地元の友人が死んだ。セキュリティがそこそこに厳しい高層ビルに関係者として忍び込んだ彼は、警備員の静止を振り切って非常階段からするりと身を投げたのだという。小中高と同級生だった彼のことは私もよく覚えている。都会へ出るなり、小中高と同じ所に通っていた人の話をすると大抵都会の人間は目を丸くしたが、私が住んでいた片田舎の狭いコミュニティでは決して珍しいことでは無かった。
何かに

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できたてのバランス / 創作

できたてのバランス / 創作

厚焼き玉子を焼く。キッチンペーパーに含ませた油を器用にフライパンに塗って、卵液を少しずつ広げて焼く。私一人で食べるならそれが焦げてしまっても、見た目が悪くても構わない。でも人と食べるとなるとそれは別で、形が崩れないように、焦げ付かないように、少しずつ焼く。
切り分けていくと大抵端の方は小さくなって、盛り付けてもあんまり可愛くない。
両端をふた切れ、ひょいと摘んで二人で食べる。昨日の厚焼きは " や

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夏の影 / 創作

夏の影 / 創作

午前五時の街の傾き具合、砕けた雲の風体も秋。
いの一番に蝉が鳴くなり、順を追って羽ばたいてくる鴉は、揃いに揃って蝉を食う。

だいぶ外も明るくなってきた頃だと云うのに、蝉達は街灯の明滅から離れない。温い波長を発する其れを何時までも昼間だと信じている。街灯の金網に挟まれて尚、飛ばんとする蝉達。一心の羽ばたきをもって零れを喰らうことが出来るのは五匹のうち一匹と言ったところで、残りの個体は小鳥の腹の中へ

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夏を殺す / 創作

夏を殺す / 創作

" 夏を殺しにいこうよ " 

と呟きながら毎日外に出る。荷物になるからというシンプルな理由で小銭も水分も持たない。昔から代謝だけは良いから全身から汗が吹き出してきて結局は夏に殺される生活を送っている。

周辺の公園は夏休みということもあって 大抵は中高生に占拠されている。オープンな環境なのにどこか閉ざされた場所のように思えるのは私も大人と目されているからなのだろうと思う。

私は夜道の上でだいた

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