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懐かしい傷。#ショートショート

クリスマスが近づいたので

贈り物のジュエリーを選んでいた。

店ではカードを切るだけ切って、

薄青いパッケージにそれを

詰めてもらう。

今年の仕事も終わったなと感じていた。

でも胸がざわついていた。

クリスマスはひとりじゃなかった

という証が欲しいと樹絵里は言った。

他のお客さんも大概同じことを言う。

レンタル彼氏のぼくは

彼女たちの時間をレンタルできるもので

埋めていった。

家も食事もベッドも、嘘の創り話も。

共有するものすべてが借り物だったけど。

樹絵里に贈るクリスマスの石だけは

唯一レンタルじゃなくて本物に

したかった。

自分に落とし前をつけたかったのは、

あろうことか樹絵里を好きに

なっていたからだ。

別れ際、樹絵里にジャブをくらった。

あれから何十年もその石を大切にして

彼女は亡くなった。

棺の中にはあの日の宝石が鈍い光を

放っていた。

数々の女子にジュエリーをあげていた

ことを知って。

喧嘩するときは「男子宝石」という

あだ名で呼ぶのが好きだった妻。

鏡を見る。

あの日、指輪をしたまま殴られた僕の頬には

宝石のローズカットの一部がアザになって

残ってる。

ぼくの一生の勲章だ。



今回も土曜日はショートショートnoteの日という
ことでございまして、こちらに参加しております!

お題は「男子宝石」です。なんだんねん。
にかさんは⇧でもにげないにげないって呪文の
ように唱えていらっしゃいますので。なんとか
逃げずに、挑んでみました。お読み頂きまして、
ありがとうございます。


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