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Aldebaran・Daughter

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ファンタジー小説『Aldebaran・daughter(アルデバラン・ドーター』
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ファンタジー小説『Aldebaran・ Daughter』【執心篇10】斜光で欠けゆく鋒鋩(vs水の蟹)後半①

ファンタジー小説『Aldebaran・ Daughter』【執心篇10】斜光で欠けゆく鋒鋩(vs水の蟹)後半①

「エリカ殿、属性付与を頼む」

 声をかけられた彼女は、左斜め後ろへ振り向いた。いつもと変わりないオリキスの表情を見て、不安が少しほぐれる。

(早く、行動に移さなきゃ)

 今回の敵に関しては出だしが狂うと、先制攻撃を仕掛けても悪い流れで戦闘を開始することになりかねないという説明はされていた。

 うかうかしていたら水の蟹が振り向いてしまう。
 エリカは腹を括り、深く息を吸い込むと、バルーガに右

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ファンタジー小説『Aldebaran・Daughter』【執心篇9】斜光で欠けゆく鋒鋩(vs水の蟹)中盤

ファンタジー小説『Aldebaran・Daughter』【執心篇9】斜光で欠けゆく鋒鋩(vs水の蟹)中盤

 バルーガを先頭に据えて一列に並び、幅が二人分くらいの細い通路のなかを進む。最後尾に居るエリカは前に居るオリキスにぶつからないよう、間隔に注意して歩く速度を調節。
 だが。それ以上に、気になるのは。

  ドン!……

     ……ドン!………、

   ドン!……

 ……ドン!………、

 出入り口に辿り着くまでの歩数は、目で見た感覚では二十歩。近付けば近付くほど、巨大な重石を落下させるよう

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Aldebaran・Daughter【執心篇8】斜光で欠けゆく鋒鋩(vs水の蟹)前半

Aldebaran・Daughter【執心篇8】斜光で欠けゆく鋒鋩(vs水の蟹)前半

***

 作戦会議を開いた日から、五日が経過した。水の蟹に勝てば、潮の胃袋へ入るのは今日で最後。来る用事ができても素材集めくらいだ。

 三人は火の妖精を倒した際に見つけた蟹の紋の上に立ち、瞬時に別の小部屋へ移動する。広さと天井の高さに変化はないが、艶のある壁を一目見て、先ほどより硬質だとわかった。

「ねぇ、」

 エリカは、部屋の隅に置いてある木箱を発見。右手で指差しながら口を開く。

「あ

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Aldebaran・Daughter【執心篇7】窮屈な言葉がたなびく

Aldebaran・Daughter【執心篇7】窮屈な言葉がたなびく

 火の妖精と戦った日の翌朝、エリカは上半身が筋肉痛になっていた。弓を使った攻撃に力を入れすぎたことが原因だった。

 疲れ果てているのではないか様子を見に来た二人の騎士は彼女から話を聞き、拳を作るのも難しいとわかって、水の蟹と戦う日を延期。まともに動けるようになるまで最低五日はかかると予想した。
 しかし、安静に過ごしながらオリキスの作った薬膳スープを飲み、ヒノエ新聞に迷惑をかけないようにとバルー

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Aldebaran・Daughter【執心篇6】始まりの裾を炙る(vs火の妖精 後半)

Aldebaran・Daughter【執心篇6】始まりの裾を炙る(vs火の妖精 後半)

 床に落ちてる壊れていない矢を拾えば攻撃を再開できるが、実行するには火の妖精と距離を詰めなければならない。

「オレが行く」

「ごめん、お願い」

「上出来だ。気にするな」

 判断に迷って困惑しているエリカにバルーガは声をかけ、一人で向かう。

「!?」

 気絶が解けた火の妖精は、閉じていた瞼をぱちっと開けた。現れたのは金色の目に、凸凹した縦線の黒い瞳。
 バルーガは即座に危険を察知し、近付

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Aldebaran・Daughter【執心篇5】始まりの裾を炙る(vs火の妖精 前半)

Aldebaran・Daughter【執心篇5】始まりの裾を炙る(vs火の妖精 前半)

 三人は合流して潮の胃袋へ入り、梯子を下りて地面に足を着ける。
 バルーガは左斜め後ろに立つエリカのほうへ顔を向けると、革製のガントレットを嵌めた右手の親指で自分の顔を差した。

「今日はオレたちも戦う。広間へ着くまでのあいだ、おまえは退がって力を温存しろ」

「何もしなくていいってこと?」

「そうだな。一度に四体以上を倒さなきゃいけなくなったら加勢してくれ」

 エリカは目を丸くし、バルーガの

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Aldebaran・Daughter【執心篇4】砕かれて咲く

Aldebaran・Daughter【執心篇4】砕かれて咲く

     『彼らに救いを求めれば、
      シュノーブも
      助かるのではありませんか?』

 オリキスとその弟サラは、織人たちの支配から解放してくれる英雄が近隣の国に現れたという噂話を城内で耳にし、ヴレイブリオンに提案したことがある。

「正義と優しさは相性が悪い」

 森を抜けて段々畑が見える草原へ出るとオリキスは立ち止まり、陽の光を受けながら、七年前に父親から返された言葉をそのま

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Aldebaran・Daughter【執心篇3】燻る悔恨、手折ることなく

Aldebaran・Daughter【執心篇3】燻る悔恨、手折ることなく

 空は暗く、吹雪で視界が悪い。
 三人はそれでも必死に前へ、前へと足を進めた。

「おい、兄貴!居たぞ!」
 青年の左側を歩いていた弟が前方を見て指差し、喜び、叫んだ。雪が薄く積もった石畳の上に、まだ息のある国王がうつ伏せの状態で、倒れている。
 治癒魔法を使えば、一命を取り留めることができるはず。三人は顔を見合わせて頷き、いままで以上に急ごうと足を進めた。

「君たち、良い所へ来たね」

「!?

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Aldebaran・Daughter【執心篇 2】泳ぐ鳥は谷底へ向かう

Aldebaran・Daughter【執心篇 2】泳ぐ鳥は谷底へ向かう

 オリキスの縫い付け作業が終わった。
 三人は防具と武器を装備して岩礁地帯へ向かう。
 今日の目的は【渦を調べて、潮の胃袋を探索すること】。

「危険を感じたら引き返すぞ。いいな?」

 出発前。バルーガは眉間に皺を寄せて、二人にそう言った。
 魔物が現れる場所へ行くとき、各々が自由行動に走ったら危険度が増す。誰かがリーダーになって率先しなければならない。
 良くも悪くも、好奇心旺盛なエリカは論外

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Aldebaran・Daughter【執心篇1】瞼を閉じて淀みの花を啄む

Aldebaran・Daughter【執心篇1】瞼を閉じて淀みの花を啄む

 遺跡で話を聞いてから、九日目の朝を迎える。

 最低限の防具は揃った。
 エリカには鎖骨の辺りから腹部までを防御する胸当てと、肘の手前まで長さのある手袋を。
 バルーガには見習い騎士に支給される物と遜色ないベスト、ブーツ、ガントレットの三点セットだ。
 どれも革製だが、耐久性はまずまず良い。

 オリキスは追加で、エリカが履いているブーツとバルーガの新品ベストに、妖精語の呪文を縫い付けることにし

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Aldebaran・Daughter【閑話】変容する眼

Aldebaran・Daughter【閑話】変容する眼

 渦の下見を終えた日の翌朝。オリキスはエリカの家で、二人に回復薬の作り方を教えることにした。
 三人は台所へ集まり、道具と素材をテーブルの上に並べる。

「君のご両親に感謝だね」

「お役に立てて嬉しいです」

 バーカーウェンにある素材を使った回復薬の調合レシピも、翼竜は書物に残してあった。

『これを読めた君は、資格のある者だ。
 何の?と。
 わかっているだろう?』

 早く遺跡の試練に合格

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Aldebaran・Daughter【閑話】夜に陽を捜す

Aldebaran・Daughter【閑話】夜に陽を捜す

【注意書き】
ちょっぴり甘め、ちょっぴり性的な視点を含んでます。苦手な方はUターンしてくださいませ。
本編の裏話ですので、読まなくても支障はありません。

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 某日の夕方、オリキスは村長の家に招かれ、手渡された民族衣装に着替えた。軽装という面では、此処での普段着と同じ。
 違いがあるとすれば二点。
 白い生地に、鳥と植物の華美な刺繍が施されている所。
 明

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Aldebaran・Daughter【17】嘲りが誘う深奥の懐へ

Aldebaran・Daughter【17】嘲りが誘う深奥の懐へ

 夕方。
 バルーガはオリキスの家を囲っている柵の内側に立ち、遺跡で無し首族と戦うことになった場合を想定した作戦会議を行う。

 --ベロドの墓場に居る類いと同じか?
 --特殊な技や魔法を使ってくる可能性は?
 --見た目だけで判断するなら、無し首族のなかでもレベルは低い。
 --槍による物理攻撃を仕掛けて来るだろう。接近戦へ持ち込むには?

 標準型の情報は持っている。例外でも共通点はあるはず

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Aldebaran・Daughter【16】遮音は千切れる前に(後半)

Aldebaran・Daughter【16】遮音は千切れる前に(後半)

 バルーガは、キララの森にあるエリカの家に案内された。

「あ、おはようございます」

 玄関前でエリカと出会す。彼女は口元に笑みを浮かべて二人に挨拶。左手には赤色、黄色、ピンク色で揃えた小さな花束を持っている。

 まさかちんちくりんが翼竜なのかとバルーガは面食らい、オリキスを壁にして後ろのほうから様子を窺う。

「ミヤさんが昨日大怪我をしたって報せが、今朝入って。これからお見舞いに行くところな

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