自由研究の自由の意味をはじめて知った、夏休み。
自由研究の自由って小さい頃ずっと不思議で。
そんなこと思っているのはクラスの中でも
たぶんわたしだけだったと思うけど。
自由に研究すればいいんでしょ？ って
思っていて。
それは自由だから！
もしかしたらやらなくてもいいんだよね！ って。
拡大解釈していた。
ま、夏休み前の先生の話を聞いてなかったん
だろうけど。
自由参加ですよね！ みたいな感じで
とらえていて。
夏休み中ずっとそれは無きに等しいものとして
扱わせて頂いていたわけです。
そして、我が家は弟は勉強好きだったけど
わたしはもういつから勉強が出来なくなった
のか把握できないぐらい勉強と相性が
悪かったので。
母はそのままやる気スイッチ入るまで
待ってくれている状態だった。
父は常日頃勉強出来へんわたしに激怒
していた。
それは日常でしたが。
あれは忘れもしない8月31日の夜。
母がハンカチにアイロンをかけながら、
夏休みの宿題はドリルとか全部やった？ って
聞いてきた。
うん、やったいちおう。
絵日記は？
この間あわててなんとか書いた。
夏休みのプールのカードにスタンプおして
もらったあれも持った？
うんランドセルに入れといた。
じゃあぜんぶこれを提出するのよって
言われて。
わかったわかったっていって
おやすみなさいを言う前に、念の為に聞いて
みるかって思って。
自由研究ってあるでしょ？ って
切り出してみた。
わたしが何かを切り出すことってあまり
ないからかなり頑張って口を開いた。
あるわよ、なに？ やってないの？
自由研究ってね、あれ、自由なんだよね！
もうその言葉を発した時にはそれは
根本からまちごうとったらしいぞってことは
わかっていたので、笑って見せた。
は？ は？ ママもう寝ようと思って
いたの知ってるよね！
知っとりま。
自由研究してないの？
だって自由でしょするのもしないのも？
ちゃうわ！ みんな自由に何かテーマをね
探してきて研究したりするのが自由研究なん。
もうばか！
母はもとは関西人じゃないのに怒ると関西弁に
時たまなる。
でもアホとは言わない。
なぜかそこは関東の名残でバカという。
バとカの間にちいさなッが入ってる時は
それほど怒ってはいない。
でもその日はママ怒ってはるんやなって思って。
どうやって回避すべしって想い、
忘れましたって先生に言うからいいよって
言ったらそれは絶対アカンっ一番アカンやつやって
言われて。
ふいにですね、火事場のバカチカラみたいに
ひらめいた。
自由研究は、図画工作も認めるってことを
ひょいと思い出し、母に気休めに図画工作でも
いいって言ってみた。
図画工作って今から何を作るのよ。
もう～きぃ～～～みたいな母の声から金属音
めいた声が聞こえてきて、これはマックス
怒られるやつやなって覚悟していた。
何が作りたいの？ 何が好きなの？
母の顔はもうしゃーないってあきらめの境地で、
眉間のしわは遠のいていた。
実は自由研究は自由なんだと思いつつも
わたしはいつか作ってみたい図画工作みたいな
ものがあった。
それを口にした。
モビールかな。
え？ もっと大きい声で言って。
モビールかな！！
なんでこの期に及んでモビールなん？
みたいに言われて、わたしは近所に
飾られていたミラーモビールが大好きで。
ステンレスで作られたシンプルな
モビールが風に揺れるたび太陽の光が
そこにあってぴかぴかするのを見るのが
好きだった。
学校帰りにいつもぼ～っとみていて、
あれが好きだなって想っていたから。
母は案の定モビール、なんでやねんみたいな
ノリをしながらも、まず台所に立った、
そしてコメを洗った。
なんで？
モビール作るのになんでコメを洗うんじゃいって
思っていたら。
だってお腹空くじゃないって。
そう言っておにぎりを作るためのご飯を
炊こうとしていた。
急なアクシデントに出くわすと母はいつも
おにぎりのためのご飯を炊くのだ。
そして、ご飯が炊けるまでにセロファンを
幾つかと、厚紙を幾つかと針と糸を使って
モビールを、にわかモビールを作ってくれた。
ふたりでおにぎりを深夜にぼそぼそと食べた。
厚紙を線の印のままハサミで切ったり
色とりどりのセロファンを貼り付けたり
して。
おにぎりを食べながら、もうないよね？
忘れてる宿題とか裁縫関係とかない？ って
畳みかけられて、ないと思うってあやふやに
答えたら、食べたらもう寝なさいよって
言ってくれて。
居間には祖父のお仏壇があったのでぼんやり
みながら、おじいちゃんに全部ばれてるなって
思って。
でも今日で夏休みが終わるのなんかさみしい
おじいちゃんがいないのもさみしいって思って
母が作ってくれたモビールを宙にふわふわ
泳がせて、出来すぎちゃうん？ ってちょっと
気持ちが引け気味になって、先生には母が
作ったって言ってしまうやろうなって思い
ながらわたしはたぶんそれをゆらゆらさせて
いたんだと思う。
ゆれてゆく ゆらされてゆく たゆたう時間
風だけを 受けとめてゆく ほら銀色の
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