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みの、バッチョ傘、わらじ登校

 

みの、バッチョ傘、わらじ登校(小説)

 虚士(きょし)が小学2年生(昭和32年) の時の話です。梅雨6月のある日朝から ”ざあ-ざあ-” と雨が降り続いていました。
 7時ごろ、虚士が自宅から250m程度のところにある小学校分校に通学する準備が終わった頃は、既に父母は早朝から、雨合羽(ビニル製)に竹のバッチョ傘を被って田植えに出かけ、兄は唐傘(からかさ、竹細工の骨に油紙を貼った傘)を持って小学校本校(深海集落に所在)へ通学した後でした。
 
 いつもは唐傘が3本あったのですが、父が前の日の寄り合いで1本を置き忘れ、1本は大きく破れたままで、使える傘も雨合羽もありませんでした。
いざ登校しようとして、虚士は雨具が何もないのに気づき、祖父の虚太郎(きょたろう)じさんに「傘ん無か!学校に行かれん」と言いました。
しばらく考えた虚太郎は、「よかもんのある」と言って手作りの稲藁(いなわら)で編んだ「みの」と竹の骨にタケノコの皮を張った「バッチョ傘」を納屋から持ってきました。虚太郎は雨の日はこれを着て作業をします。

 仕方なく虚士はランドセル(厚紙に豚皮を貼ったもので2年程度で破れる)の上に「みの」と「バッチョ傘」履き物はいつもの、わら草履「わらじ」を装着しました。さすがに虚士も自分の姿をみて「みたんなか」(恥ずかしい)と言いました。
 虚太郎は「なあーんも、みたんのうなか」「はよ行け」と送りだしました。
 
「みの」「バッチョ傘」「わらじ」とくれば、当時大ヒットした
歌謡曲「雪の渡り⿃」 ♪ 合⽻~からげて~ 三度笠~
を連想します。当時これを知っていれば、虚士も格好よく感じたかも知れません。
  


 昭和32年リリース。累計180万枚の大ヒット。“合羽からげて三度笠・・・”任侠の世界を描いた長谷川一夫主演映画「雪の渡り鳥」の主題歌。  雪の渡り⿃
歌 三波春夫  作詞 清⽔みのる   作曲 陸奥明
♪ 合⽻からげて 三度笠
♪ どこを塒(ねぐら)の 渡り⿃
♪ 愚痴じゃなけれど この俺にゃ
♪ 帰る瀬もない  
♪ 伊⾖の下⽥の 灯が恋し
 

氷川きよし カバーバージョン

 分校に着いた虚士は、下足箱の前で「みの」「バッチョ傘」「わらじ」を脱ぎ、壁の金具に掛けました。
虚士と同じような雨具を持ってきた子供は一人もいませんが、笑われることはありませんでした。どこの家にもあるものだと知っていたのです。
                      終わり
(この話は実話に基づいていますが、細部の記憶が怪しいので ”小説”としました)






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