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福祉士養成課程と中退の話

▼こんにちわ。先日、『福祉士養成課程とメンタルヘルス:実習というリスク』というページで「ドロップアウト(留年や中退)」に少し触れましたので、本日は福祉士養成課程におけるドロップアウト事情をお話しさせていただこうと思います。「学生さんはこうすべき、ああすべき」という内容ではなくて、ただただ教員が途方に暮れるという内容です😮‍💨😮‍💨😮‍💨 しばしお付き合いくださいませ🍀


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▼現在、福祉士養成課程では大学、短大、専修学校を問わず、教員がよほどの世間知らずでない限り、また、教員がよほどの身のほど知らずでない限りは、正当な理由なく学生さんをバッサバッサと積極的に退学させることはありません。この点、福祉士養成課程に在籍しておられる学生さんはご安心いただければと思います。もちろん、学校秩序の紊乱(びんらん)、犯罪、飲酒運転などは「正当な理由」に該当しますので、念のためご注意を⚠️⚠️

▼学生さんの中退事例は、残念ながら結構あります。例によって1クラスを30人としますと、毎年だいたい2~3人前後が自主的に退学されます。福祉士養成課程は、クラス内で競争があって基準に満たない学生さんが淘汰(とうた)されていくという性質のものではありません。それにしては、中退率約10%は多すぎる数字です。

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▼学生さんが自主的に中退される理由には、以下のようなものがあります。

▼その1。実習に何度も落第してしまう場合があげられます。実習に落第された場合、ふつうは再実習をしていただきます。実習施設さんは、年間をとおしてさまざまな学校から実習生を受け入れておられますので(そのための年間受け入れ計画があるのが普通です)、そこに無理をお願いして入れていただくことになります(他校の学生さんと一緒ということがよくあります)。

▼実習は、なにぶん外部の機関にお願いすることですので、落第された理由にもよりますが、再々実習を頼みにくいのが現状です。そして、再々実習にも落第されて、学校や教員の現有能力では万策尽きたと判断した場合は留年をお勧めすることがあります。再々実習のケースですと、通常授業の出席日数・回数が足りなくなるなど、その年度のスケジュールを消化できなくなることが多いです。

▼その2。欠課時数超過や落第した科目数が多すぎる場合があげられます。欠課時数超過については、超過分を補講しなければなりません。また、落第された科目については、少なくとも専修学校では科目ごとに再試験をします。大学で再試験をするという事例を耳にしたことはありませんが、ひょっとすると現在の大学(とくに平成以降にできた大学)は再試験をしているかもしれません。

▼欠課時数超過や落第された科目の数が少なければ、リカバリーの可能性は高いです。しかし、傷口が修復不可能なほどに広がってしまっている場合は、やはりその年度内で補講や再試験を消化するスケジュールが事実上破綻してしまいますので、留年をお勧めすることになります。

▼その3。家庭の事情(経済的困窮、育児、親の介護、ヤングケアラー、ダブルケア)があげられます。これは、大学や短大、専修学校でよくみられる問題です。教員が問題として覚知する段階では、すでに問題が深刻化していることが多いです。とくに、生活課題が複合化している場合や、いわゆる「多問題家族」の場合では、教員にできることなどは微々たるものでして、また、スクールソーシャルワーカーを配置している学校でも、率直に申し上げてあまり効果はみられていません。

▼したがって、学生さんとご家族、ご親族が生活を維持するためには学業を放棄するしかなく、学生さんご本人にとってさぞ悔しかろうとお察ししますが、やむを得ない現実的な自己決定であるといえるでしょう。

▼その4。クラスになじめない場合があげられます。一般に、学生さんは高校を卒業されるとそれまでの友だちが散り散りになって、大学、短大、専修学校ではほとんど真っ白の状態から新しい友だち関係を形成しなければならなくなります。しかし、入学初期に取り残されたり、逆に専修学校などではクラス制という濃密な人間関係がアダとなって、クラスになじめず中退される事例があります。

▼大学、短大、専修学校では、入学後、最初の数週間の手探り状態を我慢できれば、自然に話し相手ができます。教員一同も、それをサポートしつつ、誰かが取り残されていないかを注意深く観察しています。最近は、大学でも、入学初期の対人関係形成に取り残される学生さんが生じないように、1年次からなんらかのゼミナールやクラス形式の授業形態を採り入れているところが多くなっています。

▼その5。期待していた学校生活イメージとの乖離(かいり)があげられます。これは、福祉や介護に対するイメージではなくて、学校生活に対するイメージです。小中高という、がんじがらめの教育から解放されて自由になったはずがそうじゃなかった、そして、その期待に学校や教員が応えられなかったような場合です。

▼ほかの学部、学科に進学した同級生は自由なキャンパスライフと青春を謳歌、なのにわたしは・・・ 辞めたくなる学生さんがあらわれるのも無理はありません。そのいっぽうで、簡単に取得できてしまうような資格は社会的価値という面でさきざきの展望に欠けるわけで、資格のお話はまた別の機会に取り上げるとして、教員としては「楽にしてあげたい⇔それだと国家資格の意味がなくなる」というジレンマがあります🌧️🌧️🌧️

▼その6。期待していた職業イメージとの乖離があげられます。これには、いくつかのパターンがあります。そして、これらの各パターンは非常に大事な、貴重な動機だと思うんですが・・・

①高校などで「あなたはやさしいから福祉や介護に向いている」「あなたは子どもが大好きだから保育士に向いている」という進路指導を受けて入学された後、実際に現場を見て幻滅されるパターン。
②学生さんになんらかの心的外傷体験がある、またはこころの病気があって、ご自身の体験や経験を活かしたいという動機から入学され、そのような現場ではないことに幻滅されるパターン。
③対人援助職は他人にやさしく、人格的にもすぐれているだろうから、自分もそのような人がいる職場だったら働けそうだという動機から入学され、実際は違うことに幻滅されるパターン。

▼専門職や関係者以外の方は、介護や福祉の業界を頭では理解しても、身内の事情以外で介護現場や福祉現場に触れる機会はきわめて限られています。また、たとえば重度心身障がいのある方々が暮らしておられる生活施設なども、一般の方が日常的に触れる機会はありません。理念としては、触れる機会がないという状態は決してよろしくないのですが、それが現実です。

▼そのため、学生さんが実際の介護場面や施設の実情を視覚、聴覚、嗅覚を使って体験すると、強いショックを受けられることがあります(リアリティショックといいます)。介護系、看護系の先生方は「介護とはそのようなものだよ」と丁寧にお教えするわけですが、現場を体験されたときに「これは私にはムリ」という学生さんがおられます。

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▼このように、さまざまな理由から学生さんは残念ながら中退されていきます。こうした学生さんの多くは、留年ではなく中退を選択されます。というのも、学生さんが留年されると2つの大きな負担が加わるからです。

▼一つ目は、留年されると下のクラスに編入されますので、とくに留年が長引くと、毎年新しいクラス環境にいちいち適応しなければなりません。これが、学生さんにとっては相当の精神的負担になるようです。

▼二つ目は、学費の問題です。留年されると、当然学費がかさみます。学籍を置いておくということは、学費を納めるということでもあります。ご病気など、学業よりもさきに解決すべき生活課題がおありのような場合は、留年ではなく休学という選択肢もアリかもしれません(そちらのほうが学費が安く済むかも→学則に必ず示されていますので調べてみてください)。

▼教員は「待つ」ことも仕事の一つですから、何年かかっても学生さんの生活課題に寄り添いたいところですが、いかんせん学校には修業年限と学費という現実的な大問題があり、中退せざるを得ない学生さんがおられるのは残念で、教員の力不足を感じざるを得ません。

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▼教員のメンタルがいちばんこたえるのは、突然なんの前触れもなく退学届を提出し、さっと辞めていかれる学生さんです。実習をそつなくこなし、成績も優秀で、な~んの問題もないと一方的に思い込んでいたところであっさり中退、という事例を数回経験しました。

▼「突然なんの前触れもなく」というのは、ただ単に私がそう思い込んでいただけです。つまり、私にはそれが見えていなかったということです。そのたびにひとり反省会が始まり、学生さんのちょっとした一言を受け流していたり、一笑に付したりしていたことを確実に発見するのです。いま思い出しても慙愧(ざんき)にたえず、完全に私の指導力不十分です。

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▼さいごに、意外に多い中退の理由を一つあげておきましょう。それは恋愛関係の破綻です。専修学校はクラス制のため、他学科、他学年があったとしても、濃密な人間関係に包まれています。そのなかで、学生さん同士の恋人関係ができ、在学中にそれが破綻すると双方が居づらくなりますし、周りの学生さんも気をつかいます。

▼学生さん同士の交際に関しては、もちろん教員は不介入です。また、(意図せず)妊娠したので中退という事例も経験していますが、これも教員は不介入です。未成年学生の学外での飲酒事案が、なぜか大学の責任にされる時代ですから、学生さんの恋愛や意図せざる妊娠も、そろそろ学校の「管理責任」が問われるような予感がします・・・

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