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レティシア書房店長日誌

ジョセフィン・デッカー監督「シャーリイ」
 
 スティーブン・キングの「シャイニング」に影響を与えたと言われる、アメリカンゴシック小説の女性作家シャーリイ・ジャクソン。
 とある古本市で、彼女の「鳥の巣」が高額で出品されていたのを覚えていますが、実際に読んだことはありません。1916年サンフランシスコに生まれ、48年「ニューヨーカー誌」に、短編「くじ」を発表してセンセーションを巻き起こします。59年ゴーストストーリーの古典ともいわれる「丘の屋敷」を発表。キングが激賞したことで広く知られるようになりました。

 この映画は、彼女の伝記小説に斬新な解釈を加えて映像化されました。文学を学ぶローズは、夫のフレッドがシャーリイの夫である大学教授ハイマンの補佐の職を得て、夫婦でハイマン家に居候することになります。気性が激しく言動が不気味でさえあるシャーリイに、最初は一歩引いていたローズでしたが、その魔女的な魅力に少しづつのめり込んでいき、彼女の世話係りのような存在へとなっていきます。さらに、同性愛的なムードまで醸成されていきます。このねっとりとした感覚。シャーリイを演じたエリザベス・モスが圧倒的な怪演で、観客を離しません。あの視線で見つめられたら、頭の中に彼女が侵入してくるような気がします。
 

怪演
怪演のE・モス

 現実の出来事と、シャーリイが執筆中の小説の中のシーンが混在し、やがて時間は前後関係を失い、ローズも観客も幻覚のような世界へと引きずり込まれます。そういう意味では怖い映画です。
 ラスト近く、二人の女性が断崖に立っています。崖の縁に立つローズを、シャーリイは引き戻そうとしているのか、いや、シャーリイはまさにローズを崖の下に落とそうとしているのか。強風の崖の上で、二人は倒れそうになりながら、足元の絶壁を覗き込みます。え?これ現実なの、それとも心象風景なの??
 ふと気付くとローズがいない。崖の上にいるのはシャーリイ一人。やっぱり…..と思った瞬間に、ローズは夫と共に、シャーリー家を後にするシーンが挿入されます。そこで、ローズは、それまでの夫に従順な妻らしからぬセリフを口にし、まるでシャーリイのような挑戦的な表情を見せます。
 映画は観客をうんざりするような同居生活に閉じ込めますが、彼女の小説もそういう設定が多いらしい。そしてラスト、やはりシャーリイは魔女だったのか!と思わせる幕切れでした。酸欠状態になりそうな画面ですが、目が離せないのも事実です。これ、私は好きです。

●レティシア書房ギャラリー案内
7/10(水)〜7/21(日)切り絵展「図鑑と地図」 後藤郁子作品展
7/24(水)〜8/4(日)「夏の本たち」croixille &レティシア 書房の古本市
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色』やまなかさおり絵本展

⭐️入荷ご案内
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本2」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
Troublemakers (3600円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
降矢聰+吉田夏生編「ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト
(2530円)
「些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
辻山良雄「しぶとい10人の本屋」(2310円)
辺野古発「うみかじ8号」(フリーペーパー)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
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庄野千寿子「誕生日のアップルパイ」(2420円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
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