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大丈夫だよって、自分には言えないんだけど、好きな人には自信をもって言えるんだな。

いつも、なにかに追いついていないような気が、しきりにしてしまう
ことがある。

その追いつこうとしている背中を見送っては、また明日を迎えている。

いつもどこかでなにかを積み残しながら、残された荷物のことをちらっと
よぎらせながら、眠りにつく。
 
そして、そして、いちにちがいろんな思いの中で終わって。

眠りにおちる、準備をしながらも、今日もまたなにかを追いかけ損ねたな
って、思いながら。 

こころの形は、日に日にその一辺や点の位置を変えているから、抜き差し
ならない。

そういう時に思い出す話があって。

とある仕事をしていた時。

ある人がふいに、カーキー色のビブスみたいなものを人数分持ってきた。

みんな、仕事の前には、これを着てもらいますみたいな感じで、意気揚々
と宣言した。

マジっすか? 

ってみんな、予定調和なツッコミをしつつ、

ひとりひとり渡されたビブスみたいなものには、<Fall Forward>
記されていた。

わたしが、きょとんとしてたら、チーフだった兄貴さんが喜ぶ。

大げさやんっていうぐらいにうれしげに。

「ここに書いてある言葉知ってる? クゥちゃん」

って、その頃呼ばれていたあだ名でたずねる。

Fall   

Forward

ひとつひとつの単語は知っていたはずだったけど。

そのふたつがいっしょになると、わからない。

英語ってそういうことばかりある。

わからないですって言おうとしたら、そこに居たふたりが、その単語
ひとつひとつをジェスチャーでわたしに知らせようとしてくれた。

そういう時だけ、妙なチーム一丸力が保たれていた。

堂本さんは、フォール担当で沈んだような身振り。

柴田さんは、フォワード担当で、膝から進んでゆくような振り。

ふたりとも知らないのにそういうことをして、わたしと共に

考えようとしてくれていた。

そういうシチュエーションに陥った時

わたしが伊藤沙莉だったらよかったのにって本気で思う。

わたしが、なんすかそれ? ってあのハスキーボイスで言ってみたい。

リアクションに困っていると、

兄貴は短期なのでクゥちゃん知らんの?

<まえのめりに倒れろやん>っていう意味やんって正解を言い放った。

え? <前のめりで倒れろ>?

だから、なんで?

って顔で表現していたら、

「これって、僕のすきなデンゼル・ワシントンの言葉なんや」

デンゼル・ワシントン知ってるよって、顔浮かんでるよって思いつつも
出演作品が思いつかず、柴田さんが熱く語り出した時にあ、マルコムX
あぁって浮かんだ。

ペンシルバニア大学でのスピーチでさ、卒業生へのはなむけの言葉でね。俺たちは、はなむけられてる訳じゃないけど、こういう形って大事でしょ。でさ作っちゃいました。仕事の時はこれを着て頑張るということで」

って兄貴は言いながら、打ち合わせに出かけて行った。

「さっきのフォールフォワードの言葉の後さ、しくじった試みもすべて成功への足掛かりとなるって続くのよ」

って付け足しながら。

わたしは、時々この話を思い出して、ちょっとだけ笑ってみる。

わたしは失敗ばかりしていたけれど、みんないい人達だった。いつも期待に応えられないもどかしさばかりが募っていたあの頃を思い出す。

今日は

いつも楽しく笑わせてくれる大好きな人への手紙のように書いてみました。

大丈夫だろうという思いは、ふしぎなのだけれど。

いつも誰かじぶん以外の人につよく思う癖があって。

今日も自信を持って大丈夫だよってそのひとに言っていた。

発見したけれど。

じぶんのときはくよくよするけれど、誰かのことについては「大丈夫!」って、それこそすごく自信をもって言えるところが、あるんだな。


それぞれの 青とあおには 理由があって
わけもなく 哀しいなんて すぐに終わるよ


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