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#アメリカ文学

“The Swimmer” John Cheever

“The Swimmer” John Cheever

カーヴァー、ブローティガン、アップダイク•・・。少し昔のアメリカの小説家が、全般的に好きである。
今回はそんな私のお気に入りのアメリカ人作家達の一人、ジョン・チーヴァーの、素晴らしい短編小説を一つ紹介したい。
『泳ぐ人』という題名で翻訳もあり、映画化もされている作品だ。

*****

真夏のある日曜日。昼過ぎの高級住宅街。
ネッドは友人宅のプールサイドでくつろいでいる。
もう若くはないもののまだ

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『インディアナ、インディアナ』 レアード・ハント

『インディアナ、インディアナ』 レアード・ハント

不思議な読み心地の小説だ。
人物の相関関係や物語の流れがなかなか掴めず、中盤までは読み進めるのがややしんどい。

何人かの人物が登場するのだが、彼らが何者なのか、どういう関係なのか、いまいちはっきりしないまま、幻覚や回想や手紙で構成されていく。読む者はそれらに書かれる断片的な情報から、彼らが何者なのかを想像しなければならない。
その作業がやっかいで挫折しないともかぎらないので、読む方がいたら手助け

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『奇跡の自転車』 ロン・マクラーティ

『奇跡の自転車』 ロン・マクラーティ

中年デブッチョの「ぼく」ことスミシー・アイド。
スミシーにはべサニーという美しい姉がいたが、ベサニーは精神を病み、長い間行方不明になっていた。
姉から「フック」という愛称で呼ばれていた少年時代のスミシーは、痩せて、川釣りと自転車を愛し、いつも走っていた。だが今の彼は、だらけた生活を送る巨漢の独身43歳だ。

そんなスミシーは、ある日突然、両親を事故で失ってしまう。
葬儀の後、スミシーは両親宛の郵便

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『壁の向こうへ続く道』 シャーリイ・ジャクスン

『壁の向こうへ続く道』 シャーリイ・ジャクスン

ごく平凡に見える世界が、近寄ってよく見てみたら、とんでもなく異常な世界だった。
そんな、「ほんとは怖い普通の世界」を描いて異彩を放つ、じんわりホラーの旗手シャーリイ・ジャクスンの長編小説。
長編小説、しかも群像劇ということで、シンプルな構成の短編小説が多いジャクスンにしては珍しいタイプの作品だ。

時は1930年台。カリフォルニア州郊外の小規模な住宅地が物語の舞台であり、そこに住む人々が登場人物で

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『ささやかだけれど、役に立つこと』 レイモンド・カーヴァー

『ささやかだけれど、役に立つこと』 レイモンド・カーヴァー

カーヴァーの作品は端正だ。
真昼の陽光が全ての像をくっきりと照らし出すように、彼の乾いた筆致は、名もなき人々の人生のそこはかとないおかしみや哀しみ、また悪夢をも描き出す。
その端正さゆえに、それが悪夢である時、彼の作品は衝撃的に残酷なものになる。
突然運命に牙をむかれ、なすすべもなく打ち砕かれる主人公たちは、同じくなすすべもなくそれを目撃するしかない読者の心に、衝撃的に焼き付くのである。

それぞ

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