「神田古本まつりで出会った一冊」&「先人たちの教え」
今年も↓に行きました。大満足。
入手済みなので買いませんでしたが、毎年のように村上春樹さんの「村上朝日堂 夢のサーフシティー」(朝日新聞社)を見掛けます。それだけ売れるということでしょうか? 再販したらいいのにと思わなくもない。安西水丸さんとの対談(というか雑談)が収められた付録のCD-ROMを定期的に再生してニヤニヤしています。
さて、では今年出会って購入した本を一冊紹介させてください。
刊行は2005年です。版元は太田出版。
・日本の作家であること
・2003年12月31日以前の刊行であること
・最低限、店頭の棚に1冊は収まっていること
・文庫版、軽装版、品切れのタイトルは除くこと
・今後10年は売り続けてみようと密かに思っていること
以上を満たすロングセラーを、全国の書店員が紹介するブックガイドです。現在は本を出すなどして有名になった方がちらほら。同じ職場で働いたことのある先輩もいました。当時は仕事ができて家族思いという印象でしたが、ここまでユニークな人だとは。
ページを捲りつつ「これぞプロの書店員」と何度も頷きました。好きな作家の好きな本を推すだけではなく、新たに担当になった未知のジャンルの棚がどうなっているかを他店へ通って調べたり、話を訊いたりしている。相当数の本を読み込んでいることも伝わってきました。
仕掛けて売り上げへ結びつけるためのテクニックもいくつか。あまり教えたくないのですが、ひとつだけ。
最近発売された東野圭吾「架空犯」(幻冬舎)が頭に浮かびました。単行本で2420円。決して安くない。それでも売れるのはさすがですが、実は併売している同シリーズの「白鳥とコウモリ」(幻冬舎文庫)の方が好調なのです。特に上巻。
読んでみたい。でもいきなり単行本は。あ、同じシリーズの文庫がある。じゃあ試しにそれを。裕福ではないひとりの本好きとして、その気持ちはよくわかります。
昨年、東野さんの「あなたが誰かを殺した」(講談社)が出た際に「同系統の既刊を一緒に並べたら?」と当時の担当に勧めましたが、忙しかったのか実行されませんでした。「どちらかが彼女を殺した」と「私が彼を殺した」(いずれも講談社文庫)です。
併売していたら、三冊とももっと売れた自信があります。すべて抜群に面白いから。どれかを読んだら、絶対残りの二冊が気になるから。
本を買うにはノリとタイミングも大事。実際先日は「架空犯」と「白鳥とコウモリ」上下巻を一緒に購入するお客さんがいらっしゃいました。2年前には見られなかった光景。「読みたいテンションになった時に続巻や同じシリーズの本が近くにあるか?」はけっこう重要なのです。
私が担当するビジネス書でも近い経験をしています。「ザイム真理教」で知られる森永卓郎さんの著書。細かいジャンルの違いを飛び越えて同じ棚にまとめたら、売れるペースが良くなりました。
本社や事務所ではなく、お店の最前線で様々なお客さんと直に接し、激務の合間に棚を作り、休みの日に本を読みまくる書店員の話には心の底から共感できます。盗める技や学べることも多い。一員を自負していますが、この本に出てくる先人たちに比べたらまだまだ修行が足りません。
引き続き精進します。「これは絶対面白い!」古書店で見掛けたらぜひ。