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レティシア書房店長日誌

小林エリカ「彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!」
 
 「彼女たちの戦争は、いったいどんなものだったのか。 彼女たちは、いったいそこに、どのように抗い、どのように呑み込まれ、あるいは、そのどちらでもなく、どのように、生きのびたのか、死んだのか。 私は、彼女たちが、どのようにして戦争を生きたのか。知りたい。」最初に、著者は書いています。(新刊1870円)
 

 現在も続く戦争。収束の兆しのない現状に、著者自身が何もできない苛立っている。けれど、そういう時代に、「かつて生きて、死んだ、彼女たちひとりひとりの、ささやきを、聞きたい。」と、本書は出来上がりました。
 登場するのは、アンネ・フランク、伊藤野枝、マタ・ハリ、エミリー・ディキンソン、ヴァージニア・ウルフ、カミーユ・クローデル、メイ・サートン等28名。この誰もが、無関係には生きられなかった戦争と、人生について描きだされます。一人につき数ページと簡潔ですが、興味を持った人があれば、最後に参考文献の一覧がありますので、より深く彼女たちの人生を追いかけてください。
 当店でも人気のある文学者メイ・サートン。「彼女の人生は、言葉は、年齢を重ねるごとに、凄みと輝きをどこまでも増してゆく。」と書かれています。メイ・サートンは、第一次世界大戦でドイツが故郷ベルギーへ侵攻したために、アメリカへ亡命します。第二次世界大戦下にあっては、アメリカ各地で詩の朗読と大学の講義で生活をしていきます。戦後は作家として活動しますが、自ら同性愛者であることを告白して大学を追われ、六十二歳の時メイン州の海辺の街へ移り住み、一人暮らしの日記を発表していきます。
 「何度も彼女は打ちのめされる。けれどその絶望と孤独を、どこまでもはっきりと見つめることが、書くことが、詩に、作品に、結実してゆく。彼女は、若さを偏重するアメリカ文化に疑問を突きつけ、年をとることの素晴らしさを語り、ときには激昂し、ときには狼狽し、不安に襲われる。けれど彼女は自殺もしないし、筆も折らない。生きつづける。書く。身体が動かなければテープに録音してでも、書きつづける。生に、死に、性に、愛に、どこまでも正直に。ただ独り、自分自身の魂にだけ責任を持ちながら。一日一日の旅をつづける。 彼女がヨークの病院で死ぬのは、八三歳。 彼女が放つ光は、私を、私たちを、照らし、慰めつづける。 『海沿いの岩の多い島に灯台守がいると知ることが慰めになるようにして』」
 本書の最後は、第二次世界大戦下、日本で風船爆弾(昨今、北朝鮮が韓国に飛ばしている、あれです)を製造して、アメリカに飛ばし続けた少女たちです。「手先の柔らかい若い女学生の手が和紙の貼り合わせに適している」という理由で、全国の女学生がこんなことを強いられました。風に乗ってアメリカに飛んで行った爆弾の一つが爆発し、六人が亡くなりました。戦後、犠牲者の名前を知った元女学生たちが謝罪に渡米したというのです。日本軍は証拠隠滅に走ったというのに。著者は、女学生の名前を知りたくて、残された痕跡を辿っているところだそうです。
 本書の「はじめに」のところで、「しかもその戦争の殆どは、彼女たちがはじめた戦争ではない。それらの戦争は、国は、政治は、かつて男たちのものだったから。」と書いています。彼女たちを踏みにじった男たちもこの本にはズラリと登場します。

休業のお知らせ 7月1日(月)〜5日(金)お休みいたします。

●レティシア書房ギャラリー案内
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子
7/10(水)〜7/21(日)切り絵展「図鑑と地図」 後藤郁子作品展
7/24(水)〜8/4(日)「夏の本たち」croixille &レティシア 書房の古本市

⭐️入荷ご案内
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
Troublemakers (3600円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
降矢聰+吉田夏生編「ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト
(2530円)
「些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
「本と本屋とわたしの話vol.21」(300円)
辻山良雄「しぶとい10人の本屋」(2310円)
辺野古発「うみかじ8号」(フリーペーパー)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
「フォロンを追いかけてtouching FOLON Book1」(2200円)

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