合同誌BROOM

合同執筆イベント「BROOM」の投稿ページです。 10/2より11/14日にかけて投…

合同誌BROOM

合同執筆イベント「BROOM」の投稿ページです。 10/2より11/14日にかけて投稿予定です。 大学別の目次は下記のホームページよりご確認ください。 ホームページ:https://sites.google.com/view/broom-uni/top?authuser=3

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ご挨拶

 初めまして。明治学院大学文芸部主将の遊鶴と申します。  始めに、当ページをご覧いただきありがとうございます。当ページは2020年度のBROOMについての説明を含めたご挨拶の場となります。  2020年は、人類史上類を見ないウィルス禍とともに幕を開けました。外出を慎み、人と距離を置き、先の見えない日々に恐怖してきました。なにより、生命や生活を失った方がいます。今もなお多くの方々が苦しみ、戦い、耐え忍んでいます。そのような方々に比べれば至極些細であることは重々承知しております

    • 令までありがとう

       彩人へ  いつか必ずセッションしよう。夢を叶えたら、次はお互いプロとして。  令までありがとう。  蒼介より                 ***  最後の確認のために書類に目を通す。これが完成すれば今日は終わり。全員帰ってしまったオフィスで気持ちがいくらか軽くなる。手にした紙は朝から何度も書き直したためもう一字一句覚えてしまった。 「会社名よし、名前よし、日付よ、あ……」  本当に最後の最後、プレゼンの日付というわりとどうでも良い箇所。『令和』が『今和』になっている

      • 不朽の器と五分の魂

                                    享楽  少し散歩に行ってくる、と気ままに足を進めて数十分。辿り着いたのは桜並木が美しい小川のすぐ側だった。視界を埋め尽くさんばかりの桃色世界は、なんと見事なものだろう。心なしか吐いた息さえ薄く色づいているような気にさせられる。春風に身を委ねるまま先へ進めば、せせらぎに混じるシャッター音。今時珍しい。ふらふらと並木を抜けると欄干に肘をかけた少女の姿を見つけた。 「あんまり身を乗り出し過ぎると危ないですよ」  真っ逆さまに

        • 満開

                                        藤の骨  肉つきのよい二本の脚から、果物の香りがする。アキの脚をまっぷたつに割ってみれば、きっと果汁が飛び出すだろう。鮮やかな檸檬の果肉だろうか、オレンジだろうか、それとも巨峰か。色とりどりの果物が目に浮かんだ。 「結び方。これで合ってるの。」  怪訝な顔で私を見る、アキの足元にはトウシューズが二つ、嵌め込まれている。日光を滑らかな灯りに転換した、白桃のようなトウシューズ。白桃と味の合う果物は何だろう。アキの脚が

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        • BROOM 2020
          51本

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          超鮮度カレー [すーぱーふれっしゅ - かれー]

                                       えんぞう  タマネギを炒める人間とそうじゃない人間がいる。カレーの話だ。今さっきまで鍋で炒められているのはくし切りにされたタマネギで、雑に切ったので根元が少しくっついている。跳ねた油が胸のあたりの肌にぶつかり、痛みと驚きで腕が弾み、おたまとともにタマネギが鍋から飛び出す。おれは悪態をつきながらしゃがんで落ちたタマネギを拾い、鍋の中に戻してやった。これと同じ事が三回起こった。その後も憎く見えてきたタマネギをおたまでぐず

          超鮮度カレー [すーぱーふれっしゅ - かれー]

          母をたずねて三センチ

                                        桑田恵美  おかあさん、ごめんなさい。自分は、おかあさんの思う、立派な子には、なれませんでした。自分は、意気地なしです。どうしたらいいのか、分かってる。でも、出来ません。ごめんなさい。  部屋にこもってから七ヶ月くらいは経ったのであろうか。私は桑田恵美。以前までは地元の中学に通う、ごく普通の中学生だった。ただ、ごく普通の中学生はごくありがちな悩みによって、今は引きこもりでいる。いじめだ。  いじめをするための理由な

          母をたずねて三センチ

          疫病神の手 リピーター

                                        淀 長葦 「病を他人に移す。そんな奇跡が起こせたら、君はどうする?」  懐かしい夢を見た気がする。師匠がいたから夢だって分かったんだけど、やっぱり操れないまま忘れてしまった。  寒い、毛布の中しか暖かくない。あいつエアコン消して行きやがったな。私が風邪をひいたらどうするんだ。エアコンをつけるか、外出るの嫌だな。いいタイミングでドタドタとアホくさい足音だ。ハリスが帰って来るならわざわざベッドから出ることないな。  

          疫病神の手 リピーター

          霧中

                                        飴宮すみ 「ねえ、ママが死んだら、どうする?」  今年は特に長雨で、しかも降水量が多かったのだ。わかりきったことをもっともらしく発言するアナウンサーに嫌気がさして、テレビを消そうとリモコンを探しているところだった。もしかしたら母さんの座っている場所に隠れてしまったのかもしれなかった。 「えっ?」  いや、「え」だったかもしれない。そもそも声に出ていなかったかもしれない。僕がリビングをうろうろと歩き回る足を止めて母さ

          いまひとたびの

                                          鮎  とん、からり。とん、からり。 夜中と早朝の合間、水で薄めた留紺を幾重にも塗り重ねたかのような輪郭の見えない世界を初老の男が歩いている。人も虫も草木も空も、いまだ目覚める様子はない。あたりを包む深い霧がすべてを粗雑な印刷物のように曖昧にする中、とん、からり。とん、からり。細く骨ばった手の握りしめる濡羽色のステッキと、歩みを進めるたびにうっすらと湿った地面をなでる下駄の音だけが生き物の、男の存在を主張していた

          いまひとたびの

          私達はもう一人じゃないから

                                          お塩 「大人になるのが怖くないの」  そう聞かれたことがある。  いつもとはちがう、真剣な声色とあの子らしい真っ直ぐな目。  そんな彼女から目が離せなかった。  彼女は私を待ってくれていた。あたりに広がる張り詰めた空気は、決して私を責めていなかった。私は答えを出せなかったけれど。  それ以降、あの真剣な声を聞くことはなかった。だとしても、私はあの声を忘れないだろう。  快適だった車内に熱気が飛び込んでくる。

          私達はもう一人じゃないから

          ドゥームズデイ・ディドリーム

                                       葉桜照月 はじめに  この作品はフィクションであり、実在の人物・地名・団体とは一切関係ありません。また、実在の人物・地名・団体を想起させるような表現や、あるいは誹謗・中傷するような表現を使ってもいません。もし想起した場合は称号「コロネ疲れ」を獲得してください。 世界は元に戻らない。  まず最初にしなければいけなかったのは、閉ざされたドアを開けるために鍵を探す事だった。わたしはついさっき、そこのソファーの上で目覚

          ドゥームズデイ・ディドリーム

          花手折るひと

                                       水樹 祥  方向感覚がない、地図が読めない、スマホを持たない、自分を疑うという選択肢がない。  方向音痴の素質として言われることには様々あるが、一体何の気まぐれか、神様はそのすべてを僕にお与えになったらしい。 「……完全に迷子だな、これ」  身ひとつで細い道の真ん中に立ち、久々に少し大きなスーパーに行くはずだった僕は途方に暮れていた。 両側から天高くそびえたつコンクリート塊は空を遥か高くに押し上げ、青く細い帯を縦に成

          花手折るひと

          レスト・イン・パラダイス

                                       速水朋也 「だからね、今この瞬間もぼくたちの貴重な青い春はコンビニの出口んとこでぼたぼた垂れてくどっかのおっさんが捨てたコーヒーの氷とおんなじ速度で浪費されているわけ。それなのにこんな犬小屋みたいに蒸し暑い部屋で宿題やって、山にもフェスにも工場見学にも行かないでさあ、夏休みだよ、英単語は八十歳になっても覚えられる。けど十七歳の夏休みはあと三週間しかないんだよ。わかってるのかい、明は」  と、そこまで一気にまくしたてた

          レスト・イン・パラダイス

          ヒモと会社員

                                          本意  ふと気を抜くと、宝箱の様相を呈したちいさな箱庭のような教室の幻影が頭のすみを過ぎる。数多の生徒が上履きのままベランダへ出て、トイレを行き来して、戻ってきてまた踏んで歩いた板張りの、埃まみれで汚らしい床の上、べたりと座り込んで何時間もそこに居た。持ち込んだゲームの何と重かった事だろうと思う。その思い出をセピア色にしてしまうには、まだ遠く及ばない。今も鮮やかな記憶が、依然として心臓の一角を占めたまま、消える

          ヒモと会社員

          ラヴレター

                                       美栄靖奈  コンビニでのバイト終わり。家に帰ると、いつもはチラシやらセールスのビラでいっぱいのポストに真っ青の封筒が入っていた。水道代の請求だろう。ポストから引っこ抜いたそれは、水道局からの通達ではなかった。  深い青色の封筒に、銀色の文字で『今井智様』と書かれていた。何でもオンライン上でこなせる時代に手紙とは、古風な人もいるなと思った。裏を見ても、差出人の名前はなかった。俺の住所も書いていない。何で差出人は俺の住所

          ラヴレター

          日の目をみない手記

                                                                         姫都 九一  三月十二日  紙に文字を書くこと事態が久しぶりな気がする。左の一文書くのにも、かれこれ一時間ぐらいは脳んで脳んで脳み抜いた結果、何の面白みもないありふれた一文しか書けなかった。分かっているとは思うけど、俺は文章を書くのが苦手だ。最後に日記って名の付く物を書いたのは確か、中学校の学級日誌だった気がする。日直に担当された生徒が、今日一日の

          日の目をみない手記