「メロンソーダ」No.3
朝一の名月院は、紫陽花が見頃なこともあり、
既に観光客らしき人たちが何人か来ており、紫陽花の写真を撮ったり、眺めたりしていた。
小池さんは、カメラの設定を調節している。
「理央さん、ちょっとこっち向いて。
うーん…まだ暗いかぁ…あ、や、明るすぎた!」
真剣にカメラを睨みながら、何やらブツブツ言っている。
じっと見ている私に気付いて、
小池さんはこう言った。
「調整に時間かかってすみません。
ちょっと人物を撮るのは、慣れていなくて」
なるほど。そういうことか。
それでInstagramには風景の写真しかなかったのか…。
「理央さん、お待たせしました。
階段を少し登って、振り返って、
少し笑ってみてください」
私は6段登ったところで振り返り、
カメラのレンズに向かって、微笑む。
自分がどんな風にフレームの中に写っているか、想像しながら…。
「いいですね。一回確認しますか?
こんな感じ。」
紫陽花の葉や、花の一部がぼかされていて、
自分の表情も更に憂いを帯びて見える。
「わぁ…いい雰囲気出てる。やっぱり、
背景をかなりぼかすんですね。
こういう風に撮るのは、
何か理由があるんですか?」
「これはね。
写真って思い出を切り取るものでしょ?
だから全てが鮮明じゃない方がいい。
ぼやけてるとこを自分の心の中で好きなように変えられた方が、美しいと思うんです」
そうかもしれない、と思った。
美化した方が良いこともある。
「確かに!思い出って、
常に心の中にあるものだから、
できるだけ美しいものの方が良いですね」
「そうそう!解ってくれて、嬉しいです」
小池さんの写真のことを、
少し理解できて嬉しかった。
ーーーーーーーーNo.4に続くーーーーーーーー
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