レティシア書房

京都市内で小さな書店を営んでいます。新刊書、古書、一人出版社の本、そして全国のミニプレ…

レティシア書房

京都市内で小さな書店を営んでいます。新刊書、古書、一人出版社の本、そして全国のミニプレスを取り扱っています。また、店内にギャラリーも設置して、様々なアーティストにご利用いただいております。 営業時間13:00〜19:00 定休日 月火 TEL075-212-1772

最近の記事

レティシア書房店長日誌

岩瀬成子著「まだら模様の日々」    著者は、1950年山口県生まれの児童文学者です。「朝はだんだん見えてくる」で日本児童文学者協会新人賞、「そのぬくもりはきえない」で日本児童文学者協会賞を受賞、数多くの作品を世に送り出してきました。本書は、エッセイ「まだらな毎日」と「連作短編釘乃の穴」を組み合わせた最新作です。久々に、正統派のエッセイを堪能しました。    著者が小さい時の家族を描いた「玄関」にこんな描写があります。  「縁側の雨戸はすでに閉められている。玄関の前にいつも

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      小野有五「自然のメッセージを聴く 静かな大地からの伝言」    著者の小野有五は、1948年生まれの地質学者です。86年から北海道に渡り、日本の先住民族アイヌの人たちの誇りと人権を守る活動や多くの自然保護運動に関わりながら、北海道だけでなく日本全国の自然の姿を文章にして届けています。    かつてテレビで、著書「戦う地理学」(古書2600円)を巡って、著者とパネラーが楽しそうに話しているのを見た記憶があります。その時の飄々とした感じを覚えています。今回、北海道新聞社から20

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        エドアルド・デ・アンジェリス監督「潜水艦コマンダンテ」    ミリタリー映画のオタクというわけではないのですが、潜水艦の映画だけは欠かさず観ます。そのほとんどに駄作がないのも大きいかも。これもそんな一本と思って劇場に足を運びましたが、いい意味で期待をはぐらかされました。潜水艦映画は、ヒーローが活躍して窮地を脱する物語が多く、いかに緻密にサスペンスとアクションを積み重ねるかが勝負なのですが、本作では決断を迫られる艦長は登場しますが、スーパーヒーローではありません。さらに、潜水艦

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          稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」    「魂の退社」等の著書などでファンの多い、”アフロヘアー”の元朝日新聞記者稲垣みえ子と、25歳の時に東京郊外で「週休5日年収90万」の隠居生活を始めた大原扁理の対談集です。(百万年書房2200円)  この本のタイトルの一部になっている「ファイヤー」の意味をご存知でしょうか? 「ファイヤーと言っても、火事ではなく。正確には FIRE。『Financial Independence,Retire Early』を略した造語で、直訳する

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          金井真紀「テヘランのすてきな女」    相撲ファンの著者が、世界相撲選手権大会にやってきたイランの男子選手に、あなたの国は女子相撲はないの?と聞いたところ、女子選手もいるよと、スマホ画面を見せてくれました。 「イランの女性のお相撲さんたちは黒い長袖シャツと黒い10分丈のスパッツで全身を覆い、頭には黒いスカーフを巻き、そのうえでまわしを締めているのだ。 『おぉ、この格好で相撲を』 わたしたちがイメージするお相撲さんの姿とは似ても似つかない。肌を一切出さずに、それでも相撲がやりた

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          江國香織「読んでばっか」    書評でも文芸評論でも、あるいは映画&音楽評論でも、「〜である」調のものはあまり読まないようにしています。どこか上から目線のように思えるのです。実際、一時のジャズ評論はそういうのが多くて、辟易したものでした。  でも江國香織の新刊「読んでばっか」(1980円)は、書評集とは思えないほど楽しくて、ウキウキしてきて、どんどん読んでしまいました。    「子供のころ、家の近くに野すみれの群生する場所があった。夕暮れにその場所に立っていると、まわりにた

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          荒井裕樹「まとまらない言葉を生きる」    「憎悪表現は、ふりまく側にとってみれば自分なりの正義を叫んでいるのかもしれない。でも、そうした言葉をよくよく聞いてみると、卑近な嫌悪感が卑俗な正義感をまとっているだけだったりする。 『言葉が壊される』というのは、ひとつには、人の尊厳を傷つけるような言葉が発せられること、そうした言葉が生活園にまぎれ込んでいることへのためらいの感覚が薄くなってきた、ということだ。」  社会的に大きな力を持った人や政治家が、対話を一方的に打ち切ったり、説

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          ジョセフィン・デッカー監督「シャーリイ」    スティーブン・キングの「シャイニング」に影響を与えたと言われる、アメリカンゴシック小説の女性作家シャーリイ・ジャクソン。  とある古本市で、彼女の「鳥の巣」が高額で出品されていたのを覚えていますが、実際に読んだことはありません。1916年サンフランシスコに生まれ、48年「ニューヨーカー誌」に、短編「くじ」を発表してセンセーションを巻き起こします。59年ゴーストストーリーの古典ともいわれる「丘の屋敷」を発表。キングが激賞したことで

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          沼田真佑「幻日/木山の話」    久々に手強い読書になりました。と言っても、退屈というわけではなく、途中で読むのを辞めようとは全く思いませんでしたが。本作には八つの短編が収録されていてどの作品も、こんな風な情景描写で始まります。(新刊2090円) 「春の月影が、こんなにも明るいものだとは知らなかった。この季節に見る月は、薄雲か何かでぼうっとかすんだ、朧月夜に決まったものと思っていた。それだから光の量はささやかで、路は仄暗く、夜歩きには向かないのではとの懸念はしかし、杞憂だった

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          「図鑑と地図」後藤郁子切り絵作品展    潔い線と暖かな雰囲気を持った「切り絵」の作品展が始まりました。後藤さんのモチーフは、子どもと本と、地図と、鳥と植物と空・・・。鳥に乗って飛んでる少女など懐かしいお話の一場面のような作品、地図とコンパスと等高線の旅の作品、身近な自然の中で生きているものたちに対する優しい眼差しがあふれています。   「山の中や森のを歩くのが好きです。 歩きながら見つけた植物の形や、出会った動物たちを切り絵で表現したいなと思っています。『人間なんか知った

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          葉真中顕「鼓動」    「明日は今日よりも豊かになる。  ユーラシア大陸の東の端からぽとりとこぼれた水滴のような、この日本という島国では、だれもがそう信じることのできた時代が長く続いた。 ぼくが生まれたのは、そのさなか、1974年6月13日のことだった。」 そして今、48歳。無職、独身、恋愛経験なし、ずっと引きこもりの草鹿秀雄の言葉で本書はスタートします。(新刊1870円)    ある夜、ホームレスの老女が殺され、燃やされる事件が起きます。その場にいた草鹿は逮捕され、さらに

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          ユ・ジェソン監督「スリープ」    韓国発のホラー映画。積極的にホラーは見ない方ですが、これは予告編がスタイリッシュでクールだったので映画館に足を運びました。怖かった! しかし、その舞台設定もプロットのひねりも、サスペンスを恐ろしく高めるカメラワーク等々、とても楽しい?のも事実でした。第76回カンヌ映画祭の新進監督発掘部門の「批評家週間」にエントリーされたもので、一筋縄でいくようなホラー作品ではありませんでした。    あるマンションで暮らす妊娠中の会社員スジンが、夜中に目

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          「ファッションヒストリー1850-2020」    成実弘至監修「国際ファッション専門職大学」編による「ファッションヒストリー1850-2020」は、モードと言われる近代ファッション誕生の19世紀後半から、170年間の国内外のファッションの変遷を、多くの美しい写真を駆使して解説した一冊です。特筆すべき点は、服装の変遷が、その時々の社会情勢や経済状況、新しいアートなどから影響を受けて登場していることを教えてくれることです。    第4章「ビートルズとファッション」では、「『フ

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          池澤夏樹「ノイエ・ハイマート」    「『あとがき』ならばともかく、文芸作品に作者が自分で解説を添えることはまずない。しかしこの本の場合はそれが必要ではないかと思った。」と「作者自身による解説と最後の引用」に書かれています。本書は、著者の短編と詩、引用などから成る一冊です。なぜ、そういう構成をしたかの説明に引き続き、「2024年4月の付記」で、本書の趣旨をこう説明しています。  「圧倒的な武力を持つ集団が他の集団のメンバーを大量に殺す。 殺される側に抵抗の手段がなければただ逃

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          小林エリカ「彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!」    「彼女たちの戦争は、いったいどんなものだったのか。 彼女たちは、いったいそこに、どのように抗い、どのように呑み込まれ、あるいは、そのどちらでもなく、どのように、生きのびたのか、死んだのか。 私は、彼女たちが、どのようにして戦争を生きたのか。知りたい。」最初に、著者は書いています。(新刊1870円)    現在も続く戦争。収束の兆しのない現状に、著者自身が何もできない苛立っている。けれど、そういう時代に、「かつて生きて

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          ミハウ・クフィェチンスキ監督「フィリップ」    映画「フィリップ」の原作は、ポーランドの作家レオポルド・ティルマンド(1920-1985)の自伝的小説として、1961年にポーランド当局による検閲で大幅に削除されて出版されましたが、すぐに発禁になり、長い間陽の目を見ることがありませんでした。2022年になって、オリジナル版が出版されたという紆余曲折の歴史を持っています。  小説はティルマンド自身が1942年にフランクフルトに滞在していた実体験に基づいているそうです。監督のミ

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