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レティシア書房店長日誌

稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」
 
 「魂の退社」等の著書などでファンの多い、”アフロヘアー”の元朝日新聞記者稲垣みえ子と、25歳の時に東京郊外で「週休5日年収90万」の隠居生活を始めた大原扁理の対談集です。(百万年書房2200円)

 この本のタイトルの一部になっている「ファイヤー」の意味をご存知でしょうか?
「ファイヤーと言っても、火事ではなく。正確には FIRE。『Financial Independence,Retire Early』を略した造語で、直訳すると『経済的に自立して早期リタイア』となる。定年を待たずに引退し、あとは好きなように暮らすライフスタイルのことなんだそうです。」と、稲垣が説明しています。では、本書はそんな考えをフォローする本かと言えば、違うのです。
 「シン・ゴジラ」と同じように「シン」という語がくっついています。
彼女によると、「やっぱりFIREの本ってどれも『お金の本』なんです。そこに限界があるなと思いました。要するにFIREって『お金の心配から解き放たれるためにはお金を貯めましょう』という話じゃないですか。」
 この二人は、とんでもない節約生活を実践されています。稲垣は「『お金、あってもいいけど無くてもいいよね』と思える人は、お金以外の幸せになる手段をたくさん持っているんです。だからお金を使わなくても惨めだと思わないし、結局そんなにお金を使わないじゃないですか。使わない生活に不満はないし、惨めさもないし、何ならお金を使わない方が案外楽しいぐらいに思っているから収入がどう変わろうが結局お金にいつも余裕がある。」と言います。
 一見お金からの自立を目指すファイヤーが、最後までお金を拠り所にしている矛盾を突いて、二人は、私たちが本当に目指すお金に頼らない人生を組み立てていきます。この本のいいところは、ここぞという二人の発言には、すべて黄色のマーカーで線引きしたようになっていて、そこを抑えておけば全体の趣旨がはっきりと入ってきます。なるほどなぁ、という気分になる箇所がかなり多く、今のところ、最も多く付箋を付けた本になりました。
 二人が実践していることや、こうあるべきと語っていることすべてを、私たちが出来るというわけではありません。でも、仕事でお金を儲けること、いい暮らしをすることが当たり前のように思われていることに対して、いや、ちょっと待てよと、歩みを止めてくれます。もちろん、あぁ、私も実践しているよ!と言う意識の高い人も多いかもしれません。
 「福島の原発事故をきっかけに始めた超節電生活もすごく大きかった。原発のない生活ってどんなもんだろうと思って、エアコンとかテレビとか掃除機とか洗濯機とか、それまでずっと『無きゃ生きていけない』と思っていたものを恐る恐る手放していったんですけど、これがやってみたら案外なんとかなった。で、そのことが、どんな高価なものを買うことよりも、めちゃくちゃ解放感があったんですよ。無きゃ生きていけないと思ってたものが、無くても全然生きていける!って、その楽しさは、これまでまったく経験したことのないような、爆発的なものだったんです。 つまり、私は『無い』ことの楽しさにどんどん気づいていったんです。それまでずっと、『ある』ことが幸せで、『無い』ことは不幸と決めてかかっていたけれど、まったくそうじゃなかった。」と、稲垣は回想しています。
 お金にとらわれないことを究極目指すと、ここまで来るのかなと思いました。経済界からは、おそらく推薦本にはならん一冊です。

●レティシア書房ギャラリー案内
7/10(水)〜7/21(日)切り絵展「図鑑と地図」 後藤郁子作品展
7/24(水)〜8/4(日)「夏の本たち」croixille &レティシア 書房の古本市
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色』やまなかさおり絵本展

⭐️入荷ご案内
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本2」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
辻山良雄「しぶとい10人の本屋」(2310円)
辺野古発「うみかじ8号」(フリーペーパー)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
「フォロンを追いかけてtouching FOLON Book1」(2200円)
庄野千寿子「誕生日のアップルパイ」(2420円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
「中川敬とリクオにきく 音楽と政治と暮らし」(500円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)

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