レティシア書房

京都市内で小さな書店を営んでいます。新刊書、古書、一人出版社の本、そして全国のミニプレ…

レティシア書房

京都市内で小さな書店を営んでいます。新刊書、古書、一人出版社の本、そして全国のミニプレスを取り扱っています。また、店内にギャラリーも設置して、様々なアーティストにご利用いただいております。 営業時間13:00〜19:00 定休日 月火 TEL075-212-1772

最近の記事

レティシア書房店長日誌

養老孟司&宮崎駿「虫眼とアニ眼」    虫好き解剖学者と映画監督の対談。面白くないわけがない!一冊です。お互いに本音で、言いたいことをドンドン発言しています。(古書1050円) 1997年、98年、2001年の3回の対談に加えて、宮崎監督の養老先生の印象を描いた漫画「養老さんと話して、ぼくが思ったこと。」と、養老先生の宮崎アニメ論が、巻頭と巻末に収録されています。  「『となりのトトロ』で、妹がトトロを発見してジーッと見つめているシーンがありましたでしょう。ぼくは、あの女の子

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      小川公代「世界文学をケアで読み解く」    断崖絶壁のはるか彼方に頂上の見える山にロープをかけて、登ったものの見事に落下。再度登るも、またまた落下……というような本ですね、これは。  近年、文学の読み解きに「ケア」という語が使われています。ケアとは一般的に言えば、病人、高齢者の介護、子育て、家事労働等々、他人の面倒を全般的に見ること、またはその相手の立場に寄り添い思いやることを指す言葉です。  十八世紀イギリスの医学史の研究という社会学の分野から英文学に転向した著者は、「ケア

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        坂本麻人監督「ミルクの中のイワナ」    先週の「燃えるドレスを紡いで」に引き続いて、記録映画「ミルクの中のイワナ」を観ました(京都アップリングで上映中)。色々と考えさせれ、そして何度も驚きました。  イワナの命を森で支えていたのは、ハリガネムシという寄生虫だったという事実。ハリガネムシは、キリギリス、カマキリ、カマドウマらの昆虫に寄生し、やがて寄生した虫の脳みそを操り、水の中に飛び込ませるというSFもどきの活動をします。その虫をイワナが食べ、栄養をとっているのです。驚くべき

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          松本紀子写真展 「kasane flowers」  「時にひいて見たり、時に近づいて見たり、   私たちは物事を、さまざまな方向から捉えることができる。   では、ひとつのものを多角的に眺め、   視覚が切り取ったらそのひとつひとつを重ね合わせた時、   そこにはどんな世界が生まれるのだろうか?」  フォトグラファー松本紀子さんの、4回目の個展のテーマは花です。花をただ撮るのではなく、同じ花をさまざまな角度から9枚撮り、カメラの中でその9枚を重ねた(そんなことができるら

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          草生亜希子「逃げても、逃げてもシェイクスピアー翻訳家・松岡一子の仕事」    松岡和子。1942年満州国生まれ。敗戦後、父は捕えられシベリアに抑留。1946年、母は小さい子供3人を連れて引き揚げ。和子は大学卒業後、劇団雲の研究生になりシェイクスピアに出会う。1961年、ちくま文庫から「シェイクスピア全集1ハムレット」を刊行。その後25年をかけてシェイクスピアの全戯曲を完訳し、同文庫から発売。  「逃げても、逃げてもシェイクスピアー翻訳家・松岡一子の仕事」(新刊1980円)は

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          アナグマのいる空間     アナグマの本を2冊紹介します。1冊目はパトリック・バーカム著「アナグマ国へ」(古書2600円)です。精緻な自然描写と丹念な取材活動から生まれた、英国ネイチャーライティングの傑作と評価されています。    梨木香歩が帯に「どうすればいいのか、途方に暮れる、ふと目を上げる。そこに、アナグマ国への入り口はある」と書いています。  著者は元々アナグマ保護活動家だった祖母の足跡を辿ってゆく中で、その生態と受難の歴史を知ることになります。害獣のごとき扱いだっ

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          雨宮まみ「40歳がくる!」    先日ブログで紹介した前田隆弘の「死なれちゃったあとで」に、2016年に40歳で亡くなったライターの雨宮まみとの交流のことが、40ページにわたり書かれていました。前田が、信頼しリスペクトしてきた雨宮の死について、迷った挙句、彼女の著書「40歳がくる!」(新刊1870円)を読んだことで書こうと決めた、と書かれてあったので、私も読んでみようと思いました。  雨宮まみは1976年福岡に生まれました。女性性とうまく付き合えない生きづらさを描いたエッセ

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          小川洋子「小箱」    小川洋子的世界に満ち溢れた長編小説です。まかり間違えば、ホラー映画になりかねない設定で、町に住む住人すべて、生きている熱量が全く感じられないのです。主人公からして廃園同然の幼稚園に住んでいます。  「どうやって手入れをしたらいいか分からず放っておいた園庭は、あっという間に草木に侵食され、幼稚園の名残りも大方覆い隠されてしまった。門扉の上部に掲げられたアーチ形の看板には幾重にも蔓植物が巻きつき、判読できる文字は”ら”と"ん”しかなく、ジャングルジムや滑

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          関根光才監督「燃えるドレスを紡いで」    環境負荷が高い産業の一つと言われているファッション産業。現在、世界で作られている服の75%が廃棄されていて、行き先のなくなった服が、アフリカのケニアに押し付けられ、巨大なゴミの島が出来上がっているということです。その現実を突きつけられた日本のデザイナーの姿を追いかけたドキュメンタリー映画です。(京都シネマで上映中)  ケニアに向かった中里唯馬は、日本人としては森英恵以来二人目となるパリ・オートクチュール・コレクション公式ゲストデザ

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          前田隆弘「死なれちゃったあとで」  「面白くて途中で読むのをやめられない。前田さんの文書には、読む人を前へ前へと駆り立てる不思議なエンジンがある。」とは、帯に書かれた翻訳家の岸本佐知子の言葉です。本当に、この言葉通り。でもこの本はエッセイなのかな?なんか、私小説みたいな雰囲気もあります。(新刊1870円)  著者は福岡市生まれのフリーランスのライターです。本書は彼が出会った、友人や知人の死、父の死をめぐって書かれています。  最初に登場するのは、大学時代の友人D。「半年バ

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          松本清張!     松本清張の名前を知らない人は、あまりいないと思います。社会派推理の巨匠として作品の映画化、あるいはTVドラマ化されたものを一つや二つはご存知のはず。私も「砂の器」やら「点と線」やら、学生の時には読みましたが、その後ばったりと読まなくなりました。  数年前、みうらじゅんの「清張地獄八景」を読んで、みうらの慧眼に驚いたことがあります。その頃からもう一度、清張を読み直そうと思っていましたが、清張没後30年記念で出ていた「初期ミステリ傑作選 なぜ『星図』が開いてい

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          クリストファー・ノーラン監督「フォロウィング」    映画「オッペンハイマー」が話題のノーラン監督の処女作「フォロウィング」(1998年)が、オリジナル版16ミリをデジタル技術で監督自らが監修して、鮮明な画像で蘇りました。  ノーラン監督の作る映画は、観客に対して基本的に不親切です。特に映画に流れる時間が、未来から過去に来たり、過去と未来が同時に存在したりして、説明もありません。だから、画面に食いいるように観てしまうのです。  この第1作も、やはりそうなのです。物語はシンプ

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          柏澄子「彼女たちの山」(新刊1870円)    サブタイトルに「平成の時代、女性はどう山を登ったか」とあり、第1章では平成時代に活躍した女性クライマー5人を取り上げています。第2章では、「山ガール」「山小屋の女性たち」「山岳ガイド」「大学山岳部」「スポーツクライミング」「アルパインクライミング」というテーマ別で、山に関する所で活動する女性たちを追いかけたノンフィクションです。著者自身、日本山岳ガイド協会認定の登山ガイドで、山に関する本を多く出しています。   5人のクライマ

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          絵言葉「やまもみどりか展」  絵と文字を同じ画面に描く「絵てがみ」。上手に描くことを目的にするのではなく、季節の移ろいや、身の回りにあるものを、素直に大胆に描き、言葉を添えて誰かに贈る、ということから始まったように聞いています。  やまもみどりかさんは、滋賀県在住。40歳から「絵てがみ」を描き始められたそうで、数々の絵手紙のコンテストで受賞されてきました。そして現在は、絵も文字も、「絵てがみ」から大きく広がり、美しい作品になって輝いています。  「欲を捨てると 陽があたる

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          松岡宏大「ひとりみんぱく」    「ひとりみんぱく」って何? 著者は、「地球の歩き方」などでインド、アフリカなどを取材、編集をしてきた人です。本書のタイトルについて、こう説明しています。 「『みんぱく』とは大阪の万博記念公園内、太陽の塔のとなりに建つ『国立民族学博物館』の愛称である。本書の『ひとりみんぱく』というタイトルであるが、これは初めて僕が『みんぱく』を訪れた際、『うちにもあるな…..』という感想を抱いたことに由来する。」  仕事柄、世界中を旅してきた著者は、行く先々で

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          あさいち」(語り/輪島・朝市の人々 絵/大石可久也 復刊1100円)    本書は1980年に発行された絵本です。今回、復刊されました。早朝、漁から戻った船から、採りたての魚が水揚げされるところから始まります。一方、畑の方でも収穫が始まります。  「おらちの はたけは ゆきのした。みずなも ねぎも ゆきをかきわけて ほる。 あしのさきから ちびてえぞ。あらいばの みずは てがきれるみてえだ。」と言いながらおばあちゃんは野菜を土から抜いていきます。  そして、輪島の朝市へと、

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