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『珈琲いかがでしょう』人生とか珈琲とかって、どろっと苦い。

今は平気だけど。

昔、母がちょっと具合が悪くて2階で休みたいと

言った時。

うん、いいよ。ゆっくり寝たら治るよって

いいながらも、

自分から休みたいって言わない人だったから

このまま母がどうかなってしまったら

わたしは一人になってしまうとかなんとか

心細い気持ちになって。

ひとり心がぽつんとしてしまったので、これは

鼓舞せにゃあかんと思って、コーヒーを淹れる

ことにした。

落ち着こうと思ったのだ。

その頃、観ていてとりこになった映画のことを

想いだしていた。

しろいぽってりとした陶器のドリッパーを

棚の上から出してくる。

映画の中でとってもおいしそうなコーヒーを

入れるシーンに憧れていたせいだ。

それにつられてしまった。

フィンランドで日本食の「かもめ食堂」を始める

サチエさんが主人公(小林聡美)の映画。


この映画は、おいしそうにコーヒーを淹れるシーンが

印象的だった。

ほのかにチョコレートの香りのする豆をひいて

もらったのをうっかり忘れていて、それを

みつけだして、わたしはパックを開けた。

ほんのすこしだけぜいたくしたい時に寄る

チョコレートショップで買った。

甘いチョコフレーバーのするコーヒー粉

だった。

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わすれていたものに気づいて、

みつけた! って思う時、ちょっと得した気分に

なるから、忘れるっていう行為もそう悪くないなって

思う。

じぶんの言った言葉を忘れてて、後からあなた

そんなこと言ってたよって聞かされる時に似て

新鮮になる。

じぶんのようでいて、まるでじぶんでないような。

コーヒーぺーパの中に挽かれた豆をさらさらと

あずけて、お湯を注ぐ時のあのしゅんしゅんした

ケトルの口からこぼれるあの音は、コーヒーの

言葉だ。

そしてそれはまるでイントロだなって。

コーヒーの粉の上にのの字を描くといいって

言うのは知っていたけど、この映画では

ちょっとしたおまじないの言葉をつぶやく。

それをやってみた。

たちまち甘い香りがたちこめて。

湿ってゆく度に香りを放つこの瞬間、漂ってくる

空気の甘さってなんなんだろうって思いつつ

あたたかな気持ちに充たされていた。

香りって、たちまち至福をつれてくる。

ふいに1時間もしないうちに、母が2階から

降りて来た。

温かい春の日差しに囲まれた部屋ぜんたいが

チョコの香りがしていたせいか、

甘い匂いで目が覚めたよって笑った後で。

寝てられんよ! って。

そりゃそうだ。

甘い匂いで母を起こしてしまったみたいだった。

ちょっと横になったら元気になったよって、ご機嫌

さんだった。


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小林聡美が演じるサチエさんがフィンランドで

はじめた日本食の食堂『かもめ食堂』を開いていたら

日本のマンガ好きのフィンランドのおじさんが

やってきて、おいしいコーヒーの淹れ方を教えて

くれる。

ドリッパーにフィルターをセッティングしたら

粉の真ん中あたりに人差し指あてて

コピ・ルアクって

まじないを唱えるんだよって。


うさんくさい話なのかなって思っていたら。

コピ・ルアクはインドネシアの最高級の豆で。

インドネシアにいるジャコウネコ「ルアック」が

ちゃんと甘くなるコーヒー豆だけを選んで、食べる

習性らしく、お腹の中でうまく精製されてゆくらしい。

そのコーヒー豆で作られたコーヒーは格別なんだとか。

その味を聞きつけた人達が、ルアックを乱獲したせいか、

その映画の中でも貴重になってるらしいって語られていた。


そしてこの映画『かもめ食堂』をみたのは

ずいぶん前の話だけれど。

映画と同じ、荻上直子監督の新ドラマ

『珈琲いかがでしょう』が始まったので、楽しみにしている。


またまた「コピ・ルアク」の貴重な豆が先週

ふたたび登場していてあの映画を思い出していた。

このドラマ、まったりカフェの話かと思っていたら、

カフェはまったりなのに、キッチンカフェカーの

オーナー青山一を演じる中村倫也の過去が

アラブコーヒーみたいにカップの底にどろっとした

粉が沈殿してるような人生を送って来たひとで。

訪れるひとには、安寧を与えるのに、青山一

危ういバランスでいつも微笑みながら、コーヒー

を点てるところが興味深い。

そして、あの日。

母が甘いコーヒーを飲みながら

「人が淹れたコーヒーってなんで美味しいの?」って

言うから。

『かもめ食堂』って一緒にみたっけ? って聞いたら。

いいや! って否定されて。

なんで? って言うので。

だって、同じセリフをフィンランドのね、おじさんが

言うのよ。

だから、観たのかなって。

言うと。

フィンランドでも日本でも食べるものに関しての

想いは一緒でしょ。

誰かが作ってくれたご飯とか、お茶とか美味しい

でしょ。

これからもちょくちょくコーヒー淹れなさいねって

リクエストされた。

母が、思いがけず元気でよかったと思いつつ。

今も、年齢は重ねたけれど元気な母と暮している

こんなに確かなことが、これからもずっと続き

ますようにと、コピ・ルアクって心の中で

まじなってみた。


この記事はミーミーさんの素敵な記事に
インスパイアされて書きました😊

ぶらんけっと 顎のさきまで ひきあげてみる
いまふいに 香ったような 聞こえたような


       
 

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