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ハードボイルド書店員日記

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ハードボイルドな書店員が綴る、本屋が舞台の掌編小説。いつか紙の本で書籍化したい。毎週日曜日に更新。
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記事一覧

ハードボイルド書店員日記【182】

「月末に○○書店がオープンするね」 週刊誌を買いに来た常連の老紳士がレジで呟く。 春休み…

Y2K☮
5日前
26

ハードボイルド書店員日記【181】

「『あさいち』売れてますか?」 日曜の午前中。嵐の前の静けさを感じつつカバーを折る。3月…

Y2K☮
12日前
23

ハードボイルド書店員日記【180】

「国に何かしてもらおうとは思わないよ」 書店以外にも苦しい業界はあるからねえ。メンターは…

Y2K☮
2週間前
29

ハードボイルド書店員日記【179】

「使えますか?」 平日も賑わう春休みの午後。鼻の奥と眼球がムズムズする。カウンターを出て…

Y2K☮
3週間前
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ハードボイルド書店員日記【178】

「オカダの本、ある?」 静かな平日の午前中。レジにふたりは要らない。抜けて品出しを続ける…

Y2K☮
1か月前
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ハードボイルド書店員日記【177】

「俺もひとつ訊いていいすか?」 春の襟足が目立ってきた週末の昼。外国人に「イングリッシュ…

Y2K☮
1か月前
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ハードボイルド書店員日記【176】

「ピーターラビットの500円を5枚、1000円を3枚。1枚ずつ包装ね」 図書カードがやけに売れる月末の昼。今度はサングラスをかけた常連の老紳士だ。レジを打とうとしたら「あと1500円を7枚」と言われた。 「1500円のものはございませんが」 「知ってる。だから1000円と500円を1枚ずつで7組」 ならば「1000円を10枚、500円を12枚」と伝えてくれる方が助かる。組み合わせは包む段階で教えてくれればいいのだ。 会計を済ませ、販売表にレシートのリプリントを貼りつけた。

ハードボイルド書店員日記【175】

出勤の日に寒気が戻る 「いらっしゃいませ」 「ちょっと面倒なこと訊いていいかしら?」 「ど…

Y2K☮
1か月前
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ハードボイルド書店員日記【174】

「これはおかしいでしょ」 4月並みに気温が上がった休日。昔の職場へ足を運ぶ。某スーパーマ…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【173】

書店の1日は荷開けから始まる。 雑誌と新刊、そして補充分。雑誌は付録を付けて棚に出す(コ…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【172】

「ない? ああそう」 閑散期の平日。しかし荷物は多い。先月ひとり辞めたから尚更そう感じる…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【171】

若い人の本離れ。 嘘だ。いまも新潮文庫の太宰治「人間失格」と「ヴィヨンの妻」が売れている…

Y2K☮
2か月前
35

ハードボイルド書店員日記【170】

文庫のミステリィフェアが始まった。 国内外の約20点。基本的には担当のセレクションだが、他…

Y2K☮
2か月前
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ハードボイルド書店員日記【169】

「そんなに厳しいの?」 折り終えたカバーをカウンターの下へ仕舞い、メンターが微笑む。四六判のハードカバー用だ。芥川賞と直木賞が決まると、減る速度がシャア専用に変わる。発表は1月17日の水曜だ。 11坪の町の本屋。かつて指導してくれた人がひとりで支えている。いまでも店長としか呼べない。心の中では永遠にメンターだ。 「ですね。またひとり辞めるし」「ここもいつまで続けられるかわからんけど」「やっぱり厳しいですか?」「見ての通り」世の中が平常運転に戻った平日の午後。客は私しかい