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レティシア書房店長日誌

金井真紀「テヘランのすてきな女」
 
 相撲ファンの著者が、世界相撲選手権大会にやってきたイランの男子選手に、あなたの国は女子相撲はないの?と聞いたところ、女子選手もいるよと、スマホ画面を見せてくれました。
「イランの女性のお相撲さんたちは黒い長袖シャツと黒い10分丈のスパッツで全身を覆い、頭には黒いスカーフを巻き、そのうえでまわしを締めているのだ。 『おぉ、この格好で相撲を』 わたしたちがイメージするお相撲さんの姿とは似ても似つかない。肌を一切出さずに、それでも相撲がやりたいと願う女性たちはどんな人たちなのか。会ってみたい。その瞬間、わたしのイランへの興味がにわかに燃え上がった。」
 イランの女子相撲探訪に興味を持ってくれる編集者に、どうせならイランへ行って金井さんも相撲をとった方が面白い、と言われて著者はイランに渡ります。
 

 いったい日本人は、イランという国のことをどれほど知っているのでしょうか。イスラムの戒律のきつい国とか、どこかで戦闘が起こっている国だとか、そんな程度でしょうか。本書を読むと、この国のことが少しづつ見えてきます。何よりも、自由を大幅に制限されている国で、それなりに人生を楽しむすてきな女性たちが、数多く登場します。ちなみにイランでは、女子相撲の取組中に頭に巻いているスカーフが外れたら負けという独自のルールがあるそうです。
 「たたかう女」の章で、最初に登場するイランではまだ数少ない女性弁護士スィーマー・グーシェさんは、今の女性の立場をこう言い切ります。
 「この国で女性たちが不自由なのは服装だけじゃない。書くこと、話すこと、考えること、すべてに自由がないの。1979年に革命が起きてからずっと、イランの女性たちは自分を偽るように強いられてきた。家のなかでは男性の友達と握手するしハグもする。でも外へ出たらそういうことは一切しない。まるで二重人格ですよ。わたしたちは演技しないで生きたいだけなの、他の国の女性たちみたいに」
 政治犯の弁護を引き受けると、秘密警察から脅迫じみた電話があるらしい。また、週4回はレイプ事案の電話を受けるとか。そして、著者も驚くのだが、イスラム法ではレイプ犯は死刑なのです。つまり加害者が死刑になる裁判を起こさねばならないことになるのです。さらに、婚前交渉は犯罪です。よって、裁判で合意のもとの性行為と判断されると、被害を受けた女性も有罪(鞭打ち刑)になるという。最近は被害者の鞭打ち刑は無くなったらしいが、死刑までは望まない場合は、レイプではなく合意の上という判決になるしかないというのです。
 「はたらく女」という章では美容整形外科のアーレズーさんが登場します。イランの美容整形技術はかなり高度です。それは、「イラン・イラク戦争で体の一部を失った人のために発達した」と彼女は言います。驚くべきは、ここに住む6割以上の女性が豊胸手術を受けているのです。外では、体の線が出ない服を着ている女性たちが豊胸手術?それって夫のため?と思った著者に「いいえ、それは違います!手術は自分の体を好きになるためよ。男のためなんかじゃないの、けっして!」ときっぱり否定しました。
 こんな風にベールに包まれた国で生きる「テヘランのすてきな女」たちがわんさか登場して、上から目線の教科書的歴史案内ではなく、ぐっとこの国を身近なものにしてくれますよ!
 「あぁ、どうかそれぞれがその人らしくいられますように。この人生を味わって進んでいけますように。 これはイランで出会った人たちにも、わたし自身にも、いやもう全世界の全員に言いたいことだ。 (中略) 横暴な権力者、古くさい思想、クソ差別、自信を失いそうになるたくさんの落とし穴に負けずに、それぞれがその人らしくいられますように。この人生を味わって進んでいけますように。心からそう願っている。」最後に記した著者の言葉が沁みます。

●レティシア書房ギャラリー案内
7/10(水)〜7/21(日)切り絵展「図鑑と地図」 後藤郁子作品展
7/24(水)〜8/4(日)「夏の本たち」croixille &レティシア 書房の古本市
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色』やまなかさおり絵本展

⭐️入荷ご案内
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本2」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
辻山良雄「しぶとい10人の本屋」(2310円)
辺野古発「うみかじ8号」(フリーペーパー)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
「フォロンを追いかけてtouching FOLON Book1」(2200円)
庄野千寿子「誕生日のアップルパイ」(2420円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
「中川敬とリクオにきく 音楽と政治と暮らし」(500円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)


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