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DXとマーケティングその14:経営とDXとマーケティング

分析屋の下滝です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とマーケティングの関係を考えてくシリーズの第14回目です。

前回は、少し寄り道して『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました。前々回では、DXの実行プロセスとマーケティングでのプランニングプロセスを見比べることで、両者の関係性を分析しました。

今回は、さらに上流の話に行きます。企業と経営の観点からDXとマーケティングを取り上げます。理由としては、DXのテーマを組織変革だとして捉え、そして、その実行過程が企業全体に及ぶものだと捉えるならば、DXやマーケティングといったレベルではなく、経営のレベルの話としても既存の枠組みとの関係性を見ておくことは役立つと思えるためです。実際、これまで見てきた『DX実行戦略』で出てきた「変革理念」というものは、DXの観点から企業全体としての目標を設定したものでした。その目標を達成できるように実行プログラムを実施します。

では、経営の枠組みとして何を使うのか。幅広いテーマですが、ここではドラッカーを取り上げたいと思います。ドラッカーは、企業の目的は「顧客の創造である」と定義しました。そして、顧客を創造するために、企業は2つの基本的な機能を果たすと言っています。その2つの機能とは、「マーケティング」と「イノベーション」です。

これまでの記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました


企業、事業の定義、目標

上で述べましたが、ドラッカーは、企業の目的は、「顧客の創造である」と定義しています。

企業とは何かを知るためには、企業の目的から考えなければならない。企業の目的は、それぞれの企業の外にある。企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。企業の目的の定義は一つしかない。それは顧客の創造である。
──『経営の真髄 上』, ドラッカー, p.169

また、顧客の創造のために企業が果たす機能として、次のように述べています。

企業の目的は顧客の創造である。顧客を創造するために、企業は2つの基本的な機能を果たす。それがマーケティングとイノベーションである。
──『経営の真髄 上』, ドラッカー, p.170

ドラッカーのマーケティングの捉え方に関しては、第一回目でも紹介しました。再掲します。

これに対し真のマーケティングは、顧客、人口構造、顧客の現実、ニーズ、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を考える。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が見つけようとし、価値あるとし、必要としている満足はこれである」と言う。
実のところ、販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえない。
何らかの販売は必要である。だが、マーケティングの理想は販売を不要にすることである。マーケティングが目指すのは、顧客を理解し、顧客に製品とサービスを合わせ、ひとりでに売れるようにすることである。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, p.171

続いて、企業は自らの事業の定義を行う必要があると述べています。

今日の企業は、昨日の企業とは異なり、組織のほとんどあらゆる階層に高度の知識と技術を持つ者を多数抱えている。彼らが仕事の進め方と仕事の内容を左右する。事実上、彼らがリスクをともなう意思決定、すなわち事業上の決定を行っている。
(中略)
彼らは彼らなりに、漠然とではあっても、自らの事業について何らかの定義を持って決定を行っている。したがって、企業自らが、つまりトップマネジメントが、この問いについて徹底的な検討を行い、答えを出しておかなければ、上から下にいたるあらゆる階層の者が、それぞれ相異なる両立不能の矛盾した事業の定義に従って決定を行い、行動することになる。
互いの違いに気づくことなく、反対方向に向かって努力を続ける。あるいは、揃って間違った定義に従い、間違った決定を行い、間違った行動をとる。
あらゆる組織において、共通のものの見方、理解、方向づけ、努力を実現するには、「われわれの事業は何か、何であるべきか」を定義することが不可欠である。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, pp.174-175

ここで事業の観点として定義するものとして、「われわれの事業はなにか、何になるのか、何であるべきか」の3つがあげられています。

まずは「われわれの事業は何か」から。

企業のミッションを定義するとき、焦点とすべきものは一つしかない。顧客である。顧客が事業を定義する。
事業は、社名、定款、趣意書によっては定義はされない。顧客が財やサービスの購入によって満足させる欲求によって定義される。顧客を満足させることが企業のミッションである。したがって、「われわれの事業は何か」との問いは、企業を外部、すなわち顧客と市場の観点から見てはじめて答えられる。
顧客にとっての関心は、自らにとっての価値、欲求、現実である。この事実だけからも、「われわれの事業は何か」との問いに答えるには、顧客とその現実、状況、行動、価値観を原点としなければならない。
「顧客は誰か」との問いは、事業のミッションを定義する上で最も重要なものである。やさしい問いではない。まして、答えのわかりきった問いではない。だが、この問いに対する答えによって、企業が自らをどう定義するかが決まってくる。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, pp.175-176

続いて「われわれの事業は何になるか」に関して。

しかし、「われわれの事業は何か」との問いに対する答えのうち、大きな成功をもたらしたものさえ、やがては陳腐化する。
したがってマネジメントたる者は、「われわれの事業は何か」を問うとき、「われわれの事業は何になるか。事業の性格、使命、目的に影響を与える可能性のある経営環境の変化は認められるか」「事業の目的、戦略、仕事のなかに、それら経営環境の変化を現時点でいかに組み込むか」についても考えなければならない。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, pp.178-179

最後に「われわれの事業は何であるべきか」に関して。

「われわれの事業は何になるか」との問いは、予測される変化に適応するための問いである。そのねらいは、現在の事業を修正し、延長し、発展させることである。
しかし、「われわれの事業は何であるべきか」との問いも必要である。現在の事業をまったく別の事業に変えることによって、新しい機会を開拓し、新しい事業を創造することができるかもしれない。
いかなる企業、産業といえども、この問いを発しなければ重大な機会を失うことになる。「われわれの事業は何であるべきか」との問いに答える上で考慮すべき要因は、社会、経済、市場の変化である。そして、もちろんイノベーションである。自らによるイノベーションと、他者によるイノベーションである。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, pp.180-181

ドラッカーによれば、事業の定義は、具体的な目標にする必要があります。

事業の定義は、目標にする必要がある。さもなければ、ミッションは決して実現されることのない洞察、意図、モットーに終わる。
第一に、目標とは、「われわれの事業は何か、何になるか、何であるべきか」という問いから導き出されるものである。抽象的であってはならない。ミッションを実現するためのコミットメントであり、成果を評価するための基準である。言い換えるならば、目標とは、事業にとっての基本戦略そのものである。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, p.182

目標は、以下の8つの領域で設定する必要があるとしています。

事業は顧客を創造することができなければならない。したがって、そのためにはマーケティングについての目標が必要である。事業はイノベーションすることができなければならない。さもなければ、誰かに陳腐化させられる。したがって、イノベーションについての目標が必要である。
事業が発展を続けるためには、生産性を上げていかなければならない。したがって、生産性についての目標が必要である。
あらゆる事業が経済学の言う三つの生産要素、人、物、金に依存している。したがって、それらのものの獲得と利用のついての目標が必要である。
さらには、事業が社会のなかに存在する以上、社会的な責任を果たさなければならない。したがって、社会的な責任についての目標が必要である。
そして、最後に条件として利益が必要である。利益がなければ、いかなる目標も達成できない。あらゆる目標が何らかの活動を必要とし、したがってコストを必要とする。それらのコストは利益によって賄われる。しかも、あらゆる活動がリスクをともなう。それらのリスクをカバーするための利益が必要である。しかし、利益は目的ではない。それは、企業それぞれの戦略、ニーズ、リスクに応じて設定すべき必要条件である。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, pp.183-184

8つ領域での目標を抜き出すと以下となります。
・マーケティング
・イノベーション
・生産性
・物的資源
・人的資源
・資金
・社会的責任
・条件としての利益

以降では、マーケティングの目標に関して、さらに見ていきます。

マーケティング領域での目標

ドラッカーによれば、マーケティングの目標は一つではありません。複数あります。

マーケティングの目標は一つではない。複数ある。既存市場における既存製品についての目標、既存製品の廃棄についての目標、既存市場における新製品についての目標、新市場についての目標、流通チャネルについての目標、アフターサービスについての目標、信用供与についての目標である。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, p.186

しかし、これらの目標の前に決めておく目標があるとしています。

これらマーケティングに関わる目標については、すでに多くの文献がある。しかしそれらのいずれもが、これらの目標が実は、次の基本的な決定の後でなければ設定できないことを強調していない。すなわち、集中の目標と市場地位の目標である。

古代の偉大な科学者アルキメデスは、立つ場所を与えてくれれば世界を持ち上げてみせると言った。アルキメデスの言う立つ場所が、集中する分野である。集中することによって、はじめて世界を持ち上げてることができる。

集中の決定は、基本中の基本というべき重大な意思決定である。集中の決定があってはじめて、「われわれの事業は何か」との問いに対する答えも、意味ある行動に変えることができる。ミッションのために働くことが可能となる。集中こそ戦略の基盤である。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, pp.186-187

少し具体的なイメージが難しいとは思ったのですが、どこの分野に集中するのかを決定する、ということなのかなと解釈しました。

続いて市場地位の目標に関しては次のように言っています。

マーケティングに関わるもう一つの重要な決定が、市場地位の目標である。通常は、リーダー的地位である。あるいは売上増である。いずれも、もっともに聞こえるが間違っている。
あらゆる企業が、同一の市場で同時にトップを占めることはない。どのような市場セグメントにおいて、どのような製品、サービス、価値でトップとなるかを決めなければならない。
─『経営の真髄 上』, ドラッカー, p.187

DXと事業

ここまでのドラッカーの話をまとめたのが以下の図となります。

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企業は、顧客の創造のためにマーケティングとイノベーションの機能を果たします。では、DXの取り組みは、これら2つの機能とどう関係するのか、が基本的な問いとなります。
・マーケティングとイノベーションのどちらかに関係する
・マーケティングとイノベーションのどちらにも関係する
・マーケティングとイノベーションのどちらにも関係しない

また関係の度合いや具体的にどのように関係するのかも経営として気になる視点ではあると思われます。

DXに関しては、DXをどのように捉えるかによって視点や手法が異なります。この記事では、これまで見てきたように『DX実行戦略』での考え方を参考にします。『DX実行戦略』での前半部分を整理したのが以下の図となります。

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この図での要素と、ドラッカーでの要素との関係性を考えることを今後の分析ステップとしたいと思います。

この図での要素を簡単に説明します。DXの定義も後に紹介します。

企業は、複数の事業からなるとしています。各事業は、変革目標を持ちます。変革目標は、3つの要素で構成されます。対応戦略、カスタマーバリュー、ビジネスモデルの3つです。カスタマーバリューは、顧客にどのような価値を提供するのかというものであり、3種類があります。コストバリュー、エクスペリエンスバリュー、プラットフォームバリューです。ビジネスモデルはこれらカスタマーバリューを実現するための方法です。対応戦略は、ディスラプターと戦うために、どのような戦略をとるのかを定めるものであり、4つの対応戦略があります。

企業は、各事業の変革目標をまとめたものを、変革理念として持ちます。変革理念を定義したならば、この理念を実現するための実行のフェーズとなります。

まとめると、企業全体としては変革理念を実現することを目標とします。各事業は、設定した対応戦略に従って、ビジネスモデルを構築し、カスタマーバリューの創出を目指します。

次に、DXの定義を確認しておきます。『DX実行戦略』でのDXの定義は以下となります。

私たちは、デジタルビジネス・トランスフォーメーションを「デジタル技術とデジタル・ビジネスモデルを用いて組織を変化させ、業績を改善するとと」と定義する。第1に、企業業績を改善することがその目的であり、第2にデジタルを土台にした変革であること。組織は絶えず変化しているが、ひとつ以上のデジタル技術が大きな影響をおよぼしているものでなければ、デジタルビジネス・トランスフォーメーションには分類されない。そして第3に、プロセスや人、戦略など、組織の変化を伴うものであること。デジタルビジネス・トランスフォーメーションには、テクノロジーよりもはるかに多くのものが関与している。
──『DX実行戦略』, マイケル・ウェイド, p.27

この定義を整理したものを以下に示します。具体的な説明は過去の記事を参考にしてください。

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次の分析のステップは、ドラッカーでの要素とDXでの要素を用いて、具体的にどの要素間の関係を分析していくのかです。組み合わせとしては以下でしょうか。

・「事業の定義」と「変革理念」がどのように関係するか
・「事業の定義」と「対応戦略」がどのように関係するか
・「事業の定義」と「カスタマーバリュー」がどのように関係するか
・「事業の定義」と「ビジネスモデル」がどのように関係するか
・「8つの領域の目標」と「変革理念」がどのように関係するか
・「8つの領域の目標」と「対応戦略」がどのように関係するか
・「8つの領域の目標」と「カスタマーバリュー」がどのように関係するか
・「8つの領域の目標」と「ビジネスモデル」がどのように関係するか

特に、この連載は、DXとマーケティングとの関係を考えていくものなので、以下を考えることになりそうです。
・「マーケティングの目標」と「変革理念」がどのように関係するか
・「マーケティングの目標」と「対応戦略」がどのように関係するか
・「マーケティングの目標」と「カスタマーバリュー」がどのように関係するか
・「マーケティングの目標」と「ビジネスモデル」がどのように関係するか

「マーケティングの目標」は、事業の定義から発生するため、「事業の定義」から考えていくことになりそうです。「われわれの事業は何か」「われわれの事業は何になるか」がマーケティングとして関係しそうな雰囲気がありそうです。「われわれの事業は何であるべきか」かは、イノベーションの問いとのことなので、本連載では対象外といえそうです。

まとめ

今回の記事では、DXが企業レベルの取り組みであるという視点を持つならば、経営の視点とDXの視点の関係付けが必要なのではないかということを見ました。ドラッカーを参考に、企業とは何かということ、事業の定義が必要なこと、事業の定義は目標として具体化すること、を見ました。目標の一つには、マーケティングにおける目標がありました。

マーケティングにおける目標とその基となる事業の定義が、DXでの取り組みとどのように関係するのか。『DX実行戦略』では、変革理念、対応戦略、カスタマーバリュー、ビジネスモデルのこれらを定義との関係を深堀りすることを意味しそうでした。

次回の記事では、今回の記事で取り上げた関係性について深く見ていきたいと思います。続きはこちら

過去の記事

第1回はこちら。経産省のDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第2回はこちら。『DX実行戦略』におけるDXの定義とマーケティングとの関係について考察しました。
第3回はこちら。「無料/超低価格」のビジネスモデルを分析しました。
第4回はこちら。「購入者集約」のビジネスモデルを分析しました。
第5回はこちら。「価格透明性」のビジネスモデルを分析しました。
第6回はこちら。「リバースオークション」のビジネスモデルを分析しました。
第7回はこちら。ここまでの記事をまとめました。
第8回はこちら。「従量課金制」のビジネスモデルを分析しました。
第9回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍におけるマーケティング定義を確認しました。
第10回はこちら。『マーケティング大原則』という書籍で紹介させている「戦略的コンセプト」をDXの視点から関係性を見ました。
第11回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのマネジメントプロセスの関係性を見ました。
第12回はこちら。DXの実行プロセスとマーケティングのプランニングプロセスの関係性を見ました。
第13回はこちら。『デザインドフォー・デジタル』というDXの書籍をもとにDXとマーケティングの関係をみました

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