自由人

小説を書きます! よろしくお願いします🌸

自由人

小説を書きます! よろしくお願いします🌸

最近の記事

「メロンソーダ」No.6

スマホの通知音が、小さく鳴った。 キッチンでコップに牛乳を注いでいた私は、 小走りでリビングへ行き、 ダイニングテーブルの上に置いていたスマホを、 手に取る。 画面に小池さんのアイコンが表示されてるのを見て、胸が高鳴った。 『こんにちは。 先日は、紫陽花の撮影に協力してくださり、 ありがとうございました。 次の撮影は、向日葵を予定しており、 また理央さんに被写体をお願いしたいと思っているのですが、ご都合いかがでしょうか。』 私はすぐに、被写体を引き受ける旨の返信をし

    • 「メロンソーダ」No.5

      食堂に行くと、既に沢山の生徒で賑わっていた。 私の通ってる大学の学食は、安くて美味しいと評判だった。 「あ、中西さん。今日もオムライス?」 学食の調理をしてくれている木村さんは、私が好きなメニューを覚えてくれている。 「木村さん、今日はナポリタンにします」 木村さんは笑顔で頷き、 「うちのナポリタン最高だもんね! メロンソーダは飲む?」 「はい!勿論飲みます」 私はメロンソーダには目がないのだ。 毎日でも飲みたいくらい。 ナポリタンとメロンソーダを持って、 窓際

      • 「メロンソーダ」No.4

        体がグラッと右側に傾いた。 「危ない!」 小池さんに腕を掴まれる。 「理央さん! 下駄で縁石を歩こうとしないで下さい! 顔に似合わず、子供っぽいとこあるんだから…」 眼鏡の奥で、わざとらしく睨んでこっちを見ているが、元の顔が優しすぎて全然こわくない。 「はーい。縁石があると、 体が勝手に乗っちゃうんですよね」 撮影が終わり、近くでランチを食べようと、 お店に向かっている時の出来事だった。 「あ、あれです。 鎌倉のレトロな喫茶店行きたくて」 小池さんが指差す先に

        • 「メロンソーダ」No.3

          朝一の名月院は、紫陽花が見頃なこともあり、 既に観光客らしき人たちが何人か来ており、紫陽花の写真を撮ったり、眺めたりしていた。 小池さんは、カメラの設定を調節している。 「理央さん、ちょっとこっち向いて。 うーん…まだ暗いかぁ…あ、や、明るすぎた!」 真剣にカメラを睨みながら、何やらブツブツ言っている。 じっと見ている私に気付いて、 小池さんはこう言った。 「調整に時間かかってすみません。 ちょっと人物を撮るのは、慣れていなくて」 なるほど。そういうことか。 それ

        「メロンソーダ」No.6

          「メロンソーダ」No.2

          「理央さーん!小池です!」 Instagramに沢山顔写真をあげてるから、 すぐ分かったのだろう。 北鎌倉駅で、大きなスーツケースを引き摺りながら、小池さんが息を切らして歩いてくる。 透けるような白い肌に、 黒縁メガネが似合っている。 白シャツにスラックスを履いていて、 見た目も真面目そうだなと思った。 「今日は遠くまでありがとうございます。 しかも、こんなに朝早くに…どうしても、 朝一で名月院の紫陽花を撮りたくて。 理央さん、やっぱりイメージ通りです。 アンニュイ

          「メロンソーダ」No.2

          「メロンソーダ」No.1

          『紫陽花の撮影の、 被写体になってくれる方募集』 カメラマンを目指している人たちの、 Instagramを眺めていて見つけた。 その人の写真をスクロールしていく。 海、カフェ、イルミネーション… どれも広範囲にぼかしが入り、 どこかメランコリーな雰囲気が漂っていた。 どんな風に被写体を入れているのか、 見たかったが、 どの写真にも人が写っていなかった。 余計に気になったので、DMしてみることにした。 『初めまして。中西理央と申します。 都内中心に、 被写体モデル

          「メロンソーダ」No.1

          「Liberty」 No.8

          「grow」に行くと、仲の良さそうな老夫婦のお客さんが来店していて、水野さんは接客中だった。 水野さんが身振り手振りを交えながら、 説明をしている。 育て方を一通り話した後、ふと笑顔になり、 「そうそう、赤のシクラメンの花言葉は、 『愛情、絆』なんですよ」 そう言うと、老夫婦は顔を見合わせた。 「私たちにぴったりね」 そう言って、2人で幸せそうに笑っていた。 老夫婦が帰ると、 「片瀬さん!髪、バッサリ切ったんですね。 すごく似合います。服も素敵ですね」 と、水

          「Liberty」 No.8

          「Liberty」No.7

          鏡の中に別人がいた。 人って、髪型と洋服で、 こんなに変わるんだ…。 今まで、目立たないようにと、 自分がしたい髪型やファッションは諦め、 わざと地味にしていた。 まずは、いつも行っている美容院に行き、 なんとなく伸ばしていたロングヘアを、 顎までバッサリ切ってもらった。 髪色もだいぶ明るくした。 「片瀬さん、どうしたんですか? ずっと髪型は変えたくないって、 言っていたのに」 担当の美容師の小山さんが、驚いていた。 「実は、ずっと変えたかったんですが、 今まで勇

          「Liberty」No.7

          「Liberty」 No.6

          「これ…どこに入れたら素敵だと思います?」 水野さんが白い小鳥のモチーフを差し出して、 こちらに見せている。 私はツリーと水野さんに近づいた。 「私だったら、このてっぺんの星の近くにするかな。小鳥がすぐに飛び立てるように。」 水野さんはうんうん、と2回頷いた。 「それは素敵な案ですね。 小鳥は自由に空を飛んでいた方が、きっと、 幸せです」 私は幼い頃に、母とクリスマスツリーに飾り付けをした時のことを思い出していた。 幸せで楽しかった筈なのに、 何故か息苦しくなった

          「Liberty」 No.6

          「Liberty」 No.5

          「grow」の前まで来て、ふと思った。 喜んで、付いて来てしまったけど、 よく考えたら、店内に男の人と2人きり…。 これって大丈夫なの? 考えてもわからず、 恋愛経験のない自分を恨んだ。 「どしたんですか?」 水野さんは、何も気付いていないみたいに、 鍵を開ける。 店内に入ると、レジ横の台の上にドサっと段ボールを置いた。 「さっきから気になっていたんですけど、 何が入っているんですか?」 思わず聞いた。 「ああ、これね。 ほら来月クリスマスでしょ? 今年はもみの

          「Liberty」 No.5

          「Liberty」 No.4

          [本日お休みです] 「grow」の扉に、水野さんの手書きらしく、 丸文字で丁寧に書かれた紙が貼ってあった。 一気に世界が暗くなる。 一週間、この日の為に頑張ってきたのに! トボトボと家に向かって引き返す。 行きの高揚感とは打って変わって、 心も足も重い。 ぼんやりとただ、足を右、左と交互に 前に出すだけだった。 「あれ?片瀬さん?」 急に呼ばれたので、びっくりして立ち止まり、 声の方を見る。 視線の先には、同じく驚いたように口を半開きにした水野さんが、佇んでいた

          「Liberty」 No.4

          「Liberty」 No.3

          カーテン越しに、朝日が部屋に差し込む。 瞼を閉じていても、陽の光を感じ、 自然と目が覚める。 やっぱり南向きの部屋にして良かった。 ぼんやりとした頭を起こすと、 テレビ台の上のリトープスが朝日を浴びて、 「grow」にいた時と同じように、 幸せそうに見えた。 「ねぇ、水野さんは、 キミが石ころみたいだって、 キミのことをちゃんと見てくれていたよね」 私は今までずっと、自分を抑えて生きてきた。 意見を主張すると悪いことが起きる気がして、 目立たないように、日々を過ごしてい

          「Liberty」 No.3

          「Liberty」 No.2

          「その子が気になりますか?」 顔を上げると、水野さんが少し首をかしげ私の手元を見ている。 私が手の中には、小さな鉢があり、蜜柑の房のような形の灰色の多肉植物が植えられていた。 「この子も多肉植物なんですか? なんだか、小さくって石ころみたい」 小さくて目立たない筈なのに、 何故か惹きつけられた。 水野さんは、 しゃがんでいる私の隣にしゃがみ込む。 「そうですよ。 この子はリトープスという多肉植物で、 動物などに食べられないように、 石に擬態しているんです」 いつ

          「Liberty」 No.2

          「Liberty」 No.1

          良かった…開店してる。 店の外に並べられた沢山の多肉植物を見て、 ホッとする。 最近引っ越してきた街で見つけた、 お花屋さん「grow」は、 店主の気まぐれでの休みが多く、 足を運んだのにお店が開いていなくて、 落胆したことが何度もあった。 お店の前まで行くと、奥で忙しそうに動いている店主の水野さんの頭が見えた。 挨拶は後にしようと、台の上に並べられた沢山の多肉植物を見ることにした。 つるつるしたもの、棘のあるもの、丸いもの、 細長いもの… 形も質感も大きさも様々な

          「Liberty」 No.1

          「Perform」 No.10

          「美麗さん!お疲れ様です! さっきのお客様大丈夫でした? 退室のお時間過ぎてましたが、 何かありました?」 精算しに事務所に戻ると、 真田がいつもより低いトーンで聞いてくる。 NGでと、言いたかったけど、 喉まで出かかって飲み込んだ。 もう2度と会わなかったら、 後悔すると思った。 じんわり、手に汗をかいていた。 「髪乾かすのに、時間かかっちゃっただけなので、大丈夫です」 嘘をついた。 外に出ると、湿気が肌にまとわりついた。 パラパラと雨が降ってきた。 さっき

          「Perform」 No.10

          「Perform」 No.9

          「真央…」 血の気が引いていった。 身も心も冷たくなった。 相沢さんは、私を抱きしめてそう呟いたのだ。 私は真央じゃない、 そう言いたかったけど、「美麗」ならお客さんの求めることを演じなければならない。 私は、心を殺して相沢さんを優しく抱きしめた。 そして、心に決めた。 もう会うのはやめよう。 真田に頼んでNGにしてもらおう。 「美麗さん…」 相沢さんが顔を覗き込んでくる。 「これからも指名するので、 ずっと会ってください。 美麗さんといると、 辛い気持ちが和

          「Perform」 No.9