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ハードボイルド書店員が考える「ギムレット」の真意

全日本プロレスの若き王者・安齊勇馬選手が、新必殺技を披露しました。

その名もギムレット。肩車で抱えた相手を、捻りながらパワーボムのように落とす強烈な一撃です。

意味はふたつ。直訳の「錐」は技の外観を物語っています。

もうひとつ。ハードボイルドファンには言うまでもありませんね。

いくつかの訳で楽しめるレイモンド・チャンドラーの名作です。

試合を終わらせ、対戦相手とお別れをする切り札にこの名を冠したセンスが秀逸です。来月25歳になる安齊選手がチャンドラーを読んでいるのなら、ぜひ応援したい。

ハードボイルドミステリィには「大人の男が嗜むもの」みたいな固定観念があります。でも決してそんなことはなく、私が初めてチャンドラーに触れたのは社会人になりたての頃。春樹訳の「ロング・グッドバイ」です。私立探偵フィリップ・マーロウの挑戦的なキャラクターと洒脱なセリフに惹かれ、シリーズを制覇しました。

ところで、同作に出てくる有名なセリフをご存知でしょうか?

そう「ギムレットには早すぎる」です。今後、勝ちを焦った安齊選手に「まだ早いぞ!」という受け狙いの野次が飛ぶことは十分考えられる。

ただ心配はしていません。それも彼の覚悟の一部だと思うから。

わずか1年半のキャリアで三冠王座を獲得。「早すぎる」みたいな声は当然聞こえてきます。本人がいちばんわかっているでしょう。だからこそ、代名詞となるフィニッシャーにあえてギムレットと名付けた。そこに込められた「安齊勇馬は早すぎない」という断固たる反骨心が真意だと感じています。

全日本プロレス、久し振りに会場で観たくなりました。安齊選手のファイトに声援を送りつつ、必殺技を回避された際は客席でくだんのセリフをつぶやきたい。それも含めて楽しみです。

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