だから、レエスに捧げた。追いつけなかった言葉たちを。

糸と糸がもつれることもなく、格子状につむがれて。

いくつかのしずくが、水玉模様みたいに、浮かんでいた。
 
蜘蛛の巣だった。

京都の深泥池近く。

そこにいた黄緑色と黒の、横縞の蜘蛛。

ジョロウグモだった。

蜘蛛の研究家だった従兄の秀さんに

教えてもらった。

その巣には

もうすでに戦利品らしきものがひっかかって。

横糸がこまかくはりめぐらされていて。

丸いというよりは、楕円だ。

繊細なレエスをつむいで、そこに獲物が包まれている。

身動きできないけれど、なにかの生き物らしいものが
対に
なっていて、

それは
それで、アクセントのようだった。

つむぐという行為にあこがれていた。

それはまぎれもない時間だから。

あの蜘蛛は、間に合ったのだ。

うまく、なにかを掴んだのだ。

蜘蛛という生一本

捕らえるという本能に従って。
 
言葉は、綴るそばからいつもいつも

気づいた時には遅れている。

あのジョロウグモのように、わたし
間に合ってみたかっただけなのに。


  


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