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「感じる」ためにこそ「考える」のだと教えてくれる一冊

考えるな、感じろ。

映画「燃えよドラゴン」でブルース・リーが発したセリフです。

たしかにうだうだ悩むよりも、直観や一瞬のひらめきでスパッと決断する方がカッコ良く見えます。なんとなく有能そうにも映る。

しかしアドリブで間違えずに対処できるのは、日頃からそのジャンルの経験を積み重ね、なおかつ十分な準備をしているからこそ。ゆえに「一瞬のひらめき」の妥当性を担保できるのは「長時間積み重ねた行動と思考」であると断言できます。

よく「いいアイデアが浮かぶのは、考えて考えて、そのうえで一度忘れてリラックスしているとき」といわれます。私も毎週日曜に発表している「ハードボイルド書店員日記」の構想がまとまらず、半ば諦めて風呂に入ってぼーっとしているときに意外な発想が浮かぶ、なんてことが多々ありました。

天才的なひらめきを欲するなら、愚直なプロセスを大事にすべし。それを教えてくれた一冊が↓です。

篠崎にある「読書のすすめ」のオンラインショップで知りました。いつもありがとうございます(同サイトでは完売したようです)。

著者のガルリ・カスパロフは元・チェスの世界王者。タイトルを15年間保持しました。こういう人に対しては「記憶力が抜群」「常人には思いつかない手が浮かぶ」「何十手も先を読める」みたいな神格化バイアスを施しがち。必ずしも幻想ではない。でも本書を読むことで実態が浮き彫りになり、自分にも応用できると学びました。

彼は常に戦略を重視します。そして長期的なゴールと中間目標を定める。意外な展開になったときも、基本的にはプランの一貫性を選ぶ。もちろん千載一遇の好機はまた別です。サッカーで相手GKが転んだときのような。がら空きのネットへボールを蹴り込むだけでいいのに、わざわざ見逃す必要はない。かといって焦ってミスをするのももったいない。

大事なのは常に平常心でいること。そして普段から様々なシチュエーションを想定し、対応できる柔軟性を養っておくこと。神風を期待するのではなく(=そういうものを戦略に組み込まず)、一方でいつ吹いてもいいように心身を整える。なおかつ瞬間的においしい流れが来ても、予め定めた長期的な戦略と比べて妥当じゃないと判断したら、あえてスルーする。

ここの見極めが難しそうです。書店でいうなら、たとえ店のカラーに合わなくてもいまトレンドの本を仕入れて売りまくるか、一時的な流行に乗っからず貫いてきた哲学を重んじるか。導き出す決断を最適解へ近づけるには、一体何が求められるのでしょうか? 

著者は「具体的な分析」及び「自己の決断が正しいか否かを知るために必要な作業を敬遠しないこと」と記しています。つまり面倒臭くても、ケースバイケースで悩むしかないと。経験や成功体験をパターン化して活かすこともできますが、思考停止してそれらに流されるだけだと前例にない状況が来たときに誤った選択をしてしまう。

「何物にも囚われない」及び「囚われないことにも囚われない」水のようなしなやかさと湖面のような落ち着き、そして曇りのない眼差しが肝要。というのが、現時点における己の到達点です。

考え続け、でもそこに縛られない。貫くけどいつでも捨てられる。この一見矛盾する姿勢を続けることが、斬新なひらめきを生む確率を高める。そんな気がしています。

ぜひ。

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