松下 育男

詩とともに生きる。詩集『肴』(H氏賞)、他。詩の教室をやっています。現代詩文庫『松下育…

松下 育男

詩とともに生きる。詩集『肴』(H氏賞)、他。詩の教室をやっています。現代詩文庫『松下育男詩集』、詩集『コーヒーに砂糖は入れない』講演録『これから詩を読み、書くひとのための詩の教室』発売中。

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記事一覧

2024年5月12日(日) 感謝を込められるだけ込めて

このところSNSで何度も告知しているのですが、あらためて、本日は午後7時から、荏原中延の「隣町珈琲」で、小池昌代さんと対談があります。 講演ではなく、対談なので、原…

松下 育男
11時間前
17

俳句を読む 56 菖蒲あや  路地に子がにはかに増えて夏は来ぬ

路地に子がにはかに増えて夏は来ぬ 菖蒲あや 長年詩を書いていると、あらかじめ情感や雰囲気を身につけている言葉を使うことに注意深くなります。その言葉の持つイメー…

松下 育男
1日前
15

無駄な想像

ひとりの男性のことを、思い出すことがあります。その人のことを、ぼくは何も知りません。ただ、ある日の通勤電車の中で、同じ車両に乗り合わせました。 中央線だったと記…

松下 育男
2日前
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ネットに詩を書くことについて

ぼくがネットで詩や文章を載せ始めたのは、50代だったろうか。途中でやめたり、ぜんぶ削除したり、また始めたりしてきたけど、もうかれこれ20年以上も書いている。 それで…

松下 育男
2日前
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【お知らせ】小池昌代さんとの対談は今度の日曜日の夜です。

今度の日曜日の夜です。お時間のある方はどうぞ。

松下 育男
4日前
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詩に片思いをしている人もいる

詩の教室をやっていて思うのは、誰もが器用で、上達が早くて、センスが良い、というわけではないということです。 詩が好きなのに、なぜか詩に好かれていない人、というの…

松下 育男
4日前
50

根津甚八、小林薫、唐十郎

唐十郎さんが亡くなられた。 ずいぶん昔、芝居を観る習慣のないぼくは、唐十郎のことを、もしかしたら現代詩手帖で知ったのかもしれない。唐さんの密度の濃い文章を、現代…

松下 育男
7日前
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俳句を読む 55 東野佐惠子 平凡といふあたたかき一日かな

平凡といふあたたかき一日かな  東野佐惠子 もちろん平凡な毎日が、ただのんきで、何の気苦労もないものだなんてことはあるはずがありません。そんな人も、まれにいない…

松下 育男
7日前
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「迷った時に読む”初心者のための詩の書き方”」

「迷った時に読む”初心者のための詩の書き方”」 以下は、「初心者のための詩の書き方」114章を、読む時の目的に分けて並べ替えたものです。だいぶ前に、あるところで詩…

松下 育男
8日前
43

詩を書いていることがバレてしまっても

ぼくは、勤め人をしていた時に、大きな会議室で、財務状況についてプレゼンテーションをすることがたびたびありました。 その頃、ぼくはすでに詩集を何冊か出していて、自…

松下 育男
2週間前
76

ある青年の話

ひとりの青年のことを、思い出すことがあります。 ぼくの勤めていた会社は、大きな会社だったので、財務、経理、会計は、いくつかの部署に分かれていました。 ぼくが50歳…

松下 育男
2週間前
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雑誌と読者のコミュニケーションの場をつくる。

本日は朝から雨が降っている。 今朝の雨のように静かに、朝の用事をゆっくりとしている。 明日は13:00から「Zoomによる詩の教室」の続きがある。参加者の詩を読むのだけど…

松下 育男
2週間前
43

「かろうじて掴めたのが、詩だった」

「詩を書くことに喜びがあるのであり、その詩が誰かの詩よりも秀でることが本来の目的ではない」と、ぼくは本の中でもたびたび書いている。 その思いに嘘はない。 けれど…

松下 育男
3週間前
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2024年4月21日(日)詩をこよなく愛し、詩にたっぷり愛される。

昨日は「Zoomによる詩の教室」でした。立石俊英さん、南田禎一さん、ユウアイトさんとの2時間ほどの座談会でした。 三人とも、詩を書き始めてから数年しか経っていないと…

松下 育男
3週間前
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2024年4月20日(土)床屋で

昨日は歯医者へ、それから夕方、床屋へ行ってきた。床屋で髪を切ってもらっている時に、前の道で大きなクラクションが何度も鳴っている。明らかに誰かが怒っている。そんな…

松下 育男
3週間前
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俳句を読む 54 水原秋桜子 朝寝して鏡中落花ひかり過ぐ

朝寝して鏡中落花ひかり過ぐ 水原秋桜子 よくもこれだけ短い言葉の中で、このようなきらびやかな世界を作ったものだと思います。詩歌の楽しみ方にはいろいろありますが、…

松下 育男
3週間前
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2024年5月12日(日) 感謝を込められるだけ込めて

このところSNSで何度も告知しているのですが、あらためて、本日は午後7時から、荏原中延の「隣町珈琲」で、小池昌代さんと対談があります。

講演ではなく、対談なので、原稿をしっかり用意することはできませんが、できるだけの準備はしたつもりです。

この話を実現していただいた友人にも、引き受けていただいた小池昌代さんにも、それから受け止めていただいた隣町珈琲にも、快く送り出してくれる家族にも、もちろん観

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俳句を読む 56 菖蒲あや  路地に子がにはかに増えて夏は来ぬ

路地に子がにはかに増えて夏は来ぬ 菖蒲あや

長年詩を書いていると、あらかじめ情感や雰囲気を身につけている言葉を使うことに注意深くなります。その言葉の持つイメージによって、作品が縛られてしまうからです。その情感から逃れようとするのか、むしろそれを利用して取り込もうとするのかは、作者の姿勢によって違います。ただ、詩と違って、短期勝負の俳句にとっては、そんな屁理屈を振り回している暇はないのかもしれ

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無駄な想像

ひとりの男性のことを、思い出すことがあります。その人のことを、ぼくは何も知りません。ただ、ある日の通勤電車の中で、同じ車両に乗り合わせました。

中央線だったと記憶しているので、それならば、ぼくがまだ30代の頃のことです。立川駅から乗って新宿駅に向かう途中で、いきなりドタドタという音が、ぼくのすぐ前でしました。見れば、若い男が床に尻餅をついています。大きな体の人でした。ネクタイをしていたので、おそ

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ネットに詩を書くことについて

ぼくがネットで詩や文章を載せ始めたのは、50代だったろうか。途中でやめたり、ぜんぶ削除したり、また始めたりしてきたけど、もうかれこれ20年以上も書いている。

それで、もちろん毎日書く垂れ流し(と、言われたことがある)のような文章に、何の意味があるだろうと、考えることはある。

ただ、これも一つの表現に違いがないだろうと思う。

というのも、どこかに読んでくれる人がいるのは確かなことだし、書くもの

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詩に片思いをしている人もいる

詩の教室をやっていて思うのは、誰もが器用で、上達が早くて、センスが良い、というわけではないということです。

詩が好きなのに、なぜか詩に好かれていない人、というのが、いるんです。

詩に片思いをしているんです。

詩がこんなに好きなのに、うまい詩が書けない。どんなに頑張っても、詩がほめられることはめったにない。

ところで、ぼくはこれまで何冊も詩集を出したけど、根本のところでは、ぼくもそうなんだと

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根津甚八、小林薫、唐十郎

唐十郎さんが亡くなられた。

ずいぶん昔、芝居を観る習慣のないぼくは、唐十郎のことを、もしかしたら現代詩手帖で知ったのかもしれない。唐さんの密度の濃い文章を、現代詩手帖の誌上で、しばしば夢中になって読んだ記憶がある。

それで、テントへ行って、唐さんの芝居をいくつか観に行った。

根津甚八が水しぶきの中で叫んでいるシーンを、今でも思い出す。そのうち根津甚八がテントからいなくなって、小林薫が主人公を

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俳句を読む 55 東野佐惠子 平凡といふあたたかき一日かな

平凡といふあたたかき一日かな  東野佐惠子

もちろん平凡な毎日が、ただのんきで、何の気苦労もないものだなんてことはあるはずがありません。そんな人も、まれにいないことはないのでしょうが、たいていの人にとっての平凡な一日というのは、たくさんの辛いことや、みじめな思いに満たされています。それでもなんとかその日を踏みとどまって、いつもの家に帰り着き、一瞬のホッとした時間を持てるだけなのです。でも、その辛

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「迷った時に読む”初心者のための詩の書き方”」

「迷った時に読む”初心者のための詩の書き方”」

以下は、「初心者のための詩の書き方」114章を、読む時の目的に分けて並べ替えたものです。だいぶ前に、あるところで詩の講演を依頼された時に、話の材料として用意したものですが、その講演は大きな台風が来て中止になってしまいました。このあいだMacbookの中を整理していたら、これが出てきました。ああこんなのをせっせと作っていたことがあったなと思い出し、そ

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詩を書いていることがバレてしまっても

ぼくは、勤め人をしていた時に、大きな会議室で、財務状況についてプレゼンテーションをすることがたびたびありました。

その頃、ぼくはすでに詩集を何冊か出していて、自分が詩を書いていることが会社でバレてしまっていたのです。若い頃には社内報にまで載ってしまったことがあり、それからずっと同じ会社に勤めていましたから、特に年配の人はたいてい知っていたのです。

そういえば、詩を書く人には、勤め先で、自分が詩

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ある青年の話

ひとりの青年のことを、思い出すことがあります。

ぼくの勤めていた会社は、大きな会社だったので、財務、経理、会計は、いくつかの部署に分かれていました。

ぼくが50歳くらいの頃、隣の部にひとりの新入社員が入ってきました。

外資系の経理というのは、語学と会計についての知識が必須で、だれもが自分の能力を上のものに認められたいと、必死に仕事をしていました。

そんな中で、その青年は、ほとんど目立たなか

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雑誌と読者のコミュニケーションの場をつくる。

本日は朝から雨が降っている。
今朝の雨のように静かに、朝の用事をゆっくりとしている。

明日は13:00から「Zoomによる詩の教室」の続きがある。参加者の詩を読むのだけど、あと4編くらいしかないから、すぐに終わってしまうだろう。平日の昼間だし、参加者も数人しかいない。それはそれで、静かな喫茶店の片隅で小人数で集まっているみたいで、悪くはない。丁寧にやろう。

もし聴いてみたい方がいましたら、
f

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「かろうじて掴めたのが、詩だった」

「詩を書くことに喜びがあるのであり、その詩が誰かの詩よりも秀でることが本来の目的ではない」と、ぼくは本の中でもたびたび書いている。

その思いに嘘はない。

けれど、自分のことを考えてみれば、「人よりも秀でた詩を書きたい」という思いが、なかったわけではない。

それはおそらく、それまでに、これといった優れたものを持っていないと感じていた自分が、生きている意味を求めて、かろうじてつかむことのできたも

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2024年4月21日(日)詩をこよなく愛し、詩にたっぷり愛される。

昨日は「Zoomによる詩の教室」でした。立石俊英さん、南田禎一さん、ユウアイトさんとの2時間ほどの座談会でした。

三人とも、詩を書き始めてから数年しか経っていないということを知りました。それにしては、作品の完成度が高いことに驚きます。そういうものなんだなと、思いました。

つまりは、大人になってから書き始めたのです。

ぼくは子供の頃から詩を書いていたので、そんなふうにも書き始めることができるの

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2024年4月20日(土)床屋で

昨日は歯医者へ、それから夕方、床屋へ行ってきた。床屋で髪を切ってもらっている時に、前の道で大きなクラクションが何度も鳴っている。明らかに誰かが怒っている。そんな鳴り方だ。床屋の主人がぼくの髪を切りながら、鏡越しに外を見て、様子を説明してくれた。

工事で片側交互通行をしていて、路線バスと乗用車が向かい合っていて双方がゆずらないらしい。だから動けないらしい。それで、乗用車の運転手(じいさんだね、と床

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俳句を読む 54 水原秋桜子 朝寝して鏡中落花ひかり過ぐ

朝寝して鏡中落花ひかり過ぐ 水原秋桜子

よくもこれだけ短い言葉の中で、このようなきらびやかな世界を作ったものだと思います。詩歌の楽しみ方にはいろいろありますが、わたしの場合、とにかく美しく描かれた作品が、理屈ぬきで好きです。読んですぐに目に付くのは、中七の4つの漢字です。これが現代詩なら、めったに「鏡中」だとか「落花」などとは書きません。「鏡のなか」とか、「おちる花」といったほうが、やさしく読

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