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世界はさかさまだと思うだけで、ちゃらにできそうなことへの希望を、少しだけ感じていたあの頃。   note56日目。

びっくりします。続いています、note56日目。

ほんとうに何も続かない人生で、辛うじて書くことは、続いているけれど。このnote始めた頃って、なんていうかよどんでいた。

この淀みってよく知ってる。これってよく知ってるわ。めっちゃ知ってるの。

何だろうってさかのぼる。さかのぼる、さかのぼると行き当たったのが
あの頃だった。

あの頃って大体あの頃だよねって思いつつ。

なにか実体はわからないけれど、とても濃く心のどこかが淀んでいたのは、10代の頃だった。

あの頃なんで淀んでいたのか。

とにかく、心がいろいろなものに触れて触れすぎてしまって、振幅することじたいが、けっこう煩わしくて多分、きもちゆらされない方向へと、身を置きたい! って。叫んでいたんかなって。

あの頃のよどみって、あの頃特有のものと思ってたけど。

ちゃうやん!

手を変え品を変え、ずっと後の人生にまでつきまとってるやんって気づいた。こんなわたしでも薄々は気づいてたけど。

今回のよどみは、あの頃とちょっとそっくりで。

千鳥格子のジャンスカを着て学校に通っていた頃を、ほんのりと最近思い出すことがある。

いや、びっくりする。

そんな日々がわたしにもあったことを思うと。

あの頃。電車の車窓から見えた、燃えるように揺れている百日紅。

夏が夏である証のように、電柱ちかくのそばで揺れていた。

中学の体育の時間。

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二人一組で逆立ちをするテストがあって。

逆立ちのテストってなんやねんって思いますよね。特に、男子の方に笑われたことがある。逆立ちって大体ひとりでするよねって。

わたしは、違いますよ。ふたりでひとつの世界ですよ!

ってまくしたてて、きみ、酔っぱらってるんやねって片付けられたけど。

あったんですよ。ほんまに。

そういうの日体大出身の前山先生が、ほんとに本名で呼ばせてもらいますけど。そういうの好きな先生が。そして女子校だったので、一番人気かっさらっていた前山先生!

逆立ちテストとは。

体育館の床を蹴って逆さになると相手の女の子が、わたしの足首に手を添えて支えてくれる。

たったそれだけのことなのに、わたしはいつまで経ってもそれだけのことができなかった。

蹴る、蹴る。きゅっきゅっと鳴る床。

わたしを見かねた相手の女の子、大矢どんは、犬のおしっこの時ぐらいに上がった足首をあげてくれた。

その女の子のブルマからみえる膝の向こう側に、体育館の扉が開いていて。

百日紅の幹だけがみえて、いつもみたいに紅の花を探そうとした時、

わたしはバランスを失って、すごい音立てながら体育館の床に崩れ落ちた。

大矢どんとわたしはわけもなく笑い転げた。

その頃家庭のことでも、特に父のことでいろいろあって。

そういうことに思い煩うことが面倒で。

世界はさかさまだと思うだけで、ちゃらにできそうなことへの希望をすこしだけ感じていた。

少しだけ、父親代わりになってくれていた先生がいて。

海のそばで育ったらしいその先生は、はるか遠くに海を感じるだけで、鼻先に潮の匂いがしてくるんだよって、教えてくれた。

なんか先生は、犬みたいやんって思った。

そのことを教えてくれたことは何故か、教室の誰にも言わなかったような気がする。仲のよかった大矢どんにも。

それからどれぐらい経った頃だったか忘れてしまったけど。

風の便りで先生がなくなったことを知った。

先生が教えてくれた一冊の本がある。

開高健が死の直前に書き遺した『珠玉』のページを久しぶりに開いてみる。

折れ曲がったオレンジ色の付箋が貼ってある。「掌のなかの海」という作品のページ。


ロウソクの灯りが、あやうげに、ゆらゆらし、まばたいた
 

主人公は石をこよなく愛している「先生」に誘われて彼の下宿へと足を運ぶ。そこで海の色をした青い石と出会う。

その石はロウソクの灯りに照らされて。

闇というもののない大都市の夜の光が石を海にした。掌の中に海があらわ
れた
 

 
ページをめくりつつ、なぜかあの日、体育館で逆立ちが出来なかった時。

大矢どんと、お腹がよじれるほど笑い転げたことや
逆立ちした時にみえなかった百日紅のことを思い出したりしていた。

むかしすぎて、懐かしいを越えて、また淀んでしまいそうになるやんって
思いつつ。

この間見た、夏のベランダから見上げる空には、ひとつだけ星が出ていた。

だいすきだった先生が、いなくなったさかさまの世界をかんじるために。

わたしは、なんとなく逆立ちをした。

そしてフローリングの床を、なんどか鳴らしてみた。

やっぱりまだ、逆立ちはできなかったんやけど。ほんとたったそれだけのことやのに。まだ、わたしはできへんかった。

あれから随分時間が経ったというのに、でけへんこと多すぎるわ、わたし。

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さかさまの 世界をみてる さかだちの夏
さるすべり むきだしの幹 のぼりゆく蟻





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