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価値ある「退職分析」のはじめ方

「退職」は人事や経営の方々の注目が高い事象で、本noteでもよく取り上げるテーマでもあります。退職率15%の世界びっくり退職をなくしたいなどでは、ちょっといつもとは違う観点から退職について書いてきました。

退職を防ぎたい、そのために何をしたら良いのか、については本noteでは言及できてません。ですので、今回は価値ある「退職分析」の始め方として、退職分析を行う際に必要な観点について書きます。

「退職分析」はなぜ難しいのか

退職分析については以前、退職分析はなぜ難しいのかというテーマのnoteを投稿しています。

「退職分析」が難しい要因として、

  • 退職分析自体の目的が不明確

  • 分析後のアクションが難しい

  • そもそも退職に関わるデータの取得が難しい

という3点をポイントとして上げました。

まず1点目の「退職分析の目的」について。「退職分析の目的は退職を防ぐことでは?」とシンプルなように見えますが、実は起点(誰からの依頼、発案か)によって目的がコロコロと変わるという厄介なものです。例えば、経営から現状把握を依頼されているケースもあれば、人材組織開発が退職につながる潜在的な課題を見つけ、根本から解決したい、というケースもあります。

経営が退職の現状を把握できるような、退職率の推移や退職の多い部署やセグメントがわかる資料を作るのか、退職を抑止するための具体的な人事施策を企画するのか、など分析の結果をどのようなアウトプットとするのか、をあらかじめ設定しておくと、目的が明確になるため退職分析がスムーズに進みます。

次に2点目の「分析後のアクションが難しい」という話。退職を抑止するために効果的な人事施策を設計するには、退職者の「共通点」を見つけ出す必要があります。しかし、退職する人たちの退職理由は仕事のことからプライベートのことまで多岐に渡るため、退職理由を深堀りしていっても共通点を見つけること自体が難しいです。退職を防ぐアクションを取ろうにも、共通点が見つからなければ、個別に対応するしかない、ということになります。

3点目の「そもそも退職に関わるデータの取得が難しい」は、退職面談やアンケートを使っても、退職に至る従業員から退職理由や原因を聞き出すことが難しい、というものです。そもそも退職理由を話してくれなかったり、話してくれたとしても、再雇用の可能性など会社との関係性を考えるとホンネを出してくれなかったり。

この3つのポイントを踏まえたうえで、「退職分析」について考えます。

価値ある「退職分析」を行うためにやること

「退職分析」を行う際、私が気をつけているのは次のポイントです。

  • 退職のあるべき姿を作る

  • 退職要因をアクション軸で分解する

  • 退職要因を「きっかけ」と「蓄積」に分解する

これを意識するだけで、経営や人事が「次に何をしたらいいか」が見える退職分析、価値ある「退職分析」を行うことができます。

退職のあるべき姿を作る

まずは退職分析の目的を明確にするためにも、スタート地点として「退職のあるべき姿」を作るのが良いと思います。

「退職」というもの自体、人事や経営にとって「良くないもの」と感じてしまいがちです。これは、退職が「何か会社が悪い状態」を表すバロメーターのように見えてしまうことが要因としてあります。当たり前ですが、ハラスメントなどあってはならない理由で起こる退職はなくすべきです。

一方で、「個人のキャリアの指向性と今の会社のフェーズや方針が合わない」、「個人のライフスタイルの変化による働き方の価値観が変化する」、といったことでも退職は起こります。こういった退職を、人事や経営がどう受け止めるか、を改めて考えることも大事です。

そこで、会社として「退職にどう向き合うか」の立ち位置を決めることが必要です。例えば、退職に向かう立ち位置としては以下のようなものがあります。

「退職にどう向き合うか」の立ち位置の例

どちらの立ち位置が正解か、は企業や組織によって異なります。現在組織が置かれている環境や、中にいる従業員の方々を思い浮かべながら、どういったスタンスを取るべきなのか、を決定します。

その立ち位置に合わせて、次に目指すべき「退職率」を設定します。「退職率は何%が適切なのか」、「どういった観点で退職率を追うか」を決めます。そして現状の退職率のギャップを可視化することで、何を分析するのか、の目的が明確になります。

「退職にどう向き合うかの立ち位置を決める」「目指すべき退職率を設定する」、これらが「退職のあるべき姿を作る」ということになります。

退職率が何%が適切なのか、については「退職率15%の世界」「早期離職をは何%が適切なのか」などのnoteを参照してください。

退職要因をアクション軸で分解する

「退職分析後のアクションが難しい」という問題を解決するために、退職要因をある観点で分解・整理することをおすすめしています。それは、

会社または人事が対応できるものかどうかで分解する

というものです。私が退職分析を行う時、退職要因を以下のように分解して整理します。

退職要因の分解

退職要因を「エンゲージメント要因」「市場価値要因」「外的要因」と3つに分解してますが、それぞれを「会社が対処すべき要因」「会社が対処すべきか、意思決定が必要な要因」「会社が対処が難しい要因」として捉えています。

エンゲージメント要因は、会社と従業員との期待値による信頼関係が崩れ、エンゲージメントが低下し、退職につながる要因を指します。主に、従業員が会社や組織に対して持つ期待に対し、会社がその期待に応えていないことがあります。従業員が持つ期待が正しいのにそれに応えられてないこともあれば、そもそもその期待自体が間違っているケースもあります。

適切な人事施策により期待に答えたり、メッセージングによって期待値を醸成したりなど、会社が何らかの対処をすべき要因となります。

市場価値要因は、会社で支払っている報酬や待遇と、従業員自身の市場価値のバランスが崩れて、退職に至る要因を指します。たとえどんなにエンゲージメントが高い従業員でも、市場価値との大きく乖離していれば退職する可能性があります。

この要因の難しいところは、従業員の市場価値は現在在籍している会社で発揮しているパフォーマンスだけでは決まらない、ということです。会社自体のブランド、役職、職種の希少性など、市場価値自体は一企業としてはアンコントーラブルです。

そのため、会社が対処することはできるが、対処するかの意思決定が重要な要因になります。「市場価値に合わせて報酬を見直す」、という選択肢もあれば、「流動性を認めて対処しない」、という意思決定もありえます。

外的要因は、会社とは直接関係ない事象により退職に至る要因です。例えば、パートナーの海外転勤や親の介護などの家族の事情や、現在の会社では提供できない夢にチャレンジする、などといったものです。会社としては歩み寄れる部分もありますが、原則会社として対処することが難しい要因になります。

退職要因をこういった観点で整理すると、アクションを行う/行わないの判断がやりやすくなります。

退職要因を「きっかけ」と「蓄積」に分ける

退職面談やアンケートなどを使って退職者が「なぜ退職したのか」の情報を集めることがあります。ハラスメントなど明確な理由でない限り、こうして集めた情報にはいくつかの複合的な要素が絡まっているケースが多いです。

こういった複合的な要素が絡まっている場合には、「きっかけ」「蓄積」という観点で分解・整理することができます。

例えば、次のようなケースで分解してみましょう。

退職者1の退職理由

この場合、「きっかけ」は「外部からの勧誘」ですが、「蓄積」していたものは「キャリア」についての不満です。

もう一つケースを考えてみます。

退職者2の退職理由

この場合、「きっかけ」は「評価」ではあるものの、「蓄積」していたものは「同僚との関係性」についての不満です。

それぞれのケースを見ていただければわかると思いますが、本質的に解決するべきは「きっかけ」ではなく「蓄積」にあたる要因です。退職面談では、「きっかけ」要因しか聞けないケースがあります。そこを起点に退職抑止の施策を行ったとしても、根本的な退職抑止にはなりません。

一方で、「蓄積」要因にこそ退職者の「共通点」が隠れていることが多いです。また、これは現在在籍している社員も抱えている不満点である可能性も高いです。こういった「蓄積」要因を把握するために必要なデータを収集するためには、退職時の面談よりも定期的なエンゲージメントサーベイを実施することが有効な手段となります。

まとめ

繰り返しになりますが、価値ある「退職分析」を始めるために、以下の3つの観点が有効です。

  • 退職のあるべき姿を作る

  • 退職要因をアクション軸で分解する

  • 退職要因を「きっかけ」と「蓄積」に分解する

「あるべき姿」というスタート地点と、要因を分解するための「軸」が明確になれば、集めるべきデータは何か、どのように集計・可視化するか、など分析設計が可能となります。退職分析のデータ取得の手段としても、在籍社員のエンゲージメントを向上するためのエンゲージメントサーベイが有効です。結局は退職抑止のために行う分析と、在籍社員のエンゲージメント向上するために行う分析は近い関係性にある、とも言えます。

より詳細な退職分析についてはまた別の機会にこちらのnoteにて書きたいと思っております。WorkTech研究所へのご相談や、noteへのリクエスト等ございましたらお気軽にお申し付けください!

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