「神無月の巫女」負けヒロインならぬ、負け主人公のアニメ
今回は「神無月の巫女」について語りたい。
神無月の巫女は介錯氏の同名漫画を原作としたテレビアニメである。この作品の最大の特徴は、主人公が恋敵に負けるという点である。
しかも、その恋敵は女性であるから驚きだ。
本作は、メインキャラクターである「来栖川姫子」と「姫宮千歌音」そして「大神ソウマ」の3角関係を描く愛憎劇だ。日本神話の神々をモチーフにした巨大ロボットも登場し、輪廻転生も含んだ壮大な純愛物でもある。
実は姫子と千歌音は「剣神アメノムラクモノツルギ」という神に仕える巫女の転生した姿で、前世からの強い絆で結ばれていた。
一方、ソウマは幼馴染である姫子と一度は接近し結ばれかける。
だが、姫子は千歌音からの恋心と前世からの浅からぬ縁に気づき、ソウマでなく千歌音と結ばれるのだった。
この作品の面白い点は、完全無欠のイケメンが前世からの強い絆で結ばれた百合カップルに敗北するところだ。ソウマもしっかりと主人公補正マシマシのキャラなのだが、それを上回る百合の絆により敗れるのである。
加えて作中、ソウマは全く非の打ち所がないイケメンとして描かれる。通っている学校では女子生徒のファンも多く、正に理想のイイ男なのだ。
このような正統派イケメン主人公でさえ、百合の情愛の前では単なる第三者となってしまうのが悲しい!
さらにソウマはフラれてからイケメン度が上がるところも注目だ。
終盤、剣神と邪神の最終決戦が始まる。姫子と千歌音は世界を守るためアメノムラクモノツルギに搭乗し、戦いへ赴く。そこへソウマが自身の機体で駆けつける。
二人の前へ姿を現したソウマはこう告げる
「俺には”せいぜい”地球を救うくらいだけど」と。
恋には破れたが、やはり腐ってもソウマは主人公なのだ!
実は、巫女として覚醒した姫子と千歌音には残された時間は僅かだった。
それは剣神が邪神に破壊された世界を再生する際、どちらか片方を生贄として求めるからだ。
ソウマが二人の元へ駆けつけた理由、それは姫子と千歌音が最後に話し合う時間を稼ぐためだった。そして、ソウマはフラられてもなお、姫子を想う気持ちだけで自らを犠牲に邪神を倒すのだった。
ソウマの活躍もあり、姫子と千歌音は最後の時を一緒に過ごすのだった。
邪神とソウマの激しい戦い、それとは対照的な百合空間、この作品が絶対に主人公の恋路に勝ち目がないことを示唆しているようだ。
また本作は、クレイジーサイコレズの歴史に名を刻んだ第11話のシーンも有名だ。千歌音は愛する姫子に対し、刀で斬りつけながら愛の告白を行うが…
以下のセリフが愛の告白の全文だ。
姫子を斬りつけている際の鬼気迫る千歌音の表情が恐ろしい。
発言と行動のミスマッチもあって、中々に衝撃的なシーンである。
姫宮千歌音はクレイジーサイコレズ界の殿堂だ。
さらに本作は、単なる百合アニメではないのだ。女性同士の恋愛というメインテーマに、ロボット物の要素がプラスされ、サイコレズ感がいい具合に中和されている。
邪神に仕える「オロチ衆」という敵が登場する。彼らはそれぞれ神を従えている。
オロチ衆が操る神はスーパーロボットを彷彿とさせる見た目をしており、メカアクションも本作の見どころだ。
ケレン味溢れるアクションも満載で、下手なスーパーロボット物よりしっかりロボットアニメしている。
最後になるが、サイコレズな内容に清涼剤のようなロボット要素が合わさった稀代の名作「神無月の巫女」
ロボットアニメとしても楽しめ、純粋な百合物としても完成度の高い本作、未見の方はぜひ視聴していただきたい。
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