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お宝箱

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後でじっくりと読みたい、読み返したい、手元に置いておきたい作品たち💝
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2021年7月の記事一覧

彼女まで50cm、ロードムービーみたいな夜に

彼女まで50cm、ロードムービーみたいな夜に

早田が、俺の隣で泣いている。

量販店が建ち並ぶ国道。
県をまたいでも特段の変化はない。
利便性と画一化が仲良く手を繋いで、笑いながら個性を潰しにかかっている。
まるで心躍らない風景。

「私、ってダサいよね」
タオルハンカチを握りしめた手を、左右の頬に何度となく押し当てながら早田は言った。
「そうかな」
「そうだよ」
「失恋したら誰でも泣くんじゃない?」
「瀬口君でも?」
「泣くと思うよ」
「そ

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24.あなたは、しあわせの杖を持っていますか?

24.あなたは、しあわせの杖を持っていますか?

「幸せの杖」

三十年前の話。私は新宿駅の構内にいました。当時私はこの構内で歩いている人を見ながらデッサンの練習をしていました。モデルがいて止まったままのデッサンではなく、人が歩いている通路や改札口が中心で、人の動きを瞬時にとらえて、スケッチブックにスケッチをします。最初の頃は何人かの友人と一緒に描いていましたが、やがて皆は止めてしまい、いつのまにか一人で描くようになりました。
この訓練は、とても

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14.じい、じい。ぼく助かるよね!ぼくを助けてくれるよね!ねえ、じいじい…

14.じい、じい。ぼく助かるよね!ぼくを助けてくれるよね!ねえ、じいじい…

「蘇った人」

先日、私の母に電話が入りました。
「市役所のものですがお尋ねしたいことがあります・・」
「はい・・」
「あなたの住まいの事で確認したいことがあります。住所は○○○で良いですね?お名前は○○さんでよろしいですね・・」
「はい・・」
「現在、年金はおいくらですか?」
「え・・」
母は一瞬、変だなと思ったようです。市役所からの確認ならば、年金の額など知っていて当たり前だと思ったからでした

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