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誰も傷つかない、言葉や文章って。

いつだったか、夏の雨が降っていた時に
わたしが参加している物語を書いている
人達の集まりがあった。

いわゆるオフ会みたいな感じ。

ペンネームを服にはりつけて、自己紹介した。

お互いの作品を知っているので、あの話のあの
方ですね! みたいにほどよく仲良くなることが
できた。

わたしは、なかなか人と馴染むのが苦手なの
だけど。
ありがたいことにそのサイトで発表していた
作品を知ってくれている人が、わたしの胸の
名前に気づいてくれて、こんばんわって声を
かけてくれて、幾人かの人がそのテーブルに
座ってくれた。

わたしの目の前に座ったひとりの大学生の方と
喋っていた時に、その方がちょっと思いつめた
ようにこう言った。

「わたし、誰も傷つけない言葉を書いていきたい」
って。

ちょっとだけ言葉を失った。

誰も傷つけない言葉って彼女が声にした時の、その
絞り出したような声がとても胸に響いた。

彼女も社交することに、ためらいがあるように見受け
られて。

わたしのテーブルを囲んでくれたひとりとして、一生
懸命声をだして意見を言ってくれたんだなって。
そんな、精一杯の声を受け止めようとしていた。

それは声を放ってくれたことに対してなのか、その
言葉に対してなのか。
曖昧な態度のままわたしは努めてにこやかに対応した
ような気がする。

ちょっとそのリアクションはずれていたとは
思うけど。

彼女はSNSでいやなことがあった経験をもっていて。
ことさら誰も傷つけない言葉を書きたいのだと、
痛感していると吐露していた。

わたしたちは、二次創作の物語(10000字)を
書いている同志だったので、物語のなかの言葉
ということになるけれど。

彼女の書く時の気持ちを聞いて、自分の場合は、
どうなんだろうって振り返ろうとしていた時、
隣の方の声が聞こえて来た。

児童文学を書いている著作のある方が同じテーブルに
いらっしゃって、彼女がちょっとぴしゃりとこう
言った。

「誰も傷つけない言葉なんてひとつとしてないよ」

誰も傷つけない言葉を書きたくないっていう気持ちは
わかるけど、それでは作品は書けないよって。

聞いていた彼女は残念そうな顔をして、ちょっと潤んだ
眼をしたまま凹んでいたけれど。

その作家の方はこう言葉をつなげた。

「だから、いつもそのことを頭に置いておくの。誰かを
傷つけているかもしれないけれど、登場人物の声をよく
聞くようにして書くの。それに徹するしかないのよ。
あなたも何作も書ききったら、きっとわかるよ」

そんなふうにアドバイスして、頑張ってねって
いいながら、そんなに思いつめないでいいよって。

まだ若いんだから、ちゃんと遊んで学んでねって。
彼女とそこにいるみんなで乾杯した。

わたしは、物語を作る時にはたぶんたくさんの人を
イヤな気持ちにさせているような気もする。

いいひと、悪意のない人ばかりが登場する物語は
どうしても書けない。

物語の中の登場人物たち。

その人達同志って所詮他人なのだ。
それぞれがじぶんの分身ではない。

ってことはわからない言動もするだろうし
ちがう価値観で生きているものだから、
お互い真逆の言葉を放つかもしれない。

そうやってからみあわせながらも
あえて、一人の人を際立たせるためにすごい
イヤな人を登場させることもある。

そう思うと。

その言動の中には微量の傷の元が含まれて
いるんだと思う。

同じような経験をした人が、フラッシュバック
してしまうことだってあるはずだ。

ほんとうに「書く」って「覚悟」がいる。

物語だけじゃなくて、日常であっても。

人が人と知り合う時も、同じだ。

その言葉やふるまいに多少どこかに
傷みたいなものを感じるものだと思う。

故意に傷つけるんじゃなくて。

たった一言つぶやいた誰かの言葉が、読んでいる
誰かを傷つけることはあるだろうなって思う。

今も、たまたま目にした誰かがわたしの言葉に
イヤだなって思ったり傷ついたりしている
かもしれない。

反対に、わたしは誰かの作品を読むたびに、
たぶん
心が揺れていると思う。

それは、わたしが書いたものじゃなくて。
まぎれもないあなたが書いたものだから。

あの言葉があの場所で配置されていることに
衝撃を受けたり。

価値観の違う世界をみせつけられて、おろおろ
しているせいかもしれない。

価値が違う世界をみるって、少し心に
傷がつくということだと思う。

本のページで指を切った時、ちりちりする時のように。
わたしはそんな言葉に出会った時こそ、ちょっとそういう体験を大切にしたいという想う。

まだちゃんと書くという覚悟があいまいな
わたしにとって、彼女たちのあの言葉は今も
なにかを書く時にわたしにそっと呟いてくる。







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