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【道教に通ずれば、石を食べられるようになる!?】韋応物のファンタジーな漢詩に迫ります。


真相は『晋書』にあり。

『晋書』とは、唐の太宗の詔によって
房玄齢らが記した晋代の正史です。
『晋書』は紀伝体で書かれています。

紀伝体とは…

・本紀(皇帝や王などの支配者に関する出来事を時系列で記述したもの)

・列伝(国に仕えた官僚や家臣の一生を記述したもの)

・志(天文や地理など、分野別の歴史を記述したもの)

・載記(各地に割拠した自立勢力を記述したもの)

等々から成る歴史書式である。

『晋書』巻95 列伝第65芸術に、
鮑靚ほうせいという人物の記述があり、
鮑靚は天文学や占いの分野に秀で、仙人陰君より
道教の奥義を授けられたという伝説があります。

鮑靚は5歳の頃、両親にこう語りました。
「前世は曲陽の李家の子供で、9歳のとき井戸に落ちて死んだのです」
両親は李氏を探し出し訪ねてみると、すべて鮑靚の言う通りだったと言います。

鮑靚は勉学に励み徐々に昇進していき、
南陽中部郡尉になり、
南海太守を務めるまでになりました。

鮑靚は郡内の視察のため航海に出た際、
大きな風に襲われ、船が遭難します。
一行は飢えに苦しみますが、
鮑靚は白い石を取り出し、煮詰めて食べたことで
事なきを得たそうです。

今回紹介する漢詩は、この話が元になっています。

それにしても、
歴史書という堅苦しい文章の中に
このようなファンタジーがあるなんて
面白いと思いませんか?

いや、もしかしたら
ファンタジーではなく、実話かもしれませんね。


鮑靚の話しを交えた漢詩が気になった方は、
よければこの後もお付き合いください。



韋応物いおうぶつ全椒ぜんしょう山中の道士に寄す

寄全椒山中道士
韦应物
今朝郡斋冷,忽念山中客。
涧底束荆薪,归来煮白石。
欲持一瓢酒,远慰风雨夕。
落叶满空山,何处寻行迹?


【書き下し文】

今朝こんちょう郡斎ぐんさい冷やかなり
たちまおもう山中のかく

澗底かんてい荊薪けいしんつか
帰り来たって白石を

一瓢いっぴょうの酒をして
遠く風雨のゆうべを慰めむと欲す

落葉 空山に満つ
何処いずくにか行跡ぎょうせきを尋ねむ


【日本語訳】

けさ郡斎のさびしきに
ふと山中の人思う

谷間におりて薪とり
飢うれば白き石を煮む

雨かぜの夜やいかならむ
われ一瓢の酒もちて
君訪ねむと思えども

落葉は山にしげくして
いずくに君の行方尋ねむ


【解説】

当時滁州(安徽省にかつて存在した州)
の刺史だった韋応物。
ある秋冷の朝、ふと山中の道士をおもい
訪ねてみようかと思います。
しかし、気ままに暮らしている道士なので
会えないかもしれないと思い、この詩を贈りました。

今朝郡斋冷,忽念山中客。

「郡斎」とは、役所で働く人のための宿舎。
「冷」は、気温ではなく寂しさを指す。
「忽念山中客」は、ふと山中の道士を思い出すこと。


涧底束荆薪,归来煮白石。

「涧底」は谷川、「荆薪」は薪のこと。
「煮白石」は晋書より、白石を取りて煮てこれを食らい、以って自ら救う。の意味。


远慰风雨夕。

君を訪ねて、風雨の夕方の物寂しさを慰めようと思った。


落叶满空山,何处寻行迹?

人のいない山は落葉であふれている、
一体どこへあなたの行方を尋ねたら良いのだろうか?


韋応物は山中の道士を鮑靚にたとえ、
落葉だらけの山でも
きっと飢えることはないだろうと、
道士の清廉な心に敬意をはらう表現をしています。




三国志ファン必見の『晋書』

中国でも日本でも、
かつて『占い』は国を左右する重要な分野でした。
『晋書』では、鮑靚意外にも、
陰陽に通じた陳訓の列伝が存在します。

鮑靚の話が興味を引くものだったので、
他の人物の話も気になりますよね。

また、この『晋書』。
皇帝や王の記述がある本紀は、
司馬懿からスタートします。

司馬懿といえば三国志の影の勝者。
三国志のその後を知ることができるというのは、
三国志ファンにとっては胸熱です。

さらに載記は、
周辺の権力者・諸外国を記述したものなので、
晋代から五胡十六国に至る流れも読み解くことが
できるかもしれません。


私は、韋応物の漢詩を調べる中で
『晋書』を知ったので浅い知識しかありませんが
中国史に詳しい方は『晋書』をどう見ているでしょうか?
ぜひご意見を伺いたいです!



ここまでお読みくださり、
ありがとうございました!


参考書籍
中华书局经典教育研究中心:唐诗三百首诵读本(插图版) (Chinese Edition)

もしもこの記事を読んで、
漢詩に興味を持ってくださった方は
ぜひこちらも覗いてみてください。

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