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#幻想小説

起きている螺旋、或いは眠る螺旋

起きている螺旋、或いは眠る螺旋

起きている螺旋、或いは眠る螺旋

 宇宙の中に、渦巻く螺旋があるでしょう。そこの真ん中からももちろん、生まれおちるものはあるのだけれど、寧ろポイントは螺旋が螺旋なるときに起こる摩擦で、そのエネルギーから生命は発生する。回転が始まり、その回転は周囲に介在するものを手当たり次第に巻き込んで大きくなり、徐々に力を増していく。そうして廻っている間に、ぶつかり合ってこすれて、ぽろぽろと生命を発生させる。って

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追いつかない女

 英美里は足が速い。

 特に陸上競技をやっていたわけでもない。そういった選手と較べれば当然負けるのだが、その無気力な見た目よりもずっと速い。とても追いつけない。気づけば距離を離されている。

 シーツの中に身体が沈んでは浮き上がる。息をついては吸う。終わりが近いようで遠い。このままでいたいような、早く解放されたいような。もういい、と思いながらももう、ずっとこの緩やかな退屈さの中にいたい、ような。

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ある日記 1

 いつものことながら空は紫色だった。そしてどこか甘い匂いがする。空から匂いを感じるなんておかしいと我ながら思うけれど、空からは匂いがする。土の匂いがするように、空の匂いがする。胡椒のようにスパイシーに香る日もあればナッツのように香ばしい日もある。そう言うとコーヒーにうるさい人みたいだねと笑われたが、今日はザラメのような甘い匂いだ。綿菓子でも作れそうだ。
 子供のころからこうだった訳じゃない。ある日

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