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核なき令和になってほしい

昭和の問題が解決されないまま平成が過ぎて令和になった。

沖縄基地問題のことや憲法改正のことなど、令和は多くの重要な物事が変わる時代になるだろう。

憲法を改正しても、日本は核武装はしないでほしいと思っている。

昭和では広島長崎原爆が投下されて多くの犠牲者を出した。

平成では福島第一原発が事故を起こして、多くの住民が避難を余儀なくされた。

日本は核によって2度も大きな被害に遭った国なのだから、令和では核武装する、というようなことにならないでほしい。

最近、一部の政治学者の間で徴兵制の導入核武装論が唱えられ、一定の支持を集めている。また、1機100億円するというステルス戦闘機を去年と今年あわせて104機、アメリカから購入した。それでも国防にはまだまだ不充分であるという声が、一部の有識者からはあがっている。

原爆投下の被害に遭い、原発事故も起こした日本がもしも核武装したら、世界からは、日本はよほど核が好きな国だと思われるだろう。

皮肉はいいとして、最近の政治学者たちの言論を読んでいると、核武装論もただの空想で終わるとは限らないなと、不安に思う。

形骸化した憲法9条を改正して、新たなもっと現実性のある憲法をつくったとしても、それが即、戦争に結びつくわけではない。憲法が戦争を防いでいるのではなく、戦争をしない判断をするのは政治家と国民にかかっている。

反対に、核武装したからと言って、日本の安全が保障されるわけでもない。核兵器に頼るより外交術を高めることの方が、安全をつくれるかもしれない。

だいぶ前の話になるが、カリフォルニアで新聞記者の通訳をやったことがある。その朝日新聞の記者は、サンタクルーズ大学で犯罪学が専門の教授にインタビューをするために通訳を必要とした。記者が教授に訊ねたテーマは「最近の日本の若者は人を殺さなくなった」という、いささかセンセーショナルなものだった。

戦前、戦中、戦後と、日本の若者の犯罪率は高かった。しかし平成になってから、日本の若者の犯罪率は著しく低下した。その理由は、日本に戦争がなくなったからである。つまり平和な国になると、若者が人を殺さなくなる。戦争と犯罪率の因果関係を教授に分析してもらいたい、という内容を通訳することになったのだ。

サンタクルーズの教授は、記者の質問を根底からひっくり返した。

そもそも日本に戦争がなくなったという捉え方が間違っている、と教授は言った。

「日本に戦争がなくなったのではなくて、日本は戦後、あらゆる努力によっ戦争を回避してきたんだよ。戦争とは、まるで最近あの人を見かけないね、といったような感覚で、ないねとか言うものではないんだ。日本が終戦を迎えた1945年以来、世界のあちこちで紛争は絶えなかった。朝鮮戦争もあったし、ベトナム戦争もあったし、湾岸戦争もあった。ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争もあったし、ツチ族とフツ族の大虐殺もあった。イラク戦争だってまだ続いている。でも日本はあくまで自国の判断によって、それらに介入しないことを決めただけなんだ。だから戦争がなくなったという言い方は、そもそもするべきではないんだよ」

そう言う教授の言葉に、記者はかなり困っている様子だった。「最近の日本の若者は殺さなくなった」というのが、会社から決められた記事の方向性だそうで、認識を根底から覆そうとする教授の見解に困惑しながらも、記者はどうしてもその方向性でインタビューを引っ張らないといけないらしかった。同じ意味の質問を言葉を変えて繰り返してくる記者に対して、教授がだんだん苛立っていくのが分かったので、私は通訳として双方の気持ちをなだめながら会話を仲介した。

テーマも方向性も事前に決められているのなら、そもそもインタビューをする必要があるのかと、私は内心、疑問に思った。教授の意見を自分の記事内容を強化するためだけに借りに来たつもりなら、記者にとってはずいぶん予想外の展開になっていたはずだ。もしも教授の意見によって考えが変わったならば、自分が筆者なのだから、記事内容を変えても良いのではと思ったが、そうはいかないようで、会社のお抱え記者という仕事の窮屈さを当時の私は垣間見た気がした。

結局、意見は最後まで嚙み合わないままインタビューを終えたが、さようならをする段階になって、記者と教授が同い年であることが分かり、そこで二人は互いの世代に共通する話題を見つけて盛り上がった。二人が若い頃に流行った映画スターの話や、肩が張ったデザインのスーツの話など、明るい会話と笑顔でその仕事を締めることができて、私はほっとしたのだった。

今でも折にふれてあの時のインタビューを思い出す。

官邸前デモで「戦争法案、絶対反対!」と唱えている人たちを見ると、それは本当に戦争法案と呼ぶのか?と思うし、憲法9条がそこまで信頼できるものなのかと疑問にも思う。現に、9条2項がありながら、ステルス戦闘機を100機も買えているのだから。

反対に、徴兵制や核武装を提唱する学者たちに対しても、同じことを感じる。核武装がそんなに日本の安全を保障できるものなのか? 核武装するにあたっては、世界中の国々を説得できるだけの充分な言説を持たないといけないし、すでに関係があまり良くない周辺国から、警戒されないためのあらゆる策を講じないといけない。最高度な外交術が必要とされるはずなのに、核武装、核武装と安易に唱えている有識者たちを見ていると、「戦争法案、絶対反対」のプラカードを掲げている人たちと、私にはどこか似ているように見えてならないのだ。

令和がどのような時代になるか分からない。けれど、私たちひとりひとりが、努力と熟議によって平和を創っていく時代にしていきたい。

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